27話『洞窟での戦闘 2』
「大丈夫なの?」
闇の中に消えたヤークトの事を、リベレッサは心配していた。
「どうしてそう思う?」
「だって、ヤークトだけだよ? ゴブリンに囲まれたら」
「確かにそうだけど、複数いてもヤークトはやられないと思う」
ヤークトの戦い方は今まで牽制であったり、奇襲など正面から襲い掛かるというのは意外と少ない。
基本的にヤークトに心掛けてもらっているのは、ヒットアンドアウェイ。一撃離脱である。
「それはそうかもしれないけど……」
リベレッサもヤークトの実力に関しては心配していないようだが、それでもまだ不満があるように呟く。
「ヤークトだけ行かせたのが心配か?」
抱えている不満を、灰は予想して言い当てた。
「うん、だっていつも一緒だったから。別行動取らせても良かったの? せめて、スラ参も一緒に行かせたほうが良かったんじゃない?」
ヤークトの実力に関して、リベレッサは心配していない。
そこらのゴブリンより、ヤークトが強いのは明白。しかし、絶対という言葉はないのだ。
何かが起きて、ヤークトが傷つくかもしれない。
その起きるであろう可能性を、リベレッサは限りなく減らしたいのだ。
「リベレッサの言いたい事は分かるよ」
ヤークトは攻めに強いが、守りに関しては弱い。
正確には、打たれ弱いのだ。
機動性がある分、打たれるより避けた方が良い。
それでももし、打たれてしまったら、と考えるならスラ参を連れて行った方が良いだろう。
そのことについては、灰も一度は考えた。
考えた上で、ヤークトだけ行かせたのだ。
「確かに、スラ参を連れて行った方がいいかもしれない。だけど、それはヤークトの邪魔になるのかもしれない」
「邪魔?」
「そう。ヤークトは暗殺特化、奇襲することが得意だ。いつもは俺達パーティーで行動するから、自由に動けていないだけで、本当はヤークトだけのほうが強いのかもしれないよ」
歩きながら説明していると、ランタンの光が足元に落ちている石ころを照らす。
それは魔石だ。
小指ほどの大きさをした魔石は、一つ、二つ、と地面に転がっている。
「ほらね、問題はないらしい。それに危なくなったら戻ってくるさ。信じようよ」
ヤークトの成果を見て、リベレッサはもう何も言わなくなった。
灰の信じよう、という言葉にリベレッサは言うことが出来なくなった。言ってしまえば、ヤークトの事を信じていないと思われてしまうようで。
「それよりもこっちの心配をしよう。前はヤークトが倒しているから大丈夫かもしれないけど、背後からゴブリンが襲って来るかもしれない」
前はヤークトが潰してくれるが、後ろからゴブリンが返ってくる可能性もある。
「精霊魔法を使っても良い?」
「お願い。けど、少しで良いから。これから使う魔力を考えて温存して」
一番怖いのは、背後からの奇襲。特に、正面で戦っている時にそんな状況に陥れば、挟み撃ちだ。
生存率が落ちる。
灰が先頭を歩きつつ、後ろはリベレッサの精霊魔法で警戒しつつ歩いていると、Y字路に辿り着く。
そのY字路の前に、ヤークトがお座りしていた。
口には魔石を咥えており、灰に近づいて渡す。
「ありがとな」
役目を果たしたヤークトを褒めつつ、灰が頭を撫でながら、
「ゴブリー。弟はいつもどっちの方向にいる?」
尋ねると、ゴブリーは右の道を指出した。
「そっちだな」
灰は右の道を進む事を決めた。
正直に言えば左の道も気になるが、今は時間厳守。時間が金以上に大事な今、寄り道をしている暇がない。
右の道を進んで幾ばくか、ゴブリンの数が増えた。
「こっちが大当たりという訳か」
ゴブリンの数が、さっきまでとは嘘のように増え、それだけ戦闘の回数も多くなったという事。
侵入者が来た段階で、襲わせるのではなく守りに入ったようだ。
もしくは、数の暴力で押しつぶそうとしたのかもしれない。
序盤に魔物との戦闘をこなしていないがために、油断する。その油断した隙を突くように、大勢のゴブリンが襲う。
そういう筋書きなのかもしれない。
真相はゴブリンしか知らないが、単純に数で押しつぶすだけでは灰達には効果がない。
砂浜に押し寄せる小さな波のように、巻き込まれて溺れるようなことはなかった。
短い距離しか歩いていないが、十回ほどゴブリンを撃退した時だ、ゴブリンの姿が消える。
ゴブリンという種が嘘のような存在みたく、気配すら感じない。
消えた? いや、
そんな単純に考えていい問題ではない。
消えた理由は簡単だ。数の暴力では、俺達を倒す事を不可能だと悟ったんだ。
だから、
ランタンの光が、遠くから近づくゴブリンをぼんやりとだが照らす。
右手には刀を持ち、皮の鎧で武装したゴブリンはこちらを睨みつけながら、距離を縮めて来る。
一風変わったゴブリンではあるが、顔だけならただのゴブリンだ。
しかし、ゴブリンにはない威圧感を放ち、恐怖すら与えるほど。
その恐怖を、灰は正面から浴びていた。
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