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五縄の桜  作者: 潜水艦7号
32/41

待ち構えしは、居る筈の無い男にて

2日目の夜が来た。

やはり、アザミの読み通りに日中『堂々と』桜生がやってくる事は無かった。


桜生が『動いた』のは、午後も10時を回ってからの事だった。

アザミの手元にあるセンサーに反応が出る。


「おっ!ついに来たわね‥‥!」

眼を見開いて、モニターを凝視する。


桜生が現れたのは『正門』からだった。


「うー~ん、そう来たかぁー。残念だなぁ『穴の空いたフェンス』とか、『一部が砕けたブロック塀』とか、色々と『入りやすそうな場所』を用意してあったんだけどなぁ‥‥トラップ付きで、だけど」

それでも、アザミは極めて楽しそうである。


モニターの向こうで、桜生は不規則に左右へ身体を振りながら中へと進んでいた。


「ははは、『ライフル対策』ってワケね!確かにスコープだと左右に振られる『的』は照準が合わせ難いからねぇ‥‥でもね」


ニヤっと、アザミが嗤う。


「ご心配なく。確かに『ライフル』は有るあるケドね。でも、それはアンタを撃ちやしないからサ。ま、『ライフルは』だけどね‥‥」


桜生は、尚も周囲を警戒しながら校舎へと近づいていく。

ふと、エントランスの付近に何者かが『座っている』のが見えた。


相手も、桜生に気がついたようである。

その『何者か』が立ち上がった。それほど大柄ではない。


「やぁ‥‥桜生君。初めまして‥‥と言いたいところだが、実は10年振りなんだ。‥‥君は覚えていないと思うがね?」


それは、合気術・柳枝鏑の父親だった。

実は桜生と柳枝は親戚にあたる。桜生の実母は柳枝の妹なのだ。


「‥‥アンタは‥‥もしや、柳枝鏑の‥‥?」


訝しがる桜生に、柳枝が近よる。


「ああ、よく分かったね。その通り、鏑の父親だよ。‥‥おっと、別に警戒してもらう必要はない。何しろ私は鏑の『敵討ち』に来た訳じゃないから」


「‥‥。」

桜生はそれでも警戒態勢を解いていない。


「私はアザミ君に頼まれて『手伝い』に来ただけさ。この闘いが滞りなく進むためにね。何しろこの辺りは『熊』が出るし、危ないから。私はね、この近辺の猟友会の会員になって長いんだよ」


そう言って、柳枝はライフル銃を担いでみせた。


「アンタか‥‥川べりに『岩魚』を突き刺さしてあったのは‥‥」


熊の習性を知りこその『罠』ではないのか、という意味である。もしも『そう』なら、それは『加担』と言えるだろう。


「いや、それは私じゃないよ。私もそこまでエゲつなくは無いからな‥‥何しろ、私の立場は『どちらにも味方はしない』だ‥‥」


両者の間に緊張が走る。


このまま、柳枝を捨て置いてよいものか。


桜生は考える。

なるほど、柳枝の立場は微妙と言えた。


『前回の宗家争いに出た門弟は、その次は権利がない』のがルールだとすると、そもそも現宗家が片桐と決まった時には、同門である柳枝には『出る資格そのもの』が無かったのだ。


笹川も『前回に出ていない』という理屈で桜生との闘いに臨んでいる事を考えれば、柳枝が『加担』したとしても全くの『掟破り』とは言い難い。


五縄流が『遣えるものは何でも使う』をモットーとするのなら、『柳枝の参戦』もまたアザミの用いる『手段のひとつ』と言えるだろう。後は、柳枝自身が何処まで『本気』なのかだが‥‥


ジリ‥


間合いを取りながら、桜生がエントランスの方に向かおうとした、その時。


バシッ!


「うっ‥‥!」

突然、桜生の胸に痛みが走る。何かが胸に当たったのだ。


『ライフル』は柳枝が持ったままだ。それに銃声は聞こえなかった。


が‥‥!

着弾した箇所から煙がたなびき、鼻を突く強烈な異臭がする。


「これは‥‥!」

桜生の顔色が変わる。


バシッ!バシッ!


続けざまに2発、桜生の上半身に何かが『着弾』する。そして、先程と同じように異臭を放って煙を吹き出し始めた。


「くっ‥‥!」


堪らず、桜生がその場を駆け出す。


慌ててエントランスに逃げ込む桜生の背中を見つめながら、柳枝が呟く。


「はは‥‥私に気を取られすぎて、狙撃手に気づかなかったか‥‥彼の『気』をそこまで逸らせられるとはね。いや、私もまだまだ『捨てたもんじゃない』な‥‥」



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