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雑魚兎が貴族に飼われててもいいじゃない!?  作者: べべ
最終章 「兎、がんばります」
42/47

終章ー7

どもどもべべでございます!

伏線回収回ですね~。あんまり奇をてらってはいないつもりですが、はてさてどうでしょう。

どうぞ、お楽しみあれ~!

 

「…………」

「…………」

「…………」


 昨夜の酒宴と、昼間までの安穏から一転。

 屋敷の中は、静まり返っていた。

 窓から見える空はまだ明るめだが、それはこの季節だからである。

 本当ならば、二人はとっくに帰ってきててもおかしくない時間だ。


「……遅すぎる……」

「うん、そうだね。流石にこれ以上暗くなるのは危ないかな」


 おっさんとマッチョメンは、使用人達に周囲を散策させていたが、見つかる気配は無かったという。

 コンステッド氏が町に聞き込みに行ったみたいだが、戻ってこないところを見るに、成果は上がっていないということか。


「お兄ちゃん、どこに行っているのかしら?」

「心配だわ……アーキンちゃんと一緒ならいいのだけど」

「そこは心配ないと思うよ。テルムは女性を1人にはしないだろうからね。……けど、今回は遅すぎる。私達も探しに行くから、テレサとネアは屋敷で待っていておくれ」


 おっさんが外出用のマントを羽織り、数人の使用人を連れて外出の準備を始める。


「ワシも行こう。アーキンは魔法こそ使えるが、実力は芳しくない。何かあったとしたら、あやつを庇うであろうテルムが危ないやもしれん」


 マッチョメンも立ち上がり、お付きのどちゃくそイケメンを連れて立ち上がる。

 坊っちゃんの武芸の実力を知ってるからこそ、皆この時間まで待っていたが、これ以上は確かに危ないな。

 俺も出よう。早いとこ見つけねぇと……な~んか嫌な感じだ。


「じゃあ行こうか、サニティ」

「あぁ、出てくるぞっ」


 二人が外に出ていく。

 付いていくのも手だけど……手分けした方がいいわな。


「ねぇお母様、お兄ちゃんは出かける時、なんか言ってた?」

「そうねぇ……アーキンちゃんに見せたいものがあるって言ってたわ」

「ん~、それが見つかんなくて遅くなってるのかしら?」

「そうなら良いわねぇ……」


 何かを見せるねぇ……。

 …………ん~?

 どっかで聞きましたよそれ?


『その……この辺で、角兎……会えます、か?』

『う、うん。カクが元いた群れが近くの森にあるから、いつでも会いに行けるよ? ……よかったら、今度一緒に会いに行く?』

『そ、その……是非っ』


 あ。


「フシャー!」

「わぁ!?」

「カ、カク?」


 あ、あ、あの二人、森で迷ってやがんのか!?

 そうとわかりゃあ話は早ぇ! この事を皆に知らせて……!


「フシッ、フシフシフスンッ」

「? なぁに、デブ兎」

「何が言いたいのかしら……」


 あっはー! 見事に通訳係がいねぇー!

 やべぇよ、やべぇよ……!

 仕方ねぇ、俺だけでも森にカチコミに行くべきだな!


「あっ、デブ兎!」


 チビっ子の静止も聞かず、俺は屋敷を飛び出した。

 丘まで走り、一本大樹の近くまで一気に走る。

 兄妹で釣りをした小川を越え、森の手前に到着した。


「……フスン」


 まて。

 待て待て、おいちょっと待て。

 馬鹿か……俺一匹で何が出来る?

 坊っちゃんの匂いは見つけられれば追えるだろうが、何時間もすりゃ匂いは消えていて然るべき。

 万が一見つかっても、怪我なんぞされていたら俺だけじゃ運べない。


 クソっ、役立たずも良いところじゃねぇか。

 ダメだ。俺だけじゃあ、どうにもならん。


「…………」


 俺は、後ろを振り返る。

 落ち着け、悲観的になるな。

 何も、坊っちゃんがピンチだと決まった訳じゃねぇ。

 ここは、少しでも……助けを求めるべきだ。俺は、いつだってそうしてきたじゃねぇか。


「フスッ」


 ここで体力使い切るつもりで、走り直す。

 目的地は、森ではない。

 一直線で俺は、丘を下る。


 まさか、寝てるなんて言うなよな!




    ◆  ◆  ◆




「フシッ! フシャア!」


 俺は、建物のドアをガンガンと蹴り飛ばす。

 いつもなら坊っちゃんが開けてくれるのだが、今の俺にはこの施設の重いドアは開けられん。

 それが妙にイラついて、蹴る脚にも力が入る。


「は、はいっ、今開け……ひゃあ!」


 中からドアを開けたのは、ここ最近彼氏が出来たっていう、受付の姉ちゃん。

 そう、ここは商人ギルドだ。

 ドアが開いた瞬間、俺は中に体を滑り込ませる。


『ギルネコ! おいギルネコぉ!』


 受付に寝転がるいつもの背中を探すが、その姿はない。

 クソ! 肝心な時に使えねぇなアイツ!


『ダァれが使えんやつにゃんならぁ』

『ぬおぉ!?』


 と思ったら横にいたね!?

 なんなのエスパー? なんで思考読まれたの? なんなのエスパー!?


