13話『ダンジョンの意思。そしてスキル』
真由が頼んだ物はサラダだ。その上にはシーザードレッシングがかかっている。
彼女が頼んだ物はそれだけのため、灰が注文したハンバーグ定食よりも早く届いた。
「それであの化け物の事だけど、灰がどう思っている教えてもらっても良い?」
同級生に近い年上の女性から下の名前を呼ばれ、ドキッと胸の高鳴りを感じながらもそれを必死に隠し、あのオオサンショウウオの魔物の事について思っている事を言う。
「まず、四階層にああいう魔物は出て来ません」
四階層に出てくる魔物はゴブリン、ハロンド、スライムの三種類だけだ。数が多く、連携してくる脅威が四階層の特徴である。
その四階層には、サンショウウオに似た魔物は出てきていない。
となると、残された選択肢は一つ。
「ダンジョンが突然生み出した魔物だと思います」
四階層には出てこない魔物だとしても、ダンジョンが魔物を生み出す。何かしらの理由で、生まれたあの魔物が丁度そこにいた灰を襲った、そう思うことしか出来なかった。
「正解。というか、それしかない。ダンジョンは私達を殺そうとしている」
「ダンジョンが? どういう事ですか?」
「簡単な事よ。私や灰はダンジョンから嫌われるの。言ったでしょ? 私と灰は同類だって」
意味深な言葉に灰は聞きたくなるが、それを聞けば止められるのは何となくだが分かっていた。
だから聞けずに悩んでいると、ふふーんと勝ち誇ったような顔で真由は自尊心を満たす。
「詳しい話は灰の家でしましょう。ここから近いでしょ?」
「自転車でニ十分ぐらいかかりますけど……」
「遠ッ!! 仕方ない。私はバスで行くから場所を教えて」
言われるがまま、灰はスマホのアプリを活用して自宅の場所を教える。教えてすぐ、真由は立ち上がるとファミレスから出て行った。
気づけば既にサラダは食べ終わっており、灰も追いかけようとしたがまだ注文したハンバーグ定食が届いていない。
追いかけように追いかけられず、灰はファミレスの中で足止めを喰らった。
帰ると、真由が家の前に立っていた。
家に着くなり、真由は不満気な顔でこちらに近寄って来る。
「遅い」
「しょうがないじゃないですか! 自転車でニ十分もかかるんですから」
先にバスで帰った真由のほうが、早く着くのが道理。そんな事で不満を言われて困る。
これでも早く来たのだ。全力で自転車を漕いだせいで、灰は汗を流し、汗を吸った服が肌に貼り付いているせいで気持ちが悪い。
こんな状態で女性といることすら、恥ずかしいと思うほどだ。それでも、真由が待っていると思って、灰は恥を忍んで全力で漕いだ。
「ずっと待ってて寒いんだから早く開けて」
まだ五月だが、今週は寒波で四月よりの寒さであり、加えて今は夜。外は寒く、夜風を浴び続ければ身体は凍えてしまう。
さむさむ、と手を擦る真由を横目に灰が家の扉を鍵で開けた。
真由をリビングまで案内しお茶を用意した後、灰は自分の汗臭い匂いが気になり始める。
初めて女性を家に入れ、汗臭いままだとなんて思われるか、灰はこういったどうすればいいか分からず、混乱していた。
どうしよう、と迷った灰ではあったがすぐに決めた。シャワーを浴びようと。
ただ、真由とはついさっき出会った関係。そこまで見知った人ではないため、シャワーを浴びている間に何かをするのではないか、という不安もある。
だから、灰は監視を置くことにした。
「ちょっとシャワーを浴びてくるから待ってて下さい。話し相手として、ヤークトを置いておくので」
スマホを操作してヤークトを召喚し、灰は替えの洋服を用意してからシャワーを浴びる。
シャワーヘッドから温かいお湯が身体に浴び、雫となって滴って落ちていく。汚れた身体を洗いながら、灰は出来るだけ早くここから出ようと努力した。
まだ真由を知らない灰は、視界の中にいないからこそ何をするか分からない恐怖に襲われており、ヤークトを監視させているため大丈夫だとは思うが、それでも恐い。
シャワーを浴びたのは五分ほどだろうか、灰は上がると真由とヤークトは一緒に遊んでいた。
わしゃわしゃと撫でる真由に、ヤークトは嬉しそうな顔をしている。
「あら、上がったの?」
シャワーから戻って来た灰を見て、真由は姿勢を直す。
今まで撫で続けられていたヤークトが、少しばかり名残惜そうな顔をしている。
「さあ、座って。ファミレスで出来なかった続きを話しましょう」
灰は新しくお茶を準備し、真由の対面に座る。
それに合わせてヤークトが灰の隣に座ると、膝を枕のように頭を置いた。ヤークトなりのアピールなのだろう。
灰はその頭を撫でると、ヤークトの口角が上がったように感じた。
「まず確認だけど、あなた、灰は特殊なスキルをダンジョンで手に入れたのは合ってる?」
「はい」
テイムというスキルを探したが、それらしい物はどこにもなかった。まだ確認されていないスキルなのだろう。
「灰が四階層で強力な魔物に襲われた原因は、そのスキルのせいなの」
「スキルが?」
「ええ。あなたの手に入れたスキルがどういう類のものか、私には分からない。だけど、あなたのそのスキルは世界を変える事が出来るほどの力を持っている」
自分のスキル、テイムがそれほどの力を持っているとは思わず、灰はただただ茫然としていた。
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