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第04話 300年ぶりのお出かけ。

 馬っていうのはパッカパッカ蹄の音を立てて動くものだと思っていた。

 足は4本で、首があるものだと思ってた。

 誰だってそういう認識のはずだ。

 体高が2m近くある大きさの馬は、もしかしたらいるかもしれないが、筋骨隆々な6本足の馬を見たことなんてないだろう。

 さらには、首から上が存在しないまま動いている。

 もはやホラーの領域だ。

 初見で「うおっ」と声を上げてビビッても仕方ないと思う。

 ただ、この世界にはこういう馬もいるらしい。

 骨だけで動く馬もいると聞いたので、それ以上はツッコまないことにした。

 ホントどうやって動いてるんだろうね。


 胴体の全面が黒い甲冑で覆われている首のない巨大馬はスムーズな走りで、さらに大きな漆黒の馬車を引いていた。

 足首あたりから紫色の炎が湧き上がらせながら、ドッスドッスと力強く、その巨体に似つかわしくないスピードで進んでいく。

 真紅の車内は、外からイメージするよりも広く感じられ、6人はゆったりと過ごせそうだ。

 小一時間ほど座っていてもまったく疲れない革製の座席はワインレッド。

 城の絨毯と同じふかふかの敷物。

 照明も、装飾も、遮光幕も、妥協なくゴージャスで、高級感に慣れていない小心者にとっては逆に居心地が悪かった。

 小窓から見える外の景色は、ズンズン後ろへ流れていくが、まだ緊張感はほぐれない。

 大魔王様と2人きりというのも、それに拍車をかけていた。

 マリアさんはお留守番だ。

 正直なところ、一緒に来てほしかった。

 まだ打ち解けるほどの時間を過ごしていないうえに、いきなり一発KOかましてくれた大魔王様と外出とか、わりとハードプレイだと思う。


「なんじゃ、まだ、しゃっちょこばっておるのか?」


「こっち来てまだ3日目ですよ。大魔王様に腹パンされて、美女に介抱されて、自分のカラダが……こんなんなって」


 前より小さく細くなった手で、マリアさんがまとめてくれたポニーテールを触る。

 右のこめかみあたりを三つ編みにされたり、何着も衣装を交換したり、マリアさん、ちょっとテンション高かった。

 最終的にコーディネイトしてくれたのは、白い法衣とマフラー、短めのポンチョ。

 スカートは全力でお断りした。

 そんなモノ着たら、女のコにしか見えなくなるっつーの!

 ……言ってて悲しくなる。

 まるで仮装や着ぐるみで自分が自分じゃないような。

 ゲームで創作したキャラクターを操ってるような。

 まだ客観的にしか自分のことを考えられないでいた。


「潔く諦めるがよい、それよりもシンイチがいた世界のことをもっと聞かせよ」


 この世界と、元の世界はかなり違うらしく、物珍しさに目を輝かせて大魔王様は耳を傾けている。

 ネットも、スマホも、テレビも、1からの説明はなかなか難しかった。

 火や水や風から電気を作るところからのスタートだ。

 原子力の説明はスルーした。

 大陸、島国、森林、大空、白雲、山脈、海原、雨雪、太陽…、自然に関することは共通していたが、科学に関することは全滅だった。

 こちらは魔力が汎用的に使われる世界。

 電力とは違い、一人ひとりに宿る力でもあり、自然にも存在し、道具に蓄えることができるらしい。

 便利ではあるが、大量に生成することは難しく、魔力での明かりよりも松明などを使うことが一般的のようだ。

 だから、コンビニみたいに24時間あいている店もないし、重機を使って建てるビルなどもない。

 もちろん、車もバイクも電車もない。

 文明という点では、こちらのほうが劣っている。

 代わりに発達しているのが魔法というわけだが、一部は元の世界より優れているとも言えた。

 魔力を使って、空を飛ぶことも、通信することも、火をおこすこともできるからだ。

 ただし、個人差…というか才能の差があり、魔法を使えない者のほうが多いとのこと。

 きっと目に見えて差別も多いはずだ。

 それを知るのが、少し怖い。


「目に見えない通信網で世界中の誰とでも自由に情報共有できる世界…か、すごいもんじゃな」


「当たり前のことから、最新情報、ガセネタまで、どんなことでも調べられるし、自分の思想を世界中に発信できるから、退屈んなんてしないんじゃないかな」


「体験してみたいのぅ」「異世界行けないかのぅ」「こっちで再現できんかのぅ」魔王様はITに興味津々のようで、詳細をガッツリ聞いてくる。

 おかげでたっぷり3時間、馬車が止まるまでずっと、大魔王様のキラキラした瞳と好奇心に射抜かれ続けた。

 ぶっちゃけ超つらかった。


「はっはっは、これまでの何十年分にも匹敵する楽しい時間であったわ」


「大魔王様に喜んでいただいて何よりです……」


「シンイチよ、わしのことはクロエと呼べ。他人行儀にする必要はないぞ?守護者であるし、長い付き合いになるんじゃからな」


 かなり上機嫌でクロエは馬車を降りていく。

 これから、ことあるごとに詰問されそうだ。

 お互いに情報交換したから一方通行でもないんだけど…、ん?あれ?3時間もかけてここに来た理由って、そういう情報を教えてもらうことじゃなかったっけ?来た意味なくね?

 まぁ、300年も引きこもってたら、今の世界状況もわからないか。

 だからこそ、ネットに興味津々だったのかな。

 座り心地は良かったが、決してくつろげない馬車を、シンイチも後にした。






「わーを……すっごいね」


「うんむ、以前はただの平野だったんじゃがな。ディアボロめ、生意気にも立派なモノを創りおって」


 遠目でも巨大だとわかる外壁は15メートルを超えていた。

 壁にはいくつもの窓や開口部があり、精密に加工された黒曜石が積み重なってできている。

 右を見ても、左を見ても、終わりが見えない。

 壁上にも見張りがいて、無断の侵入を防いでいる光景は、まるで要塞だ。

 中へと通じる門も頑強で大きく、必要な手続きをするために並んでいる人々が長く列をなしている。

 クロエとマリアさん以外で、初めて見るこちらの世界の人たち。

 普通の人間に見える者が多いが、2メートルを超える巨漢や、翼を持つ者、狼がそのまま2足歩行したかのような獣人、ずんぐり体系だが立派な髭を蓄えている小人、本当にここが異世界だと実感できた。

 アニメや映画の世界に入り込む妄想したことがあるけれど、まさか実現するとはね。


「それにしてもすごい行列、1時間は並びそう……」


「わしの顔を知っておる者もおらんじゃろうし、普通にこっそり入ってやろうかの」


「ディアボロが驚く姿を見てみたいからの」と、クロエは首のない馬に体重を預けながら言い放つ。

 いやいや、こっそりはもう無理ですよ、大魔王様。

 まだけっこう距離があるのに、この異質な馬車に気付いている人がちらほらいますから。

 すっごい視線感じてますから。

 やっぱり普通じゃないんだ、この馬車。

 この世界の価値観を知りたいと強く思う。


「世界最強の大魔王であらせられるクロエ様が、普通に入ることなど出来ますまい。何より、このディアブロが見過ごすはずがありません。どうか、お戯れはお控えくださいませ」


 視界に入らない位置から不意に声を掛けらた。

 もう、この世界に来て驚かされてばっかりだ。

 ちゃんと順応できるのか、これっぽっちも自信がないぞ。

 そして振り向いたとき、シンイチは何度目かわからない驚きの声を吐いていた。


「わーを……」

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