最後の闘いは静かにその幕を開ける
「やぁ‥‥高いなぁ!‥‥海の向こうの‥‥アレは骸島かな?此処からだと良く見える‥‥」
バタバタと吹く強い風に煽られながら、黒壇アザミは屋上にある給水塔の上に立っていた。
最後の闘いの舞台としてアザミが選んだのは、山奥にある廃村だった。
その最終ゴールは、打ち捨てられた当時の中学校跡である。
此処は第二次世界大戦前後に炭鉱の村として隆盛を成したが、その後は廃山となり、ほどなくして住人も立ち去っていたのだ。
山を縦断する県道から古い脇道が伸びている。
その入口に掛かる通行止めの看板が当時の面影を残していた。
そして、そこから約10kmほど山奥に入った場所に、その目的地たる中学校跡はある。
無論、今となっては誰も世話をする人間なぞ居ないので荒れ放題もいいところではあるが、それでも頑丈なコンクリート製の建物は今でもその姿を留めていた。
アザミが桜生に提示した期間は『2日間』である。
2日後の午前零時丁度が、そのタイムリミットだ。
それまでに、桜生が『お宝』である『三代兼光』を手中に収められれば桜生の勝ち。なし得なければアザミの勝ち‥‥というのが、今回のルールだ。
無論、『そこ』には暗術の師範代たるアザミが念入りに設置した『トラップ』が十重二十重に待ち構えているのだ。
『三代兼光があれば桜生は釣れる』
アザミはそう確信していた。
それは単に膨大な刀剣コレクションを持つ笹川が大怪我の中にあっても『渋る』ほどの値打ちを『三代兼光』が持っているというだけでなく、『手に馴染んだ』という桜生のセリフからも『やると言えば来るだろう』という読みであった。
「‥‥ん?アレ‥‥かな?」
給水塔の上にはモニターが持ち込まれていた。村への入り口にはバッテリー式の監視カメラが隠されており、何かが動いた場合のみ、その姿を発信してアザミの手元に画像を送る事が出来る。
モニターには、競技用自転車に荷物を背負ってやって来た桜生らしき人物が写されていた。
「さーてと。まぁ‥‥『そんなもの』で仕留められるなんて思ってないケドさ。せいぜい、時間を消費してくださいな!」
アザミは上機嫌で、首から下げていた無線機を摘み上げる。
「‥‥皆んな、来たわよん。でもまぁ‥‥此処に『来れる』のは、せいぜい1日半後がイイところね。それまでは寛いでてチョーダイな」
桜生は額の汗を拭いながら、まじまじと『入り口』を眺めた。
通行止めの、古びた看板がぶら下がっている。
舗装されていない道路には、比較的最近に付けられたと思われる轍が残っていた。
「‥‥。」
じっと、目を凝らして地面を見つめる。
その視線の先、3mほどのところだけで妙に雑草が生えていない場所がある。
「トラップ、か‥‥」
自転車の荷台から荷物を下ろすと、それを担いで通行止めの看板を跨いだ。
ここから先に自転車は使えそうになかった。ヘタに走れば何かしらのトラップを踏む可能性が高い。
荷物の中から『釣り竿』を取り出す。それを伸ばすと3m弱ほどになった。
そして、その先に少しだけ糸を垂らし、錘を着ける。
竿先で錘がユラユラとぶら下がっていた。
ジャキ‥‥
最初の一歩を踏み出しながら、その錘で『怪しい地面』を突いてみる。
バシッ!
乾いた音とともに、何かが地面から跳ね出して来た。
それは、大型の『トラバサミ』だった。
野獣などを捕獲・駆除する際に用いられるものだ。
捉えた獲物を離さないようにギザギザになっている『ハサミ』は、キレイに研がれている。それは、明らかに捕獲ではなく『切断』を狙ったものだ。
「うむ‥‥」
なおも、桜生は辺りを見渡す。
不自然に反っている枝が有ったりすれば、其処にはワイヤーなどが張られている可能性がある。
或いは落とし穴があったとしても、不思議ではない。
此の分では、前進は容易ではないのが見て取れる。
ふと、桜生の右下の方、崖の遥か下に小川が流れているのが見えた。
ハンディのGPSマップを取り出すと、その川の上流は村の方から伸びているのが確認出来る。
「川沿いの方が、まだマシか‥‥」
ふっー‥‥と息を吐くと、桜生は慎重に崖下目掛けて降りていった。




