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ダンジョンの魔物使い  作者: 佐藤龍
『テイム』
14/111

14話『ダンジョンの意思。そしてスキル』 2

「灰が持っているスキル、そして持っている人間を、私達はネームドと呼称している」


「ネームド?」


「そう。特殊なスキルで、進化をするから」


「進化?」


 真由の口から色々と知らないワードが飛び出し、灰はなんとか覚えようとする。

 幸い、ゲームをしていた事で馴染みある言葉のため理解できた。

 

「ネームドと呼ばれるのにも理由があって、進化する事で名前が変わるの。最初の頃は銃者≪ガンナー≫と呼ばれるスキルだった。だけど、進化する事で今は『第六天魔王』と呼ばれるスキルに進化したという訳」


「進化の条件は?」


「強い魔物を倒す事。もしくは、壁にぶつかってその壁を壊した時」


「壁?」


「あなたは出会ったでしょ? あの化け物の事よ」


 諭すように真由は言う。

 彼女にとって、四階層に出て来た魔物は、その位置づけにいるようだ。

 そして、その四階層に出て来た魔物はダンジョンが意思を持って生み出したと言う。

 

「あれは何なんですか? ダンジョンの意思、と言いましたけど」


「言葉の通りの意味。ダンジョンは私達の事を嫌っていて、だから強力な魔物を生み出す訳」

 

「嫌うって、冒険者をですか? それとも俺や工藤さんのようなネームドだから、という事ですか?」


 灰なりに考えての質問だ。

 四階層に出てきたあの魔物の事を、攻略前に調べたがそんな情報は何も入ってこなかった。

 ということは、あれは今まで出てこなかった魔物という事だ。


 それを意味する事は、俺達ネームドを狙っている訳で真由の言う嫌われているという意味も理解できる。

 

「苗字じゃなくて、下の名前で呼んで。苗字は好きじゃないから。それで誰が嫌われるかの理由だけど、灰の予想通り私達がネームドだから狙われるの」


 やはりか。予想が当たっていた事に、灰はそれほど驚かなかった。

 あれだけの魔物だ。見たら気づくし、注意喚起だってする。なのに、その情報が入ってこなかったのはネームドが希少だからだ。

 希少だからこそ、襲われるという情報が少なかったのか。もしくは、死んで情報を残すことすら出来なかったか。

 

「どうしてネームドが狙われるんです? 他の冒険者が狙われないのには何か理由があるんですか?」


 当然の疑問であった。真由の言葉が真実なら、ネームドだけが狙われるのには何か理由があるはず。

 それが解消できれば。そんな淡い希望に縋り、灰は必至だったがその希望は簡単に崩れ落ちる。

 

「理由? 知らないわよ、そんなの。知ってたら私達はもう解決してるもの」


 だよな、と灰は内心分かってはいた。彼女達も冒険者として、かなりの月日が経っているはずだ。それは戦っているのを見たら、薄々と分かっていた。

 そんな彼女が言うのだ、警告してくれるのだ。逃げる事は出来ない。

 

 遠くない未来で、また戦うことになると灰は理解したが、覚悟を決めることは出来なかった。

 冒険者になって二ヶ月未満、一ヶ月以上。たったそれだけしか経っていないのに、あんな化け物と戦えと言われても戦うことは出来ない。

 

 もしこの世が戦国時代のように、命の価値が安かった場合なら戦えたかもしれない。しかし、灰の世界はぬるま湯で命をかける事がないため、覚悟を決められなかった。誰しも、死なない前提でお金を稼ぎたいものだ。

 

「そんな。もう逃げられない、という事ですか?」


 灰は悲しみの籠った声で質問する。

 もしこんな事になるなら、灰は冒険者になる事はなかった。ただ、ゆっくりと冒険してお金を稼いで、という未来が灰にはあった。

 それにテイムというスキルのお蔭で、一人でも寂しくはなくなった。だが、命の危険が迫れば、それも変わって来る。

 出来れば逃げたいという気持ちがあるが、逃げられないのは灰も薄々だが実感していた。

 

