第4話
―翌朝―
「……んんっ…朝か……ん?」
朝日を顔に浴び、目を覚ました朱里がちょっとした異変に気がついた。
(腕が……重い…何だ?)
腕に違和感を感じ布団を少しめくってみると、
そこには気持ちよさそうに朱里の腕に抱き着き眠る愛流がいた。
「あぁ、そういや……」
朱里は昨日の自分の言葉と、はっきりした記憶は無かったが夜に愛流がベッドに入ってきた時の事を思い出した。
(『本当の気持ち』……か。俺は)
朱里は自分の隣でスヤスヤと眠る愛流の顔をしばらく優しい眼差しで見つめていたあと、
ゆっくり顔を近づけ、
愛流の頬に優しくキスした。
「これが俺の気持ちだ」
それだけ言うと朱里は愛流に掴まれていた腕をそっと抜いて、
愛流に布団をかけ直してやると、静かにレストルームから出ていった。
…………
………
……
―数ヵ月後―
「ふぅ~、今日はこんなもんかな?」
本日20台目となるサヴァイブユニットの修理を終え、額に貯まった汗を拭いながら、朱里がコロニーに帰る支度を始めると、
「朱里さ~ん♪お疲れさまです!」
タイミングを図ったかのように愛流がやって来た。
「お前、少しは手伝えよ」
「えぇー、だって凄く汚れちゃうじゃないですか!」
潤滑油や埃で身体中汚れてしまった朱里を見ながら愛流が本当に嫌そうな顔をする。
(こ、こいつ~)
「ところで今日の晩ご飯何にしますか? サンドワームの肉炒め?瑠璃色サソリのソテー?赤羽カラスの唐揚げ?それとも……私…ですか?////」
「とりあえず食べ物を選択肢に入れようか?」
「じゃ、さっそく私をたべ「帰るぞ~!早く来ないと置いてくぞ?」
朱里はビークルに乗ってエンジンをかけはじめる。
「あっ、ちょ、ちょっと朱里さ~ん!待ってください!」
愛流が慌ててビークルに乗り込んできた。
「もう、朱里さんったら、照れちゃって♪今日も一緒にベッドで―――っきゃあぁ!!?」
「喋ってると舌噛むぞ?」
愛流が話しかけてきた時、朱里がビークルを急発進させたため、
愛流はビークルの後部座席へと打ち付けられた。
「うぅ」
後ろから愛流の呻き声が聞こえだが朱里は軽く無視しておいた。
コロニーに向かう途中
「朱里……さん?」
「なんだ?」
いつもの元気の有る声とは違い、なぜか不安気な感じで話しかけてきた。
「あの、朱里さん……その…怒ってますか?」
「急にどーしたんだ?」
「今日も……朱里さんのお手伝いしなかったから。朱里さん怒ってるんじゃないかって」
(こいつも少しは責任とか感じてんだな)
「ふふっ」
「え!?なんで朱里さん、笑ってるんですか?」
「いや、なんでもない……愛流、俺は怒ってないよ。まず、お前に期待し過ぎるのも良くないしな。それに……」
「それに?」
「それに俺は……俺は…………まぁ、いいや! とにかく俺は怒ってないよ」
「本当ですか!?」
「あぁ」
「じゃあ、今日も一緒に寝てくれますよね?」
「…………」
(もしかして、こいつが心配してたのはそこか?)
