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ダンジョンの魔物使い  作者: 佐藤龍
『テイム』
22/111

22話 四層にいる『化け物』2

 翌日、灰は準備をしていた。これまでにない激戦になるのは目に見えていた。怪我もするだろう。だから、回復ポーションなどを準備する。

 真由に手伝って貰えれば百人力なのだが、今回は灰自身の力で解決しなければならない問題だ。頼る事は出来ない。

 

 スキルの確認も済んだ。武器や防具の整備も万全、いつでも行ける。全ての準備を終えて、灰はダンジョンに臨んだ。

 第四階層まで降りると、なんとも不吉な圧を灰は感じた。心を圧迫するような何とも言えない空気を感じながら、正規ルートを外れる。こちらから探さなくても、あちらからくるはず。

 

 ゴブリンとハロンドの混成集団と数度戦いながら、プレッシャーを感じた。息が詰まるように胸が苦しくなり、それが殺気だと気づいた灰は振り向いた。

 のし、のしと何か大きな物が近づく足音を聞きながら身構えるとそれは現れる。

 

 ダンジョンの道を圧迫するほどの巨体。のっぺりとした顔で、オオサンショウウオを大きくしたような魔物だ。前に感じた時よりも強烈な圧を感じ、灰は知らず内に後ろに一歩下がろうとしていた。

 身体が竦んでいる? 本能が勝てないと訴えている。だが、これは勝たなければいけないんだ! 逃げるわけにはいかない、と灰は自らを震え立たせる。

 

「フォーメーションAだ。それで相手の出方を確認するぞ」


 スラ参が灰に飛びつき、盾まで移動する。ヤークトはその後ろで、様子を窺う。灰が前に出ると、オオサンショウウオの魔物は反応するように突撃した。

 まるでトラックのような突撃に、灰は避けることなく敢えて受けた。腰を落とし、吹き飛ばされないようにする。

 

「スラ参ッ!!」


 名を呼ぶと、反応したスラ参も灰と同じように耐えるように心構えをした直後、正面からぶつかった。あまりの衝撃に灰は吹き飛びそうになるのを、なんとか堪える。体重を落とし、吹き飛ばされないようにした。

 

 灰は吹き飛ばず地面を擦りながら下がると、サンショウウオの魔物は頭を灰の下にめり込ませて振り上げた。腰を落としていても持ち上げられ、宙に浮いたせいで無防備だ。

 ただ下へ落ちる未来しかない。

 

 その落下地点には、サンショウウオの魔物が鋭い牙を持つ大きな口を開き、待ち構えていた。灰が食べられるのを防ごうと、ヤークトが立ち向かう。

 側面に回り込んで爪で肌を斬り裂くも、分厚い皮膚に守られているせいか血を出すだけで致命傷を与え切れていない。爪が駄目ならと、ヤークトが噛みついた。

 噛みついて皮と中の肉を引き千切り、その場に吐き捨ててまた噛みつく。自分の身体を千切られても、サンショウウオの魔物はヤークトを構わず灰が落ちる下で口を大きく開いている。

 

 このままいけば、灰は食べられて一巻の終わりだ。空で移動することも出来ない。だから、灰は選択した。

 

「スラ参ッ!」


 灰は盾を捨てた。それはスラ参を見捨てると同義だ。

 落ちた盾は、サンショウウオの口の中に吸い込まれるはずだった。スラ参が何もしなければ。

 スラ参が口の中に落ちる直前、身体を爆発させるように伸ばして、貼り付いて口を塞ぐ。閉じることも開くことも出来ず、サンショウウオの魔物はもがき、灰が張り付いたスラ参にくっついている盾に着地し、サンショウウオの魔物から離れる。

 

 もがくサンショウウオの魔物に、なんとか噛まれまいと抵抗するスラ参。互角の攻防のように見えた戦いも決着がついた。

 オオサンショウウオの魔物が口に力を込めると、小刻みにだが顎が動く。次の瞬間、盾を牙でかみ砕き、スラ参を飲み込んで仕舞う。

 灰はスラ参を失い、ヤークトだけになってしまう。スラ参が食べられた事で、ヤークトもその場から一時離脱する。あのまま攻撃していれば、攻撃されて巻き込まれてしまう。ヤークトが灰の側まで寄り、戦いは不利になりつつある。

 

 だが、灰は不敵な笑みを浮かべるだけだ。

 

「フェーズ1は無事に終了、次はフェーズ2だ。ヤークトが頼みだ。行くぞ!! ONE FOR ALL≪一人は皆のために≫」


 灰はスキルを発動する。

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