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百合の花 ~赤い心と鈍い金~  作者: あんころもち
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買い物④



「それじゃ、次にいくわ。ドレスの案を聞きたいんだけど、どうかしら」

「はい」

「お願いします」


 片桐様もここでドレスを作るらしく、一緒に受ける事となった。ドレスの案といっても私には良く分からないので、二人に任せた方が良いかもしれない。実際そういう理由で、片桐様と一緒に居る許可を得ている訳で。


「竹ちゃーん」


 社長に呼ばれ、採寸の時話題に出ていた竹倉さんが出てきた。デザイナーへの偏見や先入観はないが――社長がそうだっただけに、竹倉さんは大人しい人という印象が強い。多分社長が少数派なんだろうけど。


「ここから参加お願いね」

「はい。九条様、愛葉様、竹倉です。よろしくお願い致します」

「こちらこそ」

「よ、よろしくお願いします」


 やっぱり、慣れない。


「竹ちゃんは普段、どんな服を作ってるの?」

「愛香様も愛衣様も、ある意味デザイナー泣かせですから……色調は抑え目に、服が浮かないように気をつける程度で、他は意見を聞きながらです」

「そうよねぇ。余り使いたくない言葉だけど、何でも合うでしょ?」

「はい……」

「前向きさは大事よ。何でも合うって事は好きに出来るって事なんだから」


 デザイナーとしての矜持、という物なのかも知れない。何でも合うというのは、デザインをしている側からすれば誇りも何もない言葉なのだと思う。


 自分が何を作っても合うだろうって言葉は、後ろ向きなんだ。だから、()()()作ったという部分はブレちゃいけないのかな。


 片桐家の専属デザイナーという事で、技術面は卓越しているのだと思う。でも精神面で、後ろ向きなのだろう。社長への弟子入りも、その点を直したいって事なのかもしれない。


「片桐ならパリコレの奇抜な服も着こなせそうだ」

「流石に、あれは無理ですよ」


 確かパリコレで奇抜な服を出す理由は、普段着やパーティ用とかを前提にしている訳ではないらしい。デザイナーが服だけで、どれだけコンセプトを表現出来るか、という発表の場なのだと、香月さんから聞いた。


 ある種の芸術なんだなぁと思って見てみてると、少しだけ見方が変わったように思う。


「社長も確か、パリコレに」

「ええ。去年までだけど。あれ疲れるのよねぇ。お店も軌道に乗ってきたし、もう良いかなって」


 もう良いかな、で辞められるものなのかな……。


(はぁ。やっぱり、緊張してるのかな)


 色々と考えてしまう。振袖とかなら、着る機会はある。でもドレスとなると……一般人の私にとってドレスで思い浮かぶのは、ウェンディングドレスくらい。


(ウェディングかぁ)


 このまま身長が伸びなかったら――そっちもオーダーメイド? あの手のドレスも高いよね。平均的な身長なら、レンタルもありえたのかな。でも一世一代だろうし……。


(そもそも私は、普通の結婚式を挙げられるのかな)


 小中は普通の共学だったし、男子を見る機会はあった。でも、良い印象がない。


(んー)


 想像出来ない。私の隣には桜さんが居て欲しいし――。


「愛葉?」

「は、はい!」

「緊張、解れないかな? 一回外の空気を――って、その格好じゃ難しいな」

(桜ちゃんとの何かを考えていただけのように見えますが――緊張しているというのは本当のようですね)


 どれだけ考えていたのか、桜さんと片桐様のドレス案は出来ている。


「あ、えっと――大丈夫です。もうちょっと身長が欲しいなぁって、考えてました」

「今のままでも可愛いけど――平均は欲しい感じかな」

「そうですね……。せめて、百五十五くらいは」


 桜さんに可愛いって思ってもらえるなら今のままでも良いけど……でもやっぱり、桜さんと釣り合おうと思ったらせめて、後十……いや、五センチくらいは。


 片桐様は感づいてそうだけど、何で平均が欲しいのかは、内緒だ。


(理想はやっぱり、片桐様だけど……)


 同じ身長になったらなったで、片桐様といよいよ比較されそうだ……。今でこそ差別化出来ているけど、身長の差がなくなると各部の差が露骨に……。


(でも……片桐様と並んで、遜色ないどころか別の角度で魅力的な桜さんと……夜会でダンスしようって思ったら、やっぱり身長が欲しいし……)


 この低身長を武器に出来れば良いけど、夜会では武器になりそうにない。


「二十歳でも伸びる人も居ると聞いた事があるけど」

「夜会までに伸ばすのは難しいですね。竹倉さん、靴でどれくらい誤魔化せるのでしょう」

「ハイヒールなら、十センチくらい伸ばす事は可能です」

「身長が欲しいの? 久由梨ちゃんはそのままが可愛いと思うけど――スカートは長めにしようかしら。ヒールには慣れてる?」

「い、いえ。学校の靴も、未だに慣れなくて……」

「サンマルテの制服はオックスフォードだっけ」

「そうですね。少々ヒールが高めの物となっています」


 入学して一年になるけど、殆ど歩いてない。革靴にも慣れてないし、ヒールが高くなる靴も余り……。


「慣れは居るけど、厚底でいこうかしら。ハイヒールは慣れてないと怪我しちゃうだろうし。ダンスするのよね?」

「その予定です。一応新入生歓迎会も兼ねているので、ダンスは最後に少しだけですが」

「それならやっぱり、ハイヒールは危ないわね。自分だけの怪我ならまだしも、踏んじゃうかも」

「そうですね。毎年一人は、足を挫いたり足を踏まれて病院に行ったり……はぁ……」


 ヒールを禁止にすれば、と思うけど――ドレスで華やかにってなると、ヒールが必要になるのかな。その辺りは聞いてないから分からない。でも、身長が十センチ伸びるってなると、確かに魅力的だ。禁止になっても、隠れて履いてみたい人は多く居ると思う。


