3話 『スライム』の検証 1
スライムはプルプルと身体を震わせていて、可愛い。癒し系の動物のようだ。
触るとつるつるでヒンヤリとしている。持って帰りたいがそれは出来ない。
テイムして無害だからといって、それを世界ダンジョン管理機関≪WLMO≫が許してくれるはずがない。テイムしているから安全です、と言っても信用はしないだろう。
もし、灰が冒険者として知名度があり有名であれば、信じてくれるかもしれないが、今の灰は冒険者として一ヶ月しか経っておらず知名度は皆無。
スライムを隠す手段を灰は持っておらず、バックも大きめのを持ってきていないためスライムを持って帰るという事もできない。
このままダンジョンに置いておいても、他の冒険者に倒されるかもしれない。スライムが嫌われていて、倒す人が少ないがいないという訳ではない。それに、テイムしたスライムが他のスライムに狙われる恐れもある。
どうしたものか、と悩んでいるとスライムが主人の悩みを解消するかのようにプルプルと震えていると、身体が粒子の光になってポケットの方に吸い込まれていく。
そのポケットの中にあるものは、スマホだ。
スマホを素早く取り出して電源を入れると、一つのアプリにビックリマークが付いていた。
そのアプリはWLMOが作った冒険者専用のアプリであり、近くのダンジョンや依頼、臨時の仲間を募集したり、あとは掲示板もあり、身分証を持たなくてもこのアプリがあれば代わりになる。
マイページまで移動すると、一つのタブが生まれていた。
『テイム』という言葉をタップするとタブが開き、テイムした魔物が出てくる。
それは先程テイムしたスライムだ。スライムが消えた状況、そして今までになかった新しいタブ。それは一つの答えだ。
ここに戻る、ということなのか?
詳しい事は分からない。だから調べたい所だが、もう聖水の手持ちもない。
帰らなければ、スライムに武器や防具を溶かされて一巻の終わりだ。幸い、スライムの動きは遅いため逃げる事は容易い。
それに、もうそろそろ夕刻だ。冒険者を副業としている社会人が中に入ってくるし、帰らないと家に着くのにだって時間がかかる。
灰は調べたい気持ちをグッと堪え、ダンジョンを後にした。
その日の終わり、聖水で倒したスライムの魔石を換金して家に戻った。
お風呂に入り、夕食を食べ、夜の勉強をする前に一つ、検証としてスライムを呼び出す。
「でてこい」
呼んでみるが、スライムは目の前に現れない。
ダンジョンの外だと現れないのか?
そんな事を考えていると、スマホが振動する。開くと、冒険者アプリに一つのウィンドウが表示されていた。
『テイムした魔物の信頼関係が一定値ではないため、呼び声には反応しません』
信頼関係を築けば、呼ぶだけでスライムは出てくるようだ。
そうなると、その信頼関係が一定以下の時に呼び出す方法が気になる。
テイム欄にあるスライムをタップすると、ステータス、そして召喚という選択肢が出た。
なるほど、これで出るのか。
呼び出すのにわざわざアプリを開く、というのは明らかに手間だ。緊急の場合、スマホを開く余裕すらない。
早急に信頼関係を築いていく必要がある。
テイムしたスライムを早速召喚しようとするが、タップする一歩手前で指の動きが止まった。
召喚よりも先に、ステータスという言葉が気になったのだ。
冒険者にステータスという類はない。だから、スライムがどういうステータスをしているのか、非常に気になる。
スライムを召喚するよりも先に、灰はステータスを確認した。
ステータスには魔物名、そして名前。さらにステータスで重要な数値、力や防御、素早さ、さらにはスキルなんかも表記されている。
「魔物名はスライムで、名前欄は空白か。付けることはできるんだな。それでステータスは……体力、魔力、膂力、頑強、器用、英知、ね。頑強以外Fかよ。それで唯一の頑強がC。これは防御力ということか?」
戦ってみて分かったが、スライムのあのボディは硬いというよりも柔らかくて衝撃が殺されてしまう。
そういう意味で頑強がCなのだろう。
下にスクロールし、スキルを見るとあるのは一つだけ。溶解液という三文字だ。
これは武器や防具を溶かす、スライムが吐き出すアレだろう。
ぶっちゃけて言えば、弱い。身に守り一点集中の結果、冒険者から嫌われる存在になっているのも納得だ。
流石に冒険者なりたてで頑強Cを越えることは不可能、ということ。だが、他がFという事を見ると、Fなら相手を出来る。
スライムを相手にして分かった、攻撃が遅くて避けるのは容易。
一番最初にスライムをテイム出来て、良かった。お蔭で、自分がどの程度やれるのか、把握ができた。
それならさらに下の階層に行くか、というと少し違う。
まずはスライムの実力を知りたい。
そのためにもまずは、地下一階でスライムと一緒に実験だ。
その日の夜は明日が楽しみで、ワクワクして眠るのが遅かった。
翌日の朝、灰は朝食でパンを食べる。親や兄弟がいれば準備してくれるかもしれないが、灰には一人っ子で両親はここにいない。
事故でいないという訳ではなく、親は今外国で生活している。
父が海外に赴任する時、母がついて行ったのだ。一人だと生活できない、と言って後を急いで追いかけた。
そのお蔭で大金を置いてくれた為、冒険者になることができたので不満は言えない。
まあ、そのせいでもうお金がなくて冒険者として稼がないといけないのが世知辛かった。
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