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第03話 守護者は大魔王だった。

「いやぁ、すまんすまん。英雄じゃからある程度強いと思っておったわ」


「あらかじめ強ければ、あなたを守護者になど任命しないでしょうに」


 ありえないくらいふっかふかのベッドで目を覚ましたら、超軽いノリの謝罪を受けた。

 玉座にいなければ、大学生みたいな2人組だ。

 どっちもかなり美形で、並ばれるとちょっとリア充くさい。

「私を超える魔力で与えた傷は治すのが大変なんですから」まったくもう…と、長い銀髪を後ろで束ねた女性が、あきらめ半分な目線を男に向けていた。

 ただ、こちらを見る時は、本当に穏やかな表情で、ドキリとする。


「痛みはなくなったはずですが、まだ内臓に負荷がかかっていますから、しばらく無理はなさらないように」


 渡された空色の水を飲みつつ、健康診断や人間ドックの時に着るような服をめくると、ヘソの左下部分がどす黒い紫色になっていた。

 すんごいことになってるものの、確かに痛みはない。

 腐ってるんじゃないかって思えるほどの痣にちょっと驚いた。

 だけども、だけども…だ!

 それ以上にぽっこりお腹がスリムになったことのほうが驚愕だった。

 うっすら腹筋割れちゃってるし!


「私はマリア・ドウェルと申します。慣れない身体のはずですから、不調を感じたらおっしゃってくださいね」


「俺は、キノモト・シンイチです。手当していただいてありがとうございます。目覚めて5分で、永眠せずに済みました」


 ちょっと美しすぎて、全身黒づくめで、目が真っ赤っかだけど、慈愛に満ちた看護師さんのようにやさしく声を掛けてくれるマリアさん。

 いきなり拳を腹に抉りこんできた人とは雲泥の差である。

 理不尽パワーと癒しオーラを一度に味わえたが、お得感なんてものはまるでなかった。


「英雄だからと殴りかかったこの方は、クロエ・ヴォルフィード様。この世で最も強い大魔王として恐れられているお方です」


「信じられないかもしれませんが、本当ですよ」と苦笑いしながら言われても、本当に信じられません。

 この世界のラスボスがこんな大学生みたいな男でいいんだろうか。

 威厳とか今はまったく感じられない。

 いきなり腹パンかましてきたからなぁ。

 仮に大魔王だったとして、それが守護者ってどうなんだろうか?

 むしろ慈悲深そうなマリアさんのほうが守護者っぽい。


「わしでは不満か?ん?マリアのほうが良かったと、顔に書いておるぞ」


「素直すぎるヤツじゃ」と、乱暴にぐりぐりと頭を撫でられた。

 アラフォーになって子どものように扱われるのは、少し恥ずかしい。

 長く伸びてしまった黒髪が跳ねる。

 そういえば自分のカラダはどうなってしまったのか。

 気になり始めると、確認せずにはいられない。

 部屋の広さにマッチした、かなり大きめな鏡台が目に留まった。

 寝心地の良いベッドは名残惜しいけれども、テッテッテと歩いていく。

 あれ?足が小さい。

 あれ?歩幅が狭い。

 あれ?体重が軽い。


「………………なんじゃこら!!!?」


 鏡には美少女がいた。

 いや、そう見える美形がいた。

 頬を触ると、鏡の向こう側でも同じ動作をする。

 マジか、いや、マジか。


「これ、魔法の鏡とかじゃない?」


「過去も未来も見えんよ、それは。至って普通の鏡じゃ」


「マジかー……」


 シンイチは妖艶なお姉さんキャラよりも、少し幼めの元気な娘がキャラクターとして好きだった。

 スマホのキャラゲーでも、気に入ったら課金してしまうほどだ。

 お気に入りのイラストレーターの画集もしっかり購入していた。

 男の娘であろうとも、見た目が好きなものは好きなのだ。

 だが、しかし。

 そう、しかしである。

 リアルに自分の姿がそうなってしまうのはいかがなものか、いかがなものだろうかと問いたい。

 可愛いコを攻略するのはいい。

 でも、自分自身がそのポジションだと攻略もできないじゃないか。

 むしろ攻略されるほう?勘弁してくれ。


「あ~…、もう40歳間近のおっさんなのに、見た目10代じゃないか。ないわ~…。そういえば、声も高くなってる気がする」


 いちおう性別は男だ。

 よかった、せめてもの救いだ。

 くっそ長いまつ毛とか、キレイな肌とか見て、不安になってしまったから確認したから間違いない!

 アトピーとか吹き出物がなくなったのは喜ばしいけども、どうせならダンディーなオジサマにしてくれても良かったんじゃなかろうか。

 整った髭とか憧れだったんだぞ。


「生まれて40年なんぞ、まだまだ小童じゃ。10も40も変わらぬわ。3000年くらい経ってから言え」


「人間の寿命考えて!大魔王様の感覚ダメだから!ある意味、英雄とか言われたことよりも、今のこの姿のほうがショックだよ……誰が創ったんだ、このカラダ」


「シンイチさん、たぶん、今の姿が正常なんだと思いますよ?人間として見た目が若返ったのは別として」


「そうじゃろうな、1から作ったら時間もかかるしの」


 2人とも何言ってるの…と思ったけど、そうでもないらしい。

 生き物はとても小さな『完成された種子』から始まる。

 胎内や卵の中で成長するに従って、周囲の環境に影響され、時間が経過した分だけ少しずつ壊れていくそうだ。

 母体や環境次第ではあるものの、大なり小なり変質していく。

 人間は特にその傾向が強く、それは個性とも言えるが、崩れすぎた場合は疾患を抱えて生まれてしまうとのこと。

 今の自分はどうやら、その過程をすっ飛ばしたことで完成したカラダで生まれ変わったようだ。


「信じられないなー……」


「どっちにしろ今のその姿が現実じゃ、受け入れるしかあるまいて」


「自分のことでこれだもんなー……、この世界の常識が飛んでもないモノだったら、現実逃避しちゃいそう」


「そうじゃのう、この世界のことも知らねばならんか。ちと面倒じゃな、ディアブロ呼ぶか?」


「ディアブロ様であれば適任でしょうね。ただ、200年ほど前から都市を発展させることにハマってますから、おいでになるまでに時間がかかるかと」


「であれば、こちらから出向くまでよ。外出するのは300年ぶりくらいかの」


 大魔王様、引きこもりか。しかも300年とか、年季入りすぎだよ。

 もしかしたら自分よりも世間を知らないんじゃないかなーとか考えながら、とりあえず流れに身を任せることにした。

 もう逆らう気力もないからね、好きにしてください。

お読みくださりありがとうございます。

初めての投稿で、手探り状態で、とりあえず3話分アップしてみました。

仕事との兼ね合いもあり、投稿はマイペースに行う予定ですので、ご了承ください。

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