大ムカデとの戦闘
「藤太さん、眉間を狙え。術者の霊力はムカデの眉間に集まっています」
ここではじめて保久は勇者パーティーの魔法使いとしての有益なアドバイスを俺にくれた。
奴の名誉のために、この戦闘ではちょっとは役に立ってたってことをお前らにも伝えておこう。
まず最初の矢を大ムカデの眉間に向けて放った。
矢は見事に眉間に当たったんだが、これは弾かれてしまった。
すぐさま第二の矢を放つが、これも同じく弾かれた。
大ムカデの甲殻は、まるで鋼鉄の鎧のように硬かったんだ。
巷間の伝承では、俺はこのあと三本目の矢の鏃に唾を付けたことになっている。
毒虫は人間の唾に弱いという迷信を信じたからだとな。
しかし、これは嘘だ。
俺はそんな迷信に頼るような愚か者ではないぞ。
俺の戦闘はもっと科学的なんだ。
俺の持っている神弓は日本一の強弓だ。
現代の銃器を凌ぐ威力を持っている。
その威力は厚さ5mm程度の鉄板なら容易に射抜けるほどだ。
しかしそれは的に対して直角に命中した場合だ。
だからムカデの眉間に、下から打ち上げる角度で矢を射ても刺さらないんだな。
真正面から矢を射なければダメだ。
俺はムカデをぎりぎりまで引き付けることにした。
ムカデは大きな体をくねらせながら俺に迫って来た。
巨大な鋏のような口で俺を噛みちぎろうと、奴の顔が目の前に来たその瞬間。
俺は奴の眉間に三本目の矢を放ったんだ。
これは狙い通り、ムカデの眉間に深く突き刺さった。
ムカデはギギーッと不快な声をあげやがったね。
この一撃により、ムカデの足先のたいまつのような光も、両目の光も消え去ったんだ。
俺はそのまま橋から陸地側に走った。
俺を追いかけてきたムカデは、そのまま力尽きて地面に落ちてきた。
そこで俺は竜王の霊剣を引き抜いて、そのムカデの体に斬りつけたんだ。
さすが竜王家に伝わる霊剣はよく切れたよ。
後にこの刀が蜈蚣切丸と呼ばれるようになった所以だ。
そこから俺はひたすらムカデの体を輪切りにしていった。
しかし、こいつはなにしろ三上山を七巻き半するほどの大きさだ。
結構な重労働だったぜ。
あらかた切り刻んだら、ムカデの脚も完全に動かなくなった。そこで
「竜王様、晩飯前のいい運動をさせていただきました。では私たちはこれで宿に戻ります」
俺はそう言い残すと、ポカンとしている竜王をその場に残して保久と共に宿に戻ったんだ。