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ダンジョンの魔物使い  作者: 佐藤龍
『テイム』
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12話 『第六天魔王』

「なんなんだよ、あれ!」


 逃げ出して、もう何分も時間が経った。

 なのにオオサンショウウオの魔物はずっと追いかけてくる。ジリジリと距離が詰まりつつあり、追いつかれるのも時間の問題である。

 このまま逃げるだけでは埒が明かず、戦おうとも思ったことはあったがすぐに忘れた。

 

 正面から迫って来たゴブリンを避けた時、そのゴブリンをオオサンショウウオの魔物が食べてしまったのだ。

 自分も食べられる、そう考えると灰は戦う気が失せた。

 真っすぐ走って逃げるだけでなく、時折横道に入って視線から外れようとするがそうはいかない。

 幸い、横道に入った時に速度を落とさないといけないためか、距離が少し開く。

 

 このまま逃げ切りたい、灰の僅かな願望をダンジョンはことごとく破壊する。

 まるで希望を折るかのように、灰の前に魔物達が立ちはだかった。

 

「くそっ!!」


 避けきれる量ではない。灰は覚悟を決め、最低限の戦闘を心掛け、灰とヤークトは突入した。

 乱戦で切羽詰まる灰の傷はみるみる増え、さらにオオサンショウウオの魔物が視界の中に入る。

 追いつかれ、食べられる未来を灰は想像してしまい、慌ててこの場から抜け出して逃げ出す。

 

 魔物達との戦闘で灰に疲労が徐々にだが溜まりつつあり、先程よりも走る速度が落ちつつあった。

 このままでは食べられる未来が本当のものになってしまう。

 三階までの階段もまだ先だ。どうするべきか、そう考えた時一人の少女がこちらに近づいてきた。

 

 膝丈まで届くスカートに服の上からは軽装の鎧を身に着け、黒髪のポニーテールをしている。

 そんな少女を前に灰は不吉な事を考えてしまった。

 

 囮にする? という甘美な言葉が脳を過る。そうすれば灰は救われる。あんな化け物から食べられるという、最悪な未来は回避される。

 灰の答えはすぐにでた。

 糞喰らえだ。女の子の命一つで助かるぐらいなら、死んでやる!

 それは灰の矜持でもあった。

 高校デビューするために冒険者になった灰の本心には、彼女が欲しいという気持ちもある。それなのに、自分の命大事さに見捨てることは出来ない。

 

 灰は踵を返した。

 走っている途中ということもあり速度を完全に殺すことはできず、地面を擦るようにして速度を完全に殺して振り向く。

 

「そこの人、逃げて!」


  後ろにいるはずの少女に逃げるようが指示するが、逃げるどころかオオサンショウウオの魔物に向かって近づいている。

 

「ちょっと、逃げないと!」


 迫る脅威に灰は焦りつつも、少女に逃げるよう諭すが聞く耳を持たない。

 こちらに振り向き、テイムしている魔物達を見て意味深な顔をしていた。

 

「魔物……なるほど、ダンジョンの意思か」


 少女を右腕を伸ばし、オオサンショウウオの魔物に向ける。手は銃を持つような握り方をすると、虚空から銃が生まれ右手に握っており、前から持っていたと言わんばかりの風格を出していた。

 さらに、彼女の背後に無数の銃が洞窟を覆い隠すほどに一面に現れる。

 

 しかし、オオサンショウウオの魔物に効くとは思えない。それこそ、7mmの弾丸を雨のように降らせれば倒せるかもしれないが、少女が握っている銃、生まれた銃は全て火縄銃なのだ。

 連射できない、命中精度が悪いという欠点がある。

 

「三段撃ち、用意。撃てェー!!」


 少女は引き金を引く。それを合図に、背後に無数の火縄銃が火を噴いてオオサンショウウオの魔物に襲い掛かる。

 命中精度が悪い火縄銃であるが、当たらないのであれば当たるだけ数を用意すればいいし、近づく相手に撃てば当たるのだ。

 

 オオサンショウウオの魔物の鱗が銃弾で剥がれ、吹き飛び、血飛沫を流す。

 撃った火縄銃は消えると、そこに新たな火縄銃が上からスライドしてくるように落ちてくる。そのスムーズな動きは観覧車のようで、グルグルと回っている。

 雨のように降り注ぐ銃弾にオオサンショウウオの魔物は大けがをし、慌てて背を向けて逃げ出した。

 

 魔物が消えると、火縄銃が消えて少女は近づいてくる。

 

「無事?」


 目の前にいる少女が、何か得体の知れない化け物だという事が灰には分かった。

 

 

 

 少女の助けで、灰はダンジョンを出ることにした。

 その時、少女は何故か仮面を被って顔を隠していたのが灰は気になる。

 救ってくれたお礼に、と灰は夕食をご馳走するため少女と一緒にファミレスにいた。

 注文を済ませた二人は、軽く自己紹介をする。

 

「私は工藤真由≪くどうまゆ≫。隣町の吉王寺から来たの、よろしく」


「東条灰と言います。命を救ってもらい、本当にありがとうございます」


 灰は誠心誠意を込め、真由に深く頭を下げた。今の灰にはそんな事しかできないからだ。

 頭を下げるという行動は周りから注目を集め、ジロジロとみられる視線を嫌った真由はすぐに頭を上げるように伝える。

 

「もういいから、頭を上げて。私はあなたと同じ同類、助けるのに理由はいらない」


 同類、という言葉が灰の中に引っかかった。そうえいば、と真由と出会った時の事を思い出す。

 真由は灰が魔物、ヤークトとスラ参と一緒にいたにも関わらず驚いたような素振りを見せなかった。

 

「あの、ちょっとお聞きしたいんですけど、どうして俺が魔物と一緒――」


「ストップッ!!」


 灰が話そうとした所で、真由が右手を灰の方に伸ばして止めた。

 何を言おうとしたのか、すぐに理解できたからだ。ここで話すのは不味い。

 

「その話はなし。良い? 冒険者のスキルは……クレジットカードと一緒なの」


 何かいい例えは無いか、と考えた真由が捻りだした物、それはクレジットカードであった。

 

「クレジットカードは盗まれれば悪用されるし、番号を知られても一緒。冒険者のスキルも一緒で、決して人に話してはいけない。誰か悪い人間に利用されるから。分かった?」


 灰が冒険者になって間もない事は、装備と立ち振る舞いで分かった。だからこそ、こういう初歩的な事を教えないといけないと思った。

 それに、今いるファミレスはダンジョンのある武蔵之支部からそう離れていない。ダンジョン帰りの冒険者が腹ごなしに、とここに通うのは目に見えている。

 今も周りの冒険者が情報収集と、耳を澄ませている空気を感じていた。

 

「はい、気をつけます」


 先輩の冒険者からの忠告に、灰はただ頷くしかなかった。

 テイムした魔物に驚かなかった事に関しては聞けなかったが、聞きたい事は他にもある。

 それは真由も分かったらしく、彼女の方から話を振って来た。

 

「スキルの事に関しては話せないけど、魔物の事については教えることができる。聞きたいんでしょ? あの魔物の事?」


「はい」


 真由が話そうとした時、店員が近づいてくるのを見て話すを一時中断する。

 彼女が頼んだサラダを持ってきたからだ。

 

「一先ず、食べながらでいい?」

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