『さっきコンステッドが来とったにぃ。話は聞いたにゃんならぁ』

『そ、そうかよ。それなら好都合だ! 人を派遣してくれ。森の中をくまなく探すんだ!』

『森ぃ? 当たりがついてるにゃぁか』


 俺は、昨日の会話を説明する。

 何で忘れてたってお叱りも覚悟していたが、ギルネコは「ふぅむ」と唸っただけだった。


『森っつってぇも、範囲が広すぎにぃ? 人材もそりゃあ派遣するなぁが、せめて当たりをつけんと……』

『元俺の群れの近くを当たってみるつもりではいるが……』

『そこまで行ったのが昼間だとして、まだそこにいるっちゅう保証は……可能性低いんじゃにゃあか?』

『じゃあどうすりゃあ良いんだよ!?』


 思わず全身の毛が逆立つ。

 コイツ相手に勝てる気はしないが、掴みかかってしまいそうだ。


『落ち着くにゃんならぁ。こういう時は、遠くから気配をたどる奴に話をつけてみるにぃ』

『あ、あぁ? そんな奴いんのかよ』

『んなぁ、この状況でそういうのを頼むのは、ちと危険な気もするが……』


 言ってる場合か!

 俺が睨むと、ギルネコは肩をすくめる。

 仕方ないとばかりに、施設から出ていこうとして……



『そうさねぇ、格安でその話、受けてやろうじゃないかぃ』



 ギルド内の角から、念話が響いた。

 聞き覚えのあるやつだ。というか、こんな事するやつ、この町ではギルネコと、もうひとりしかいない。


『ナディアか!?』

『ずいぶん大変な事になってきてるねぇ? コンステッドがこっちにまで人材を依頼してたからねぇ』

『……んで、おみゃあも動いた訳にゃんならぁ? カクの気配をココで感じて』

『今が押しどころだと思ってねぇ。いい女だろう? 男の窮地に颯爽と現れる救いの主さね』


 その言い分からすると、ナディアが人の気配を探れる力を持ってるんだな?

 確かに、出会う時にはコイツから都合よく現れてた気もするけど!


『よ、良しナディア! 坊っちゃんの居場所、わかるんだろ?』

『まぁ、森って絞れてるんなら、どの辺りか程度なら読み取れるねぇ』

『最高だ! 早速頼むぜ! 今度いいギャンブル教えてやっからよ!』

『いらないねぇ』

『ありがとうよ! すぐに駆けつけ……はぁ?』


 今こいつなんつった?

 いらないって言いました?


『アタシャもう、その程度の報酬で動く気はないねぇ……あの坊っちゃんには助かって欲しいが、だからって釣り上げ時の交渉に即決で判子押すほどの未練もないのさ』

『んがッ、お、お前なぁ……!?』

『アタシの力を借りたいなら、アタシが要求する条件を丸々飲むんだね。じゃなきゃ話はお流れさね』


 ここに来て性悪を発生させんじゃねぇよ!? ギルネコが「ほらにゃ?」って顔してるのが納得だよ!

 くっそ、何を要求してくる? 日本の菓子か。建築技術か!?

 ……だが、ここで延々と値段交渉してる場合じゃねぇ。


『っだー! わかった、どんな要求でも飲んでやらぁ! だから協力してくれよ!?』

『ふふ、毎度ありぃ』

『マジで頼むぜオイ。俺ぁ今回そんなに気を長く構えてる時間は……』



『じゃあ、これからよろしく頼むよ。旦那様?』



 ………はい?


『ささ、魂の契約と行こうじゃないか。アンタとアタシ、二人で幸せな家庭を築く……クサイ内容だがそれが一番わかり易いからねぇ。受理もされやすいってもんさ』

『ちょちょちょちょちょ、え、は、えぇ~?』

『急いでるんだろう? 式は後でで良いさ。こんなに気が長いなんて、アタシは良妻になれるねぇ』


 こ、こ、コイツ……!

 この状況で、俺にプロポーズしてきやがった!?

 しかも絶対に逃げ切れねぇ状況じゃねぇか!


『あ、悪魔みてぇなやつだな、おめぇはよ……』

『まぁ、悪魔だからねぇ』

『はいぃ!?』


 更に爆弾を落として来ますか!?


『妖精がいるんだよぉ? そりゃあ悪魔だっているさね。悪魔イポスっていやぁ、魔界ではそれなりに知れた女だよ。良かったじゃないか、逆玉ってやつさ』

『脳が処理しきれない!? いや確かに姿消してたりワープしてたり色々規格外だったけども!?』

『まぁ、それで? 知った上でどうするんだい。拒むのかい?』


 ぐ、お、おぉぉ……!

 正直、正直めっちゃ怖い……!

 けど、ぬおぉ、けど……!


『……ふ……』

『ふ?』

『ふつつか者ですが……! よろしく、おねがいします……!』

『……ははっ。あぁ、大事にするし、これからも坊っちゃんとの契約は続行してていいさ。ただ、アタシとも深く深ぁく繋がれるだけさね……』


 その瞬間、俺の中の何かが、ロックされた様な感じがした。

 明らかに、コイツになんかされたんだろう。


『じゃあ、契約したんなら、願いを叶えてやんないとねぇ? 坊っちゃんの魂がどこにあるのか、見てあげようじゃないかぃ』


 ナディア……いや、イポス? えぇいめんどくさい、ナディアでいい。

 指を軽く舐め艷やかな笑顔で笑うコイツを、俺はとうとう受け入れてしまった。

 背に腹は変えられなんとしても、なんか……美人局つつもたせに引っかかっちゃった気分なんですが……!

 

イポス。

いろんな動物がごちゃまぜになってる悪魔ですね。

兎要素は尻尾しか本来ないのですが、とあるTRPPGでイポスの敵データがまんま兎だったのでこちらもそれにあやかって兎単体にしました。

そっちのが可愛いからね!

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