16話 『第五階層を攻略するために』 2
魔法。
それはダンジョンのあるこの世界でも、当然存在する。ダンジョンがない頃は、当然魔法と呼べるものは実在しなかった。
だが、突然ダンジョンが生まれ攻略した者の中から魔法を使える者が増えたのだが、使える方法はただ一つ。魔導書を手に入れる事だ。
その形は様々で、巻物や本、一枚の紙だったりする。
また、魔導書全てが高価であり、安くても何百万円もしたりするなど、普通では手が届かないほど高価なのだ。
逆に考えれば、魔導書を見つけさえすれば金持ちにもなれる。
灰は魔導書を求め、冒険に行くと場違いな夢を見てはいない。
いずれ手に入れればいいのだが、まずは無理だ。買うのは高いし、そんな簡単に見つかる訳がない。それに、お金を稼ぐ為にも冒険を続けないといけなかった。
何に対してもお金は必要だ。生活費を稼ぐためにも。
学校が終わった後、ダンジョンに向かった灰は三階層にいた。
四階層に行けば、オオサンショウウオのような魔物とまた遭遇する可能性がある。
だから、灰は第三階層にいる。四階層から三階層に行くためには、正規ルートの階段を上らないといけない。
上る為には他の冒険者にも目撃されるため、来ることは事前に分かる。それまでに、灰は強くなる必要があった。
第三階層に出現するのはゴブリンがほとんどで、新たな戦いを模索する上で丁度良い相手ともいえる。
スラ参、ヤークトを召喚し、いつもならスラ参を身に纏う灰であったが今回ばかりは違う。
ヤークトにスラ参を纏わせた。その理由は、昨夜に見たゲームのワンシーンが参考になった。
ガンアクションのゲームで、上に機関銃を搭載した車が敵を追いかける、という映像を見た。そのシーンを見た時、もしヤークトが出来るのなら強いのではないか、と思ったのだ。
ヤークトは俊敏だが守りが薄く、接近戦しか出来ないため一撃離脱の戦法を取っている。
もしそんなヤークトが遠距離手段を手に入れたとしたら、かなりの脅威となるのは間違いない。
ただ、その手段がスラ参のスキル、溶解液なのだが。
スライムのスキル、溶解液は装備を溶かす事ができるのだが肉体には影響がない。
ただ、それはテイムする前のスライムだった頃の話であり、今はどうか分からない。それを調べるための練習相手だ。
「スラ参はヤークトについてくれ。俺は一人でやる」
ヤークトの側まで移動したスラ参は飛び移ると、背中で形を変える。
それはまるで昨夜に見たのと瓜二つなほどに似ている機銃なのだが、その後に少しばかり形を変える。その姿に、納得しなかったのだ。
再度形を変えたスラ参は、ヤークトの背中に貼り付いたまま、口から銃身を伸ばした姿に変貌した。
先程の機銃その物と比べると、少しばかり可愛らしくなったような気はするのだがそれだけであり、何故再度姿を変えたのか、やはり灰には分からないでいる。
そして三階層に来た目的はもう一つあり、灰は自分の力量がどこまでなのか、知る必要もあった。今まではスラ参に頼りっきりで、自分がどれだけ戦えるのも知りたい。
スラ参なしで戦えるかどうか、今後の事を考えるとやらなくてはいけないような気がした。
「ヤークトはスラ参との連携を確かめてほしい」
スラ参は今まで灰と一緒に戦ってきたが、今後は他のテイムした魔物と協力することがある。今回は最初の第一回として、ヤークトと協力してもらう。
魔物を探しながら、灰はヤークトに索敵を任せて目を瞑った。灰の暗闇の中で、必死にゲームのキャラクターの動きをイメージする。
昨夜の真由の言葉が大体分かっていた。ダンジョンの中では身体能力が上がる。だから、派手な動きも出来るのだがそんな事意識しないとできない。
ふう、と深呼吸をして焦る気持ちを落ち着かせる。
今まではスラ参と一緒に戦ってきた。それが安心安全ではあったのだが、今回はいない。怖いのだ。
素で戦うというのが久しぶりな気がする。
灰の身が恐怖にじわじわと蝕まれていく中、ヤークトが吠えた。その声により灰は意識を戻し、警戒した。
正面からゴブリンの集団が近づいてくる。武器が短剣や剣、こん棒の混成部隊で、武器がボロボロで整備はしていないようだ。
「ヤークトは手筈通り、援護してくれ。俺が行って来る」
わふっ! と、分かったと頷くヤークトは下がっていく。後方からの援護に徹してくれるのだ。
灰は一人で戦うと思うと、緊張してしまう。今まで、一人で戦ってきたのはスライムだけ。二階層のハロンドと戦った事はなく、ましてゴブリンとも戦った事すらない。
ひとっ飛びで下の魔物と戦うのは怖いが、後ろに仲間がいる。逃げる訳にはいかない。下がることもできない。灰は、覚悟を決めた。
灰は前に出る。ゴブリンの数はざっと数えても、十ほどいる。
数の差では圧倒的に不利であるが、灰はそれでも怯えるような事はない。
その背後から、液体の弾丸が雨のようにゴブリンに降り注ぐ。
スラ参とヤークトの、援護射撃である。ヤークトの機動性を保ちながらも、スラ参の射撃がゴブリンを襲う。
溶解液を弾丸のように放ち、ゴブリン達は阿鼻叫喚するような地獄が広がっていた。
スライムが吐き出す溶解液は、武器や防具を溶かす事しかできなかったが、テイムし魔物を倒して強くなった事でスキルの溶解液も、さらに効果が上がる。
皮膚の表面を溶かすほどであり、ゴブリンは痛みでもがいていた。
「これは……」
灰も予想以上の効果であり、思わず声を漏らす。
強い相手に効くかは分からないが、弱い相手には効果が見込める。
もがき苦しむゴブリンに、灰も見逃す事はできず強襲した。剣で薙ぎ払うと、纏めて三体のゴブリンの首が飛ぶ。
残り七体だが、その内三体はスラ参の溶解液で苦しんでいる。他四体がヤークト達を脅威と見なし、襲い掛かる。
だが、ヤークトの機動性の前にはゴブリンは追いつけず、逆に溶解液の的だ。降り注ぐ溶解液だが、突然止まった。
その直後、射線上に灰が立つ。ヤークトを守ろうと、ゴブリンを先回りしたのだ。
したのだが、予想以上にヤークトとスラ参の連携が頼もしい。
目の前に灰が立ち、ゴブリン達は怒りを晴らすようにがむしゃらに突撃してくる。その動きには連携という言葉が存在せず、灰も応戦する。
間合いは灰の方が長い為、剣で斬りつつゴブリンの攻撃を防ぎ、時に丸い盾で顔を殴って怯ませて人数差の有利を減らしていく。
それは凄く地味だが効果的で、ゴブリンの数は徐々に減っていき、時間はかかったがようやく倒しきる。
その間にヤークトとスラ参が残ったゴブリンを倒しており、全て片付けた。
灰は後片付けでゴブリンの魔石を回収する。
ヤークトは口に咥えて手伝い、スラ参も身体を伸ばして落ちた魔石を拾って手伝ってくれた。
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