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ダンジョンの魔物使い  作者: 佐藤龍
第二章 林間学校と災厄
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4話 『夕食はバーベキュー』

 掃除が終わった後、生徒達は夕食のためにロッジ近くにある食堂に向う。食堂といっても観光客を目的としての場所で、雨風を凌げる物は屋根しかない。

 食堂は横に長い机に、背もたれのない横に長い椅子。それが幾つも並んでいる。机の上には小型のバーベキューコンロが置かれていて、六人間隔で焼けるようになっている。

 

 そのバーベキューコンロの近くに、焼くための食材が机の上に並んでいて、掃除が終わった生徒達がそれを見て愕然とする。灰も見た時、え? と目を窺ったものだ。

 

 肉が、少ない……。

 

 食材は野菜や焼きそばの麺があるのだが、大事な肉が少ない。それはもう全生徒が一切れ二切れ、食べれる程度だ。

 よく考えれば、一年生全員が食べるためにバーベキューをするのだ。何かあるはずだ、そう思えば良かった。

 バーベキューといえば、やはり肉だ。そんな理想が崩れ落ちた瞬間だった。

 

 現実から突き落とされたような感覚を味わいながらも、灰は椅子に座る。環境整備が終わった生徒達も続々と現れ、椅子に座っていく。それはグループ事であり、灰は彼の姿を見た瞬間に気づく。

 

 それは同じグループの管だ。彼はよく食べる少年であり、それに見合うように身体が大きい。太っている、といってもいい。

 彼が同席している以上、今回の食事は戦争に変わる。

 獣のように唸り声を上げる、そんな気さえするほどの気迫を出す管の左隣に座った灰は暑苦しく感じ、そそそッと少しばかり距離を開ける。

 

 正面にいる直人が灰に憐憫の視線を送り、そんな風に見られてもう乾いた笑いを浮かべるしかなかった。既にもう、灰はこの戦争に白旗を上げているに等しい。

 平和主義者の灰はこの戦いから降りており、戦争は六人から五人になっていた。

 

 しかし、誰も管の獣ような圧に引き気味で、勝負は目に見えていた。だが、管はまだ動くことはない。まだ夕食が始まっていないからだ。

 夕食全生徒が集まってから始まり、それまで管の口の端から涎が垂れており、犬が待てされているように待ち続けている。

 

 それを見て灰のグループ、管を除いた五人は引いていた。口を引きつらせていて、目の端がピクピクと小刻みに動いたり。

 早くに来た灰のグループは、それだけ管が待ち続けているという事。待ち続ける管が腹を空かし、お腹から音を鳴らし、早く初めてあげてと思うほど憐れだ。

 

 腹の音は次第に大きく、灰のグループからその周りへと徐々に広がり、その音を聞いた人は皆同じ気持ちになる。

 管は腹を空かせてゲッソリとした顔になりつつあった時、生徒が全員集まり、ようやく夕食が始まった。

 教師が代表して何やら喋っているが、灰のグループはそれ所ではない。管が気になって仕方がない。

 

 グルルルル、と獣の唸り声を上げる管は、教師の戦争の宣言がするのを待ち続けていた。まだか、まだか、と待ち続ける管は神経を研ぎ澄ませる。いつ戦争が始まってもいいように。

 教師の言葉が右から左に受け流していると、戦争は始まった。

 夕食のバーベキューが始まり、途端に周りが騒がしくなる。

 

 肉や野菜を焼き、その匂いが空かせた腹を刺激し、さらに空腹に陥るような気がした。みんながワイワイと楽しむ夕食をしている間に、灰のグループは夕食という言葉二文字で済ませるほど生易しいものではなかった。

 

 管が肉体に見合わぬ俊敏さでトングを掴み、バーベキューコンロの火力を最大にし、コンロの中央で肉を焼き始めた。その裏で、灰はいそいそと野菜を端の方で焼く。

 肉の焼ける音を聞きながら、ひっくり返し、十分に肉が焼けた頃、直人が焼いた肉を取ろうとした時だ。箸が肉に触れるよりも先に、トングに触れた。

 管がガードしたのだ。

 

 俺の肉だ、と言わんばかりの圧、眼光の管に直人は怖気付き引いた。もし似たような事をされれば怒るのは当然だが、腹を空かせた管がどれだけ待ったか知っているため、怒るよりも先に憐れんでしまう。

 食事が好きな管が、あれだけ待ったのだ。悲しすぎて、許してしまう。焼いた肉を食べ、死にそうだった管は生き返ったかのように至福な笑顔を浮かべる。それを見るだけで、ああ良かった。これで安心食べれると、灰も野菜オンリーのバーベキューを楽しんだ。

 

 夕食が終わった後に入浴施設でお風呂に入るのだが、生徒が多いために入浴時間は決まっている。灰達の入浴は後半であり、それまでは雑談をして時間を潰す。

 その頃には管も正気に戻っていて、謝罪を述べた。ある程度仲がよくなった頃、入浴の時間となったので入浴施設に向かう。

 服とタオルを持って入浴施設に向かう。夕刻の時間はとうに過ぎ去り、外はもう真っ暗だ。

 最後尾を歩く灰は前にいる直人の後を追いかけていると、突然霧が足元を隠した。

 

 なんだ? と突然の事に灰が訝しげに辺りを見渡していると、景色は一変する。早朝のように明るく、木々の隙間から光りが漏れ出し、暗さはどこにもない。

 全く別の場所に飛ばされた、灰の直感がそう囁く。

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