「服装は自由にという保護者会といつも衝突して……今回も色々……」

(やっぱり、疲れているな。夜会だけの時ならここまでならないが――今回は大会とか私の事とか、自宅のパーティとか、疲れないはずがないな)

「声に出てしまっているよ。同じ部活のよしみだ。手伝えることがあったら言うといい」

「……申し訳ございません。今回は少々、考える事が多かったものですから。いよいよ人手が足りないとなったら、お願いします」

「ああ。取り巻きを解散させてしまったのは私だからね。責任は取るさ」

「もう……。はぁ……そうですね。もっと早くから部活動に参加してくれていたらと思ってしまいますけど」

「わ、私も、手伝いましょう、か?」


 思わず会話に入ってしまったけど、何と言うか、良い雰囲気だったから、このままでは負けると、思ってしまった。


「愛葉さんの申し出は嬉しいのですが――」

「愛葉は、部活に集中した方が良いと思う」

「そう……ですよね」


 分かってたけど、残念だ。


 ここ数日で部員達は将棋を打てるようにはなったけど、きっと大会では一勝も出来ない。団体で一勝となると、後一人確実に勝てるという段階にしないと……。

 

 でもそれが、このテストの本質じゃない。これは全員で頑張るってテストなんだから、勝利を効率化させても意味はないだろう。だから、時間はあればあるだけ良い。


「ただ、部活が休みの時は手を貸して貰ったら良いんじゃないかな」

「そうですね。正直助かりますから」

「申し出ておいてって感じですけど……伝統とか、大丈夫なんでしょうか……」

「昔は、推薦組が生徒会の仕事をするとかは考えられなかったそうですが、それは伝統とは言いませんから」

「悪習だよ。淑女を育てるという名目があるというのに、増長を許して良い筈がないという事さ」


 昔から淑女を育成する教育機関であったはずのサンマルテだけど、推薦組は常に下に見られていたそうだ。淑女を、というのであれば、他者を虐げて良い筈がない。二人がそれを言うと、重みがあると思う。


「はーい。出来たっと。とりあえず書いてみたけど、どうかしら。三人とも確認してみて?」


 雑談の合間に、三人分の構想が出来てしまっていた。ほんの数分だけど、下書きというには詳細すぎる物が出来上がっている。


 図面の見方はちょっと分からないから、確認と言われてもと言った感じだけど――綺麗な物が出来そうっていうのは分かる、かな? これを私が……この重たい髪は、切った方が良いかも。多分ドレスよりも着物の方が似合うだろうし……いやでも、それを着るといよいよ日本人形に……。


「どうでしょう。愛衣様」

「少し派手目、ですね。色は竹倉さんが?」

「はい。やはり落ち着いた色の方が良かったでしょうか」

「……いえ、これなら、あの髪飾りも――。細部も竹倉さんが詰めるのでしょう?」

「はい。先生からアドバイスは頂きますが、出来るだけ私の方で」

「ありがとう。これでお願いします。それと」

「はい。愛香様には出来るだけ内密に、ですね。お任せください」


 片桐様の方は、満足の行く出来のようだ。私もこれで良いと思う。というより、プロが私に合うようにって作ってくれたものだし、出来上がりを待つのが吉かな。髪もその後に決めよう。


「桜ちゃんと久由梨ちゃんはどう?」

「私は、これで大丈夫です。完成が待ち遠しいって思います」

「うんうん。きっと似合うわ。その時に髪のセットやお化粧も教えるから。その後写真良いかしら」

「は、はい」


 写真かぁ。そういうお店なのかな。オーダーメイドの出来とかを記録に残すみたいな。


「桜ちゃんはどう?」

「はい。着てみないことには分かりませんが。ただ、そのですね」

「ん? 駄目かしら」

「いえ……まぁ、もう一着、普通のも用意していて頂けると嬉しいです」

「んーーーー、分かったわ」


 何か普通じゃないドレスなのかな? 片桐様は正統派お嬢様だし、私は何と言うか着せ替え人形。桜さんのを考えるのが、一番楽しかったのかな? 綺麗系も似合うけど、格好いい系もだし。そのまま女性物って感じじゃないのかも?


「それじゃ、久由梨ちゃんの私服みていこっか」

「そうですね。愛葉、行こうか。片桐、感想頼むよ」

「は、はい」

「はい。元々そういう約束ですからね」


 あー……そうだった。問題はドレスよりも私服の方だった。どうなるんだろ……。



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