第5話
「わかりました。システムのレベルを2まで上げます」
朱里の判断に多少の不安を感じながらも、アイルは朱里の指令に従うことにした。
もし、朱里の判断が間違っていたら。
これからやって来る戦艦がこの星の侵略等が目的で、いきなり攻撃してきたら。
(まっ、だとしても私が朱里さんを守るだけですけどね)
アイルはあまり深く考えていなかった。
例えなにが来ようとも『絶対に朱里を守る』それを可能にする実力と、その自分の力に自信をもっているからこそ、
「朱里さ~ん。ところで今日のデザートの件ですけどー」
「え?デザート?……お前、もう少しは緊張感もてよ!」
「えへっ」
これからやって来るものに対して、朱里以上に警戒をしているアイルだが、
朱里に変な不安を与えてしまわないように、いつもの様に振る舞うことが出来ている。
「だってお腹が空いてたら戦は出来ませんよ?」
「戦いになるとは限らないだろ?……って、まぁ、どのみちこんな時間だし、後々ゆっくり飯を食えるか分からないしな。よし! 飯にするぞ!」
「はい! ついでに後々私とゆっくりイチャイチャ出来なくなっちゃうかも知れませんから……今のうちに」
「そうだな」
「……えっ!?」
思いがけない朱里の反応に少し戸惑うアイル。
「今のうちにしとかないこともあるよな……アイル」
「は、はい!」
「少し、目を閉じててくれないか?」
「えっ?あ、はい///」
朱里に言われた通りギュっと目を瞑った。
(この流れは……絶対キスですね!もう、朱里さんったら、初めてなんだからもっとムードつくってからしてくださいよぉ!……でも、朱里さんからしてくれるなら私は/// 朱里さん、どんなキスしてくれるのかな? いきなり舌とか入れられちゃうのかな?で、そのまま押し倒されて……朱里さんとひとつに//// あぁ、朱里さ~ん、はーやーくー…………って、あれ?)
いつまでたってもアイルが待ち望んでいた朱里の唇の感触が伝わってこない。
(もしかして、朱里さん緊張しちゃってるのかな?)
アイルがうっすら目を開けてみると、
「あれ?」
朱里の姿はそこにはなかった。
「朱里さん?」
「おーい!」
食堂の方から朱里の声が聞こえてきた。
「朱里さん?何してるんですか?」
アイルが食堂に着くとそこには美味しそうにステーキを頬張る朱里の姿が。
「ん?何って、見てわかるだろ?飯を食ってんの」
「それはわかりますよ!そうじゃなくて、キスは!?あの流れは絶対キスでしょ!? イチャイチャでしょ!? ゴートゥーベットイン・アハンの流れでしょ!?」
「なんだ?そのゴートゥーベットイン・アハンって」
「ご想像にお任せします!そんなことより、なんでキスしてくれないんですか?なら、なんで目を閉じさせたんですか!?」
「お前がどのくらい目を閉じたまんま突っ立ってるかみてみたくてな……3分38秒、なかなかのタイムだったな♪」
ニヤニヤしながらアイルを眺める朱里に、
「――っ//// も、もう、朱里さんなんて知りません!」
アイルは顔を真っ赤にしながら食堂が飛び出していった。
「からかい過ぎたか」
ちょっと罪悪感にかられる朱里。
とりあえず、食いかけの飯をそのままにアイルを探しに行くことにした。
…………
「あいつ、どこ行ったんだ?」
朱里はアイルを探してコロニー内を歩き回っていた。
レストルーム
整備室
コマンドルーム
…………
一応
バスルームも……。
だが、どこにもアイルの姿はなかった。
「外か?」
コロニー内でアイルを見つけられなかったため、外までアイルを探しにいくことにした。
…………
そして、
第7コロニーの側を探しにきたとき。
ゴゴゴ
「!!?」
戦艦からの着陸船であろう宇宙船が朱里の頭上に現れ、
そのまま朱里がこれから向かう先を塞ぐように着地した。
「くっ、うわっ!?」
その衝撃でビークルから振り落とされた。
着陸船とは言え、ギガス級の戦艦の付属船、かなりの大きさだ。
朱里が起き上がり体についた埃をはらっていると、着陸船から人の降りてくる気配がした。
(まさか、もう来るなんて……目的はなんなんだ?)
アイルの予測よりかなり早い戦艦の到着に朱里は少しだけ焦燥感を感じていた。
まだこの星の方角へ向かっているだけでこの星を素通りするかも知れない。
この星に来たとしても自分達には気付かないかも知れない。
少し前までは頭の片隅でそんなことを考えていた。
だからアイルの忠告にも消極的になっていたし、大丈夫だろう……という思いもあった。
しかし、実際はこうして行く手を塞ぐようにして着陸船が目の前にやって来ている。
明らかに自分達の存在が知られていたからだ。
それに、
(こっちの通信は無視したのにいきなり進路を塞ぐような着陸法……なんか友好的ではないな)
朱里はビークルから小型と中型のレーザーガンを取り出してくると、
小型の方を自身の服で見えないように隠し、中型の方を手で構えて持ち、
着陸船へと向かってゆっくり歩き出した。