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五縄の桜  作者: 潜水艦7号
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最後の闘いへと誘いし屋上の夜風は

「ちっ‥‥」

アザミが唇を噛む。


「まさか、そういう手に出るとはね‥‥」


アザミが悟った通り、桜生が打った『手』は『電源回路の短絡(ショート)』だった。


近くにあったブレーカーに昨晩拾った『ハンガー』を突き刺して短絡を掛け、過電流によって発電機の元ブレーカを『飛ばした』のだ。


昨晩、桜生は廃屋に立ち入って『村には電気が来ていない』事を確認していたのだが。

にも関わらず、中学校からは『明かり』が漏れていた。


とすると。

アザミ達はバッテリーか、発電機を持ち込んでいるのは間違いない。


笹川が以前、骸島で「大勢が居るなら、どうしても発電機が居る」と言っていた事を考えても、それは必須になるだろう。


更に、柏木は『力仕事に来た』と言っていた。

単に男手が欲しいのなら、山下や葛城といった若い手があるのだからワザワザ『力仕事』を頼む理由は無い。


あるとすれば。

それは、重量のある発電機や燃料を屋上まで『持って上がる』事だろう‥‥と桜生は考えて居た。その電源を校舎の配電系統に接続しているのでは、と。


しかもだ。

山下にしろ葛城にしろ、自分がやって来てから『電気を点けていた』事からして、その発電機もそこまで大容量のものではないと桜生は考えていた。


だとすれば、何処か一箇所でも『短絡』させれば発電機はたちまちにして容量不足に陥って『ダウン』するだろう‥‥と。


無論、アザミは『発電機』をフル活用する戦略であったが、『それ』が機能しなくなったことで逆に『お手上げ』状態に陥ってしまった。


電源を回復させるには、短絡している原因である『ハンガー』を取り除かなくてはならない。そうしないと電源スイッチを入れ直したところで直ぐに切れてしまうからだ。


しかし『修復』のためにと迂闊に出張れば、桜生が何処から襲ってくるか分かったものではない。それは出来る限り避けたいシチュエーションだ。何しろ自分の身代わりとなる『持ち駒』は全て使い切った後なのだから。


「くっそ‥‥参ったな‥‥」

アザミは仕方なしに、部屋を捨てて屋上に向かった。


こうなった以上、いつ何処に桜生が現れても不思議はない。だとすれば『最終決戦の場』として選択した屋上で残り時間を『待つ』しかないという判断である。


早めの移動を選択したのには『夜目』の問題もあった。

先程まで明るい部屋にいたので瞳孔が狭くなっている。そのため、なるべく早く暗い場所に眼を慣らす必要があったのだ。


ガラ‥‥ン

屋上のドアを開ける。


ビュウビュウと強めの風が吹き晒している。


「うん‥‥」

アザミは大きく頷くと、ゆっくりと外に出た。


「‥‥いい風ね‥‥」


そして、給水塔の上に昇る。


眺望と言うのなら、まさに絶景と言っていいだろう。

遠くの海に漁火いさりびが揺らめいているのが見える。


アザミは、腕時計を確認した。

「あと‥‥30分か‥‥多分、やって来るにしても『ギリギリ』よね‥‥」


せめてもう少し厚手のコートを持ってくれば良かったと、アザミは後悔した。

身体が冷えるのは、正直あまり嬉しく無い。



その頃、桜生も闇の中で『時間』を確認していた。

そう、『ギリギリ』まで待つためだ。


今は少しでも休んで体力の回復を図りたい。

どちらにしろ勝負は一瞬になるだろう。もとより長期戦はありえない。


あと少し、本当に『あと少しだけ』身体が動いてくれれば、それで良いのだ。

桜生はじっと息を潜め、眼を閉じた。



その頃、柳枝は柏木と共にエントランスで山下と葛城の介抱をしていた。

傍には黒焦げになった桜生の『上着』と、放り投げられたままのリュックが転がっている。


「‥‥静かですね‥‥」

柏木が屋上を見上げる。


「ああ、こうなったら『タイムアップ間際』が勝負だからな‥‥」

柳枝がポケットから懐中時計を出す。


「‥‥先生、珍しいものをもってますね?」

柏木が柳枝の懐中時計を指差す。


「これか?ああ、電気工事をするのに『腕時計』は危ないからさ。それに猟銃を構える際にも腕に何かあると気になってね」


そして、ふーっと息を吐いた。

「あと、少しか‥‥」


刻一刻と、『その時』は迫っている。


「やれやれ‥‥自分の事のように緊張するよ‥‥」


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