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ダンジョンの魔物使い  作者: 佐藤龍
『テイム』
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18話 『五階層の攻略』 2

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 背後からヤークトの不意打ち。それはリザードマンも意識していなかったことであり、ヤークトの鋭い爪が背中を大きく抉る。

 その一撃でリザードマンの態勢は崩れ、そしてヤークトも警戒をする必要があった。その隙を灰は見逃さない。

 

 どこでもいい、負傷させようと斬りかかるがあっさりと盾で弾かれてしまう。

 自分の技量のなさに、灰は悔やむがそれを隠して攻め続ける。だが、リザードマンからすれば灰はその程度の実力と判断したのか、注意をヤークトに向けていた。

 

「フォーメーションB。スラ参はヤークトの所に」


 灰は若干ながら無視されているため、ヤークトの警戒度は跳ね上がっている。このままならヤークトの奇襲の成功率は下がる。

 そのためのフォーメーションB。ヤークトとスラ参が組んで、遠距離からの牽制や射撃もできる。それがフォーメーションBだ。

 

 ただ、灰のパワーダウンが否めないが仕方がない。

 スラ参が灰から即座に離れると、近くに寄って来たヤークトに飛び移る。これでフォーメーションBの準備は完了だ。

 再び遠くに離れたヤークトが、背中に乗るスラ参が牽制を始めた。溶解液がべちゃべちゃ、とリザードマンに当たる。

 

 ゴブリンに当たればその肌の表面を溶かしていたが、リザードマンの方が耐性が高いのか、それともスラ参よりも強いという事なのか、溶かせていない。

 しかし、痛みは伴うらしく血走った目でヤークトとスラ参を睨んでいる。その目には、灰の姿が写っていなかった。

 

 少しは主張していかないとな。

 リザードマンがヤークトに襲い掛からないのは、灰と対峙しているからだ。すぐにでも襲い掛かりたいが、スラ参が灰から離れた途端、纏う空気が変わった。

 

 研ぎ澄まされた刃のような鋭さを持ち、触れれば逆にこちらが傷つくように感じたからだ。

 それもそのはず、今までにないほど灰は集中していた。

 リザードマンを真っすぐと見つめ、挙動一つさえも見逃さないとでもいうほど集中していた。

 

 今までにない空気の変わり様に、リザードマンもすぐに攻撃できなかったが、遠くからのスラ参の援護に我慢の限界が訪れた。

 雄たけびを上げたリザードマンは、灰に向かって襲い掛かる。

 先程までは脅威と感じた一撃。もし受ければ、タダでは済まない。スラ参がいたからこそ、受けても衝撃を殺す事ができた。今はスラ参がいない。全て避けないといけない。

 

 スラ参がいないという危機感、そしてその緊張が崖っぷちの灰を駆り立てる。戦いの鬼へと。

 首を断つ一撃。それを灰はしゃがんで避ける。懐に一歩踏み入れ、立ち上がる勢いをそのままに灰は剣を突き立てた。

 狙いは目。右目を突き刺そうとしたが、リザードマンは上半身を逸らした。ただ、避けきることはできず浅く目を斬る。それでも眼球にまで傷を与えられない。


 灰の気迫に、リザードマンは押されて後ろに下がる。襲い掛かっても、灰の後方にはヤークトが控えているからだ。

 態勢を整えようと後ろに下がろうとすると、それよりも先に灰は動いた。

 後ろに下がろうとする動きを見て、地面を蹴った。宙を浮いた灰は、回し蹴りをリザードマンに当てる。

 リザードマンを押し倒し、体勢を崩そうとした一撃だったが、宙に浮いた灰を見て後ろに下がるのをやめた。

 

 盾で灰の蹴りをぶつける。地に足が付いていたのなら、相殺できたかもしれないが、宙に浮いたため身体が吹っ飛んでしまう。

 地べたをゴロゴロと転がりながら、灰は失敗したと自分の犯した致命的なミスに気づいてなんとか起き上がった時、ヤークトが奇襲をしようとしていた。

 

「やめろ、ヤークトッ! 下がれぇ」


 灰はなんとかやめさせようとしたが、ヤークトは止まらずリザードマンに襲い掛かった。

 それは切羽詰まった行動であり、最初の奇襲のように息を潜めた必殺の一撃ではないためか、来ることが分かっていたため反撃されるのは容易だ。

 

 剣で斬られるが、スラ参が庇う。それでも致命傷は免れず、ヤークトは吹き飛ぶ。キャィンッ! と高い声を上げて地面を擦るように滑っていくヤークト。止まった後も身体が動く事はない。

 

「無事か!? ヤークト?」


 倒れるヤークトに声をかけると、身体がゆっくりとした動作で上下に動き、息はしている。

 ただ、返事をする気力がない事は動けないということなのだろう。

 

 リザードマンにとってそれは、恰好の的であり今すぐ潰すべき存在だ。襲い掛かろうとするが、灰が立ちはだかる。

 

「スラ参、生きてるな。ヤークトを連れて後ろに下がってくれ」


 ヤークトから這い出るように現れたスラ参は、身体に纏わりつくと必死に下がっていく。だが、その動きは遅い。

 これからは本当の意味で、リザードマンとの一対一が始まる。

 スラ参の援護射撃はもうないが、布石はもう打った。あとは、その時が訪れるのを待つだけ。

 

 灰は攻めた。今、出来る事はそれだけだ。

 しかし、リザードマンの守りは硬い。盾で全て受け止められ、有効打は与えられない。逆にリザードマンの一撃が、灰を少しずつだが崖の方に追いやっていた。

 このままじゃ、そう気づきながらも灰は防ぎ、そして盾を狙ってぶつけていく。

 

 灰の願いは叶う、それは突然に。

 リザードマンが灰の攻撃を防ぐと、盾が砕け散った。耐久度が完全になくなったのだ。予兆はあった。スラ参の援護射撃、あれは溶解液を吐き出す物で装備を溶かす効果がある。

 戦いの最中、スラ参の援護射撃をリザードマンが盾で受け止めていた。溶解液を浴びたことで盾の表面が溶け、さらに攻撃を受け止めた事で脆くなっていったのだ。

 

 盾を失い、リザードマンは動揺して僅かな隙を見せた。その隙を見逃さず、灰は強襲する。懐に入り込み、間合いを詰める灰にリザードマンは剣で追い払う。

 横薙ぎの一撃を灰は左手で持つ盾を使い、下から押し上げる。それでも身体は斬られるため、しゃがんだ。

 無理矢理進む灰の右手に持つ剣で、リザードマンを突き刺そうと狙っている。それは奇しくもリザードマンが致命傷とは程遠いが、灰から傷つけられた一撃と状況が一緒である。

 

 前回は上半身反らしたが避けきれず、瞼の表面を斬った。今回はそうならないためにも、早めに反らそうとした。それほど、リザードマンにとって灰の一撃は印象的だった。

 それが失敗だと気づいたのは、後の事だ。身体全身をバネのように跳ね上げる灰、そして持つ剣が狙う先、それはリザードマンの胸の中心、心臓だ。

 

 気づいた時にはもう遅い。リザードマンが胸を貫かれたと思うと、身体は霧散した。そして灰の意識が途切れた。

感想を貰いました。正直に言うと、ヤークトのテイムをやり直したい気持ちです。他のテイム方法もあったな、そうするとこのお話が書けるな、と頭の中で色々と膨らみ、自分の力量不足を痛感しました。今後のお話で不都合が生じるかもしれないので、書き換えることはしれませんが、感想を貰い嬉しかったです。

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