三章-4
どもどもべべでございます!
この物語、全4章で終わる予定ではあるのですが、うまくまとめられる気が遠のいてきたw
頑張ろう。
というわけでご投稿! お楽しみあれ~
せんべいは、料理長のおかげで最高の出来となった。
やはり、蒸すとお米のモッチリ感が違ったわ。
餅みたいに臼と杵で突いて作る訳じゃなかったが、それでも餅としか呼べないくらいにドゥルッドゥルになってたもんな。
熱い内にガンガンこねていく、料理長の手腕あってこそだなぁ……坊っちゃんは熱すぎて断念して、せんべいの形に整える仕事してたし。
『……で? そのせんべいってのがこれな訳かい』
『おうよ』
『はぁん……?』
で、そのせんべいが、今俺の目の前にある。
うん、どこからどう見てもせんべいだ。どこぞのサラダ味とかの奴がこんな感じの見た目してたし。
んで、その山と積まれたせんべいを囲むのは、アッセンバッハ家の面々……ではない。
『んでぇ、なんでまたワッシらにこれを持ってきたにゃんならぁ』
『美味しそうだねーっ』
『そうかい? えらく硬そうだがねぇ』
ギルネコ、くま子、そしてナディア。
町内魔物トリオ、俺を含めてカルテットの奴らがこの場には揃っている。
この前場所を覚えた集会場。あそこにこのせんべいを持ってきたわけだ。
何故かって? ギルネコよ。
『作りすぎたからだよ』
そう、作りすぎたのだ。
いくらせんべいが湿気らなきゃ日持ちするからって、俺達はいいやいいやで焼きすぎた。
結果できたのが……机の上に広がる、複数の山脈だったのである。
『家族には人気だったから、味は保証するぜ。硬さは俺の好みで堅焼きだ』
『ふぅん……米ぇ使ってこにゃぁな事もできるんにゃんならぁ』
ギルネコは興味があるようで、鼻をひくつかせて匂いを確かめている。
ナディアはその辺のブロックを肘掛けにして寄りかかり、興味は薄め。くま子は……あぁ、早く許可ださないと突貫しそうだな。
『ま、まぁ、食ってみてくれよ。領主のおっさんとしては、菓子屋にレシピでも売ってやりたい出来らしいんだけどな? 一応お前らの意見も聞いてみたいのさ』
『いいの!? 食べるね! いただきまーす!』
俺が言うが早いか、くま子が数枚を掴み取ると、まとめてその口内に押し込んだ。
ブァリゴリボリグォリ!! と、口ん中からしちゃいけない音が響いてくる。
『おいナディア引くな。あれは特例だ! 本来の食い方と違うから!』
『い、いや……鉛でも入ってんのかいあれ?』
『んなわけあるかい! ちゃんとした硬さと塩気を楽しむ菓子だっての!』
ギルネコとナディアは引いちゃってるのか、せんべいに手を出そうとはしない。
いやまぁ、あんな明らかに「歯ぁ、折っていいすか……?」的な音を聞いちまえば無理はないかもしれんが!
『ま、まぁ食ってみろよ。ほら俺も食うぞ?』
手本として、一枚取って齧りついてみる。
……うん、ゴリッとしてていい硬さ。塩梅のいい塩気もたまらな……
『おいしーーーーーーーーーーぃ!!』
『ぶっふぉぉぉ!?』
み、耳元で咆哮がぁぁぁ!?
『ギルネコくん、ナディアちゃん! スッゴクおいしいよー!』
『くま子が吠えるとは……美味いのは本当みたいさねぇ』
『んにゃ、退避してて正解にゃんならぁ』
『お、お前ら……せめて、教えてから離れてろよ……』
あ、頭の中でくまたんが俺の脳をベアハッグしてくるんです……なまじ感度の高い耳が、スッゴクいっぱい、音拾っちゃうんです……!
『よし、じゃあ食うにゃ』
『だね。ありがたくいただこうかい』
瀕死となった俺を見もせずに、あの二匹は何事も無かったかのようにせんべいに手を伸ばす。
くま子は言わずもがな、襲いかかるように食い始めた。
お前ら……月のない夜道には気をつけろよ……!
『ほぉ、確かに硬ぇにゃがらぁ。美味いにゃんならぁ』
『塩気がいい塩梅じゃないかい。こりゃあ茶が欲しくなるねぇ』
『おいしいおいしいおいしいよー!』
あぁくそ、ようやくまともに頭が働いてきた。
そんな俺の視界の先には、猛烈に消費されていくせんべいの山が見える。
おい、俺まだ半分しか食べてないんですけど。
『く、くま子、おい! 食い過ぎじゃねぇ!? 一応お持ち帰りも考えて持ってきたんですが!?』
『おいしいおいしいおいしいよー!』
『ダメだよ、カク。こうなったくま子は止らんないさ。一応アタシらが食べてても取られたとは思わないから、今ここで全部食っちまおうじゃないかぃ』
『んにゃ。一枚はワッシの袋に入れておくにゃで。商人ギルドに見本は持っていけるにゃんならぁ』
『うぅむ……見誤ったなぁ。くま子が食で暴走するとは』
仕方ない。こうして美味いことが伝わっただけ良しとしよう。
これなら、おっさんや坊っちゃんがせんべいのレシピを売り出しにかかった時に食いつきがよくなるだろ。
『……所で、ギルネコ』
『にゃ?』
『米が市場に出回るようになったんだ。これで民草は冬を越せるだろうし町も満遍なく潤うってもんだろう?』
ナディアがギルネコに語りかける。
このタイミングで金の無心……これはあれかな?
『……おみゃあが何を言いたいかはわかるにゃ。……まぁ、このせんべいを焼く道具も職人達に回せば差別なく経済は回るにゃんならぁ。食品、工芸、この町が回す商法の両方が回るようににゃったなんで、ワッシからはもうとやかく言わんにゃんならぁ』
ギルネコも俺と同じく感づいているらしい。肯定的な意見を返す。
つまり、これで後顧の憂いは無い訳だ。ナディアのにんまりした顔を見ればそれがわかる。
『よぉし、ありがとうよ。……さぁカク、ここからは男と女でビジネスの話しと行こうじゃないかい』
『おいおい、昼間っからお誘いなんざ過激じゃねぇか』
『生憎と、昂ぶっちまったら抑えきれない質でねぇ? そこの隅でしっぽりと……なぁ?』
『まいったねぇ、こりゃあ断れそうにねぇ。満足して貰えるといいんだがなぁ』
『……おみゃあら、それわざとにゃんならぁ? くま子の教育に悪いにゃ。よそでやりぃ』
ハッハッハ。ナディアはノリが良いからついやっちまうな。
まぁ、それはそれとして、せんべいはくま子がしっかり消費してくれるだろう。
俺は俺として、もうひとつの案件をすませようか。