「まぁ、いいけど」
「良かったぁ♪今日からまた違う部屋で寝ろとかって言われるんじゃないかと……じゃあ、朱里さん怒ってないなら、今日こそ子供を……ドスッ ――っふきゅ!!?」
「ちょーしに乗んな!」
愛流のおでこに朱里が振り向き際にチョップをした。
「しゅ、朱里さ~ん!酷いじゃないですかぁ……えっ!!?」
それまで少し涙目で痛がる素振りを見せていた愛流が突然、真剣な表情に変わり、
コロニーとは正反対の方向を睨みつけた。
「何かあったのか?」
いつもと違う真剣な眼差しの愛流の様子に気付き、朱里も少し緊張した面持ちになる。
「朱里さん宇宙船です。しかも……ギガス級の!」
愛流は高性能レーダーを体内に組み込まれていて、この星に接近してくる中~大型、超級(ギガス級)は把握する事が出来る。
「宇宙船?救助船か?……でも、救難信号はだしたことないし……もしかして、惑星移住か?」
「いえ、それはあまり考えられません。……言いにくいのですが、今まで朱里さんが必死にやって来た再生活動……まだまだこの程度ではこの星に人間が移住してくる程価値が出来たとは言えません」
「…………」
それは朱里も重々理解しているつもりだったが、時折生まれる小さな命を見る度、 朱里は自分の行動が無駄ではない事を実感出来ていた。
しかし、愛流の言葉で現実に立ち返らされた。
やはり人間は、たった1人では何も出来ないのだと……。
「そうか……なら、なんの宇宙船なんだ?」
「なんの宇宙船かはまだ分かりません。ただ、貨物船ではありません。……恐らく、戦艦です!」
「戦艦?何でそうわかるんだ?」
「貨物船しかもギガス級ともなれば、必ず中級以上の護衛艦が付きます。しかし、この星にやって来るのは単体です」
「攻撃してくるのか?」
「それもまだ……まずあちら側に私達の存在が知られているかも分かりません。どうしますか?迎撃の準備を?」
一応、この星にも僅かながら戦力は残っていて、ほとんどオートパイロットで動くもので、朱里1人でもギガス戦艦級の戦力を動かす事が出来る。
しかし、
「いや、迎撃準備はいらない。まず、向こうが攻撃してくるとは限らないし、ただの惑星調査や艦の修理とかかも知れない!」
朱里には戦闘の意思は全くなかった。
「でも、もし攻撃されたら」
「心配すんなって! こんな再生途中の星を征服しにくる奴なんて居ないだろうし、もし、そうだとしたら俺は抵抗せずにそいつらに従うよ」
「――っ!?なんでですか!?」
「もし、戦闘になればせっかく再生の兆しがみえだしたこの星がまた荒れる事になる。それに……愛流、お前が傷付くかも知れないからな。俺はそんなのは嫌だ!」
「えっ!?朱里さん、もしかして私の心配を!?」
「当たり前だろ?じいちゃんが死んでから、今までずっと俺を支えて来てくれた唯一の……パートナーだからな!」
朱里の祖父が死んでから朱里の側にはいつも愛流が居てくれた。
仕事を手伝わなくても、たとえ邪魔したり、嫌みを言われたりしても、
朱里は、愛流が側に居てくれる……。
それだけで励みになった。
たった1人の人間となっても、寂しいと感じることはなかった。
だからこそ、朱里は愛流を失いたくはなかった。
「まぁ、奴らの目的がもし本当にこの星の征服なら話だけどな。……だいたい無抵抗の奴を殺したりはしないだろう?」
「………そう……ですね。わかりました。」
自分の意見は朱里にはとどかないと感じた愛流は、言葉では朱里の意見に賛成したが内心は、
(朱里さん、甘いですよ!無抵抗の人間を躊躇いもなく殺せる人間も居るんですよ!?朱里さん優し過ぎますよ!!人間を信じ過ぎですよ)
(でも、そこが朱里さんの一番いいところです!朱里さん、私も朱里さんが傷付くのは絶対に嫌です…………だから、なにがあっても、私が朱里さんを守ります!)
愛流も朱里も相手を守りたいという気持ちは同じだった。
…………
「で、後どのくらいでこの星に到着するんだ?」
「速度が異常に早く、先程まで太陽系外に居ましたが……おそらく後1時間程度でこの星の周回軌道上に到達します」
「そうか、とりあえずこちらの存在を知らせるために救難信号を出しとくか」
「はい」
その後、朱里と愛流はコロニーへと戻り救難信号を出すと共に戦艦との交信を試みたが、
「朱里さん、やっぱり変ですよ! こちらの通信は伝わってるはずなのに応答がないなんて……念のために自己防衛システムのレベルを4まであげましょう!」
なぜか応答は無かった。
「…………」
応答が無いことに朱里も少しだけ違和感を感じていた。
だが、
「いや、4までは上げない!レベル4だとサヴァイブユニットが危険だと判断したら人間を勝手に攻撃しだしてしまう!だが、一応システムのレベルを2まであげる」
朱里は戦闘の火種となるかも知れない事はできるだけしたくはなかった。