三章ー終
どもどもべべでございます!
ここ最近で好きなキャラがはっきりしてきたもんだから、登場に偏りがみられますねw
さて、今回で三章は終了。発展を見せたことで物語が動きはじめますね。
ここから幕間を通して、後は最終章です!
どうぞお楽しみあれ~
それから、秋の暮までのお話。
俺としては、もう町の為にどうこうなんてつもりは微塵もない。
米も食えるようになった、遊び相手もできた。
これからも美味い野菜をたらふく食えるし、昼寝ポジションも開拓できた。
となると、もう後はぐうたらするしかない訳で。
俺は全てを他人に任せ、自分ではほとんど何もしない自堕落な日々を送っていた。
食って出して寝る。命の危険無し。三食確約の最高級環境。
まさに人生を謳歌するには最高の条件が揃っているというものだ。
『あ~……幸せだぁ』
『……本当に、ダメな男だねぇアンタは』
屋敷の屋根の上にて。
寝転がる俺の隣に腰掛けているのは、先程までおっさんと話していたナディアだ。
念話を自前で使える魔物は、こうして自分から交渉にも出向く。今回は盗賊ギルドと、領主一家との関係を見直すための会議を行っていたとかなんとか。
『お~ナディア。まぁ座れよ、ここは今の時期いい塩梅なんだ』
『まぁ、確かに日が気持ちいいがねぇ……ちと風が寒くないかい?』
『そうか?』
『……あぁ、更に肉が……』
『確かに少し肌寒いかもしれねぇな! うん、ここにいたんじゃ風邪引いちまう!』
まったく、デリカシーの無い女だ。
確かに俺はここ最近だらけているが、それにしたって運動もしているのだ。太る訳がない。
町に散歩にだって行く。チビっ子からも逃げている。給仕の姉ちゃんからも隠れている。これ以上の運動は体に毒ってレベルだ。
『それよりっ、お前がこうして家にいるって事は、話が通ったと見て良いんだな?』
『……あぁ、通ったさ』
話の急な方向転換にため息をつきつつ、ナディアは書類を取り出した。
そこには、オッサンのサインと、後は誰かよくわからんサインが記されている。
『盗賊ギルドと、アッセンバッハ家の関係をより綿密に……まぁ、「お抱え」にする契約だね』
『これでお前らは、大本の盗賊ギルドから離れて、ここに根を張ることになるんだな?』
『あぁ、そうさ。本部には盃を返して、アタシらはここで一つの組を立ち上げた事になる。んで、そのバックに、アッセンバッハ家が座って貰うことになったってわけさ』
盗賊ギルドは、けして犯罪者の集団ではない。ある程度人の多い場所では確実に起こりうる、闇の部分を取り締まる組織だ。
賭場の経営、密輸品の管理。目先の儲けに目が眩んだ馬鹿共の処理。エトセトラ。
全て、対処が必要な事だ。
だが、後ろ暗い事をしているのは確かなわけで……こういった組織には、確実にバックがついてもらう必要がある。
『でもよ、良いのか? こっちに鞍替えなんてよ』
今までナディアの組織にいたバックは、この町とは別の都市にいた大物組織だったという。
そんな所に盃返すって、結構大変かつ勿体無いことなんじゃないのか?
『ハッ、心配いらないさ。向こうの偉いさんの1人には貸しがあってね。その伝を使わせて貰ったから楽に進んだよ』
『詳しくは聞かないでおこう』
『それがいいさ。……それに儲けについては……あそこに上納出しながら過ごすよりも、ここで領主様のお抱えやってた方が儲かると判断したのさ』
ふぅん、思い切ってるねぇ。
まぁ確かに、ホーンブルグは最近、他領からの商人が多くなってきてる。
職人達の工芸品が目をつけられているって話だ。……あとは、もちろん米だな。
冬が訪れる前までに、なんとか情報を集めたい連中がわんさかいるみたいだ。確かに、今のホーンブルグなら盗賊ギルドも甘い汁を吸えるだろう。
『ギルネコとも話しは通してるし、情報の管理は徹底させてる。ホーンブルグ発展の秘密を握れるのは、等分先だろうさ』
『怖いねぇ、そこまでやった上で向こうを切った訳だ』
米と、それに合うオカズという、美味い飯。
ギャンブルという、のめり込む程の娯楽。
コマを中心とした、土産にピッタリの工芸品。
うん、この町が潤う下地はもう出来上がってるわけだ。
各ギルドとの仲も良好。アッセンバッハ家を中心に、全てのギルドが手を取り合っている。
これは……本格的に、俺は隠居していいな!
『ま、なんにせよこれでアタシらは身内みたいなもんだ。いつでも話し相手になってやるさ』
『へいへい、嬉しい限りだよ』
『アタシとしては、アンタにはもっと喜んで欲しいんだがねぇ……こんな別嬪がいつでも押し倒せる位置に来たんだよ? 男を見せてみたらどうさね』
『馬~鹿。いい女に言い寄られるようになったら、それは男としての死期が近いわけ。俺はもう少し遊んでいたいんだよ』
まったくもって勘弁して欲しい。
コイツの目的は俺の頭ん中にある情報だろうに……一々誘惑してきてたまったもんじゃない。
抑えるこっちの身にもなれってんだ。ただでさえ兎は年中繁殖可能なんだぞ?
『まったく、強情だねぇ……こちとら冗談半分で口説いてる訳じゃないんだよぉ?』
『わぁったわぁった。今度町一番の料理人のディナーに招待してやるから我慢しろ。ついでに月を見上げての一杯と洒落込みゃあお前も満足すんだろ?』
『……どこまでが本当なんだか。ま、いいさ、期待してるよ?』
『へ~いへい』
これ以上コイツに誘惑されたら自分の中の何かが飛びそうだ。
俺は逃げるように立ち上がり、実際逃げに出る。
『じゃ、俺は坊っちゃんを探してくるわ。お前も気をつけて帰れよ?』
『……アタシを誰で、ここをどこだと思ってんだい。雷にでも打たれない限り、この町で死ぬことなんざありえないさ』
『はっは! 違ぇねぇ。んじゃ~な』
窓枠に体を滑り込ませ……ふんっ、ふんっ!
……す、滑り込ませ、屋敷の中に入る。大丈夫だよな。歪んでないよな?
俺はそのまま、坊っちゃんを探して廊下を歩くのだった。
『……まったく、ダメな男に引っかかっちまったもんだねぇ』
……念話漏れてんぞ。本当に……勘弁してくれぃ……。