「ええ、逃げられないわ。灰はもう戦う運命なのよ」


 彼女の言葉を聞いて、本当の意味で灰は実感する。

 先程まで、雲のようなふわふわとした感じでどこか他人事のように感じていたのだ。それを何度も聞く真由の言葉が雲を石のような重みのある言葉に変わった。

 

「そうですか、そうなんですね」


 灰はふう、と深いため息を吐いて気持ちを変える。

 気持ちは、そんなすぐに変わるわけではない。変えようとする気持ちが大切なのだ。

 

「どうすれば、アレに勝てると思いますか?」


 真剣な灰の質問に、真由の雰囲気が少しばかり変わり、引き締まったように感じる。

 

 今の灰は、あの魔物と戦っても勝てるとは思えない。勝てたとしても、百回の内に五回が良い所だ。

 勝てない戦いから逃げればいい。だが、相手が逃してくれない。灰はネームドだ。狙われてしまう。

 それなら強くなればいいが、灰にはどうやって強くなるのか分からない。ダンジョンで魔物と戦い続ければいいのだろうが、いつあの魔物が襲って来るかもしれないため、迂闊にダンジョンへ入ることも出来ない。

 

「ダンジョンで魔物と戦い続けるしかない、かな」

 

 灰はすぐに強くなるような、という希望を持っていたがそう簡単にはいかないようだ。

 

「知ってる? 魔物を倒し続ければ強くなるのは?」


「はい。噂程度ですが」


 魔物を倒すと身体能力が上がり、普通では出来ないような動きが出来るようになるらしい。ただ、それはダンジョンの中限定でダンジョンの外では発揮されない。


「その噂は事実で、本当に魔物を倒すと強くなる。要はゲームと一緒。弱い魔物ばかりを倒しても経験値は手に入らない。けど、強い魔物を倒すとガッポリ手に入るの」


 今の灰だと最高到達階層は四階層だが、そこには当然あの魔物がいる。どうしようか、と悩んでいると真由の灰の悩みが読めたらしく、

 

「あの魔物が気になるなら、堅実に三階層で戦えばいい。あなたのその魔物、ヤークトだったかな? 匂いは確かなんでしょ? 警戒も出来るし、気づかれる前に逃げればいい」


 真由の言葉を聞いて、灰はなるほど、と納得する。

 事前に来る事が分かっていれば、逃げることは容易い。それに、一度目は来ることが分からなかった。

 だが、二度目。一度遭遇しているため、警戒は出来る。

 

 自分の膝に顔を預けているヤークトが、呼んだとばかりに目線だけをこちらを向けた。その頭を灰は反射的に撫でてしまう。

 

「それでやってみます」


 一筋の希望の光が見え、灰の不安な気持ちが安らぐ。

 先程まではどうすればいいか分からず、混乱していた。

 悩みが消えると、真由は立ち上がってこの家から出ようとする。

 

「もう行くわね、私も暇じゃないし。少し灰にアドバイスだけど、映画や漫画を見るといいわ。私達はあんな動きが出来るようになるから。それと、あの魔物と戦う前に五階層に行きなさい。そうすれば、倒す手がかりを手に入れられると思うから」

 

 そう言って、真由は去る。

 残されたのは灰と真由の二つのカップだけで、女性を家に入れたというのにそんな気持ちにもならなかった。

 

「不思議な人だな、助けてくれたし」


 彼女が偶然、あのダンジョンにいなかったら灰は死んでいた。

 偶然だったなら。

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― 新着の感想 ―
[一言] 企みを全部説明したうえで、知られたからには生きては帰さないとかいう悪の組織みたいw
[気になる点] ダンジョン内の宝箱と中身はダンジョンが用意しているだろうに、 その中身を取ったらダンジョンが殺しに来るのか。 何のスキルを取得出来るかはランダムだからか?
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