20話 『灰の持つスキル、魔法』
家に入った灰は真由を自室に案内した。
お茶を二つ用意すると、真由は置いたお茶をすぐに飲む。ついさっき入れたばかりなのに、もう三分の二がなくなっている。
それほど、真由の喉が渇いていたのだ。灰を待って外にいるのが長すぎたせいもあった。
乾いた喉を潤わせた真由は、
「灰がまず覚えるべきは、必殺技なの」
開口一番は、やはりその言葉であった。彼女が必殺技だと言うのは、灰も納得はできる。今の灰のパーティーに足りないものは、決定打だ。だからこそ、真由は必殺技を求めているのだろう。
ただ、それよりも気になる事があった。
「あの、真由――」
「師匠よ、師匠と呼びなさい」
あ、これ駄目なやつだ。師匠と呼ばないと話が進まないと理解した灰は、渋々ながらも真由の事を師匠と呼ぶことに決めた。
「それで師匠。どうして家に来たんですか?」
「簡単よ。灰に必殺技を教えに来たの」
「さっきも聞きました。俺が聞きたいのは、師匠の本音を知りたいんです」
灰が聞きたいのは、真由がわざわざ教えに来る理由だ。わざわざ教えてくれるのはありがたいが、どうして教えるのか知りたい。簡単に教えてもらって、後で交渉に使われるのは御免だ。
少しばかり灰が警戒していると、真由は深くため息を吐く。
「私の思惑を知りたいわけね」
コクリと灰は頷いた。
それを見て、真由は少しばかり俯いて、何やら思案するような顔を浮かべる。彼女はどこまで話せばいいのか、考えていた。
灰とは会って間もない。時間にしても半日も経っていない。彼を信じられる材料がなく、あるのはネームドという互いが共通している事だけ。
敵になるかもしれない、と考えると深く話す事ができず、真由は話せるだけの内容を口にする。
「私達は力が必要なの。そのためには新たな戦力も必要不可欠」
「それが俺なんですか?」
「ええ。ただ、新人も放っておくと死んじゃうでしょ?だから、死なないように助けて上げないと」
真由の言う事が本当なら、灰は凄く有難かった。だが、後にややこしい事が待っているような、そんな気がした。
それでも、灰は生きるためなら真由に助けてもらう事にする。
「そういう事なら、よろしくお願いします」
真由は灰の言葉を聞き、少しばかり嬉しそうな顔をする。嬉しいという感情を隠そうとしているらしいが、隠し切れていない。
「さっきの続きを話すけど、灰はスキルを手に入れたと思うけど、何のスキルを手に入れたの?」
スキルの話になり、灰はどうしようかと戸惑う。
全てを話してもいいが、灰が手に入れたスキルは少しばかり特殊なものだ。冒険者になったばかりの灰でも、全てを話すべきではないと理解した。
「手に入れたスキルですけど、支援系のを選びました。スキルの名はONE FOR ALL≪一人は皆の為に≫。自分のステータスが減少する代わりに、テイムした魔物のステータスが上がるというものです」
「ONE FOR ALL、か。スキルの効果だけを聞けば、テイムした魔物が多いほど強いと思っちゃうけど……」
「そうだったらいいんですけどね、欠点があってこのスキルは分配方式らしくって、テイムした魔物が多いほどステータスの上昇は減ります。それと、元は減少する俺のステータスなんで、俺のステータスの値が高くないとそこまで上昇しません」
効果だけ聞けば強いスキルだが、勿論弱点はあった。それは真由も分かっていたようだ。このスキルを最大限生かすためにも、ダンジョンで戦うのは勿論、外でも鍛えて強くなる必要がある、と灰は感じた。
「そのスキルは強いけど、必殺技にはなりにくそうね」
「必殺技ではないですからね。ただ、それに近いスキルは持ってます」
「どんなスキル?」
興味津々とばかりに尋ねる真由だが、灰は詳しく教えるつもりはなかった。
「秘密です。師匠も前に言ったじゃないか、こういう話はしないものだって」
最初に会った日の、ファミレスでの出来事を灰はまだ忘れていない。それに、このスキルは灰にとっての生命線でもある。話せば、ONE FOR ALLの事もあるため弱点がバレてしまう。
教えなかった灰に、真由は怒り心頭という事はなく、そうと軽く流した。
「話せないなら仕方がない、か。それなら必殺技がある、ということでいい?」
「はい。そう考えてもらっても構いません」
頷く灰を見て、真由は静かに立ち上がる。教えるという目的で来た真由だが、教える事が何もないと分かった以上、ここに長居をするつもりはなかった。
「それなら、私はもう出るわ。また何かあったら連絡するから、それじゃ」
ばーい、とでも言うように手を振って真由は去る。
突然現れて、唐突に去って行く。まるで嵐のような人だと、灰は真由の事をそんな印象を感じた。
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