第3話
「えへへ、お礼はいいですよ。それより、ほんとに一緒に寝てくれてるんですよね?」
「今日だけだぞ?」
「一緒のベッドに入ってくれるなら何でもいいですよ!どうせ朱里さんは明日から、私なしじゃ眠れなくなっちゃいますから!」
「おい、それはどーゆー意味だ!?!?」
「ご想像にお任せしまーす。朱里さん、今日こそ赤ちゃんつく「ったりはしないからな!?」
とんでも無いことを言い出そうとしていたアイルの言葉を咄嗟に遮った。
「えぇ!? なんでですか!? なんでいっつも私としてくれないんですか!?ひょっとして……私に魅力がないからですか?」
「そんなんじゃないよ」
「じゃあ、なんでこの星の人間はあと朱里さんだけなんですよ?子孫残さなきゃ「そーゆーのじゃないんだよ!」
なかなか自分の本当の気持ちをアイルに伝えられない自分に苛立ちを感じつつ、
「これから一緒に寝たいなら、いつでも一緒にいてやる。その代わり子供を残さなきゃとかは考えるな!それでもいいか?」
「い、い」
「嫌、なのか?」
「そんなのいいに決まってるじゃないですか!やったぁー!今日から朱里さんと一緒のベッドだぁ!」
(こいつ)
…………
―レオツルフ地区―
この北部には南部の岩砂漠地帯とは違い、多少の樹木や小さな川があり、
惑星を再生させようと星に残った人類がつくったコロニーが点在している。
朱里とアイルを乗せたビークルは外壁が完全に破壊されている幾つかのコロニーの側を通り抜け、
それらの内で一際大きなコロニーに向かっていた。
全部で13あるコロニーの中心に位置し、唯一外壁等にもあまり損傷が見られないものだ。
ここは星に残る最後の1人となっても、父や母、死んでいった仲間の意志を引き継ぎ、星の再生作業を続けようとする朱里の拠点となっている。
再生作業と言っても、この星の大気に広がる科学物質を取り除いたり、人工的に培養した植物の種子を飛ばしたりする自立型惑星再生機。
通称『サヴァイブユニット』の点検、修理をするだけなのだが、ユニットは星中に散らばり、
さらに今日、朱里達を襲ったサンドワームのような突然変異で生まれた生物に度々襲われそうにもなるため、作業は困難を極め、
コロニーに帰ってきた朱里は大抵いつも、疲れはてていた。
「ふぅ~、今日もなんとか無事に帰って来れた」
「まっ、私がついていってるんだから当然ですけどね♪」
(お前、俺が起こすまでまったく何にもしてなかっただろ?)
本来、朱里がユニットの修理等をしている時、周囲の確認や朱里を護衛するのがアイルの役割だが、
ほとんどの場合、アイルはビークルに残り昼寝しているか、その辺をなんとなくウロチョロしている。
今までは今日みたいに突然変異した生物に襲われそうになったときでも、大抵は朱里が自分で対処していたが、
今日はサンドワームに有効な武器がなく、さらに3rdと呼ばれる進化が進んだ突然変異種で、
朱里は仕方なくアイルの手を借りたのだが、それが……。
「朱里さん、なにへばってるんですか!?これから私と一緒に熱い夜を過ごすんですよ!今から疲れててどーするんですか!?」
後々こうして朱里を悩ませる結果となった。
「…………」
しかし朱里にはもう突っ込みを入れる気力すらなく、
「俺、疲れたからもう寝るな。もし、一緒に寝たいなら勝手にベッド来ていいから……じゃ、おやすみ」
てきとーにアイルの話を流してレストルームへと向かった。
「あっ、朱里さん!」
朱里がレストルームの扉を開け、中に入ろうとするとアイルに呼び止められた。
「ん? なんだ?」
「私はこれから少しすることが有りますから……寂しいでしょうが、ちょっと1人で待っててください!絶対直ぐに行きますからね♪」
「…………」
「ってことで、おやすみのキs―っぶべっ!?」
目を瞑って唇をつき出してきたアイルは朱里が閉めたレストルームの扉に激突し、床へと沈んでいった。
(はぁ、面倒くさいやつ……それにしてもアイルのやつ、最近夜遅くまで戻って来ないけど、何してんだろ?)
アイルももちろん夜は人間と同じように休息をとるのだが、
最近はいつも夜遅くまで何かをしているらしく、レストルームに入るのは深夜2時を過ぎていたりする。
朱里は少しだけ気になっていたが、
(……ねむい……今日はいいや。そのうちアイルから何か言ってくるだろう)
そう軽く考え、ベッドに横たわると直ぐに意識を手放した。
―深夜1:00―
ゴソゴソと何かが自分のベッドに這い上がってきたのを感じ、目は開けてはいないが朱里は起きていた。
(アイル……か?本当にきやがったか)
アイルが普段寝る自身のルームではなく、朱里のいる所に入ってきて、
そして、
「……コソ…朱里さ~ん。寝ちゃってますよね?……キス…しちゃいますよ」
小声でそう呟いた後、寝たフリをする朱里に顔を近づけていく。
(こいつ……マジでキスしてきたら、一回しめてやろーか!?)
そう思い薄目を開けて状況を確認してみると、
目を閉じたアイルの顔が直ぐ目の前に、
…………
しかし、アイルの唇が朱里の唇に触れることはなかった。
アイルは一旦、朱里から少し離れ、
「ほんとは凄くしたいけど、寝てる間にしちゃっても朱里さん、私の『本当』の気持ちに気付いてくれないでしょうし……だから今は我慢します!おやすみなさい、朱里さん」
そう言うとアイルは朱里の布団へと潜り込み、直ぐにスースーと気持ちよさそうな寝息を立て始めた。
(…………)
朱里はアイルの言う『本当の気持ち』がなんなのか、分かっていた。
だが、今はまだアイルのその気持ちには応えられない。
「ごめんな。あと少しだけ、待っててくれ」
そう呟いて、朱里は再び意識を手放した。