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五縄の桜  作者: 潜水艦7号
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主を失った血塗れの島に佇みて

「ううむ‥‥これは凄いな‥‥」


アザミの祖父にして五縄流暗術の師範は、尊敬を込めて『黒壇翁』と呼ばれている。


その(よわい)90にして尚も矍鑠(かくしゃく)とし、未だ暗殺者としての殺気と腕を保ち続けている。いや、歳を重ねた分だけ或いはその鋭さを増しているのかも知れなかった。


アザミは船を出した後に一旦、我が家に戻ると祖父を連れて骸島に戻って来たのだ。


黒壇翁は笹川が蒐集していたという武具を、ひとつづつ手にとって調べていた。


「これだけのコレクションだ‥‥笹川君だけで集められるものではあるまい。恐らくは先代からの伝承品もかなり有ると見て良いだろうな‥‥」


「ふーん、そうなの?」

アザミは、陣幕の片付けをしている。


「ああ、刀剣類は何しろ金額が『張る』からな。例えば、この『銘・長篠乃守是光』だけでも、買えば数百万‥‥いや、そもそも『欲っした』としても所有者を見つけるだけも容易ではあるまいて‥‥」

黒壇翁はしきりと感心している。


「‥‥いいけどさ」

呆れ顔のアザミが手を止める。


「少しはこっちも手伝ってくれない?お爺ちゃんの楽しみだけのために呼んだんじゃないから。人手が要るんだからさ、片付けるにも」


「おお‥‥そうじゃったな。ほほ‥‥忘れておったわ」


黒壇翁は刀を置き、陣幕の畳み込みに手を貸した。


「それにしても、随分とハデに血が飛んでおるのぉ」

しげしげと、黒壇翁が砂浜を見つめる。


「う‥‥ん。まぁね、現代で『ああいう闘い』ってのは二度と見れない光景だったと思うわ。ホント、いい経験」


満足げに、アザミが笑う。


「全く‥‥誰に似たのやらのぉ。ところで、アザミよ」

黒壇翁が問いかける。


「『次』はいよいよ『お前』という事になるが‥‥どうするんじゃ?笹川君と違ごうて儂は前々回の宗家争いに出とるからな‥‥残念だが『代わってやる』ことはでけんぞ?」


気遣う翁にアザミは、フフ‥‥と嗤って見せた。


「『代わる』?そんなコト、必要無いわ。笹川先生じゃないケド『こんなコト』一生に一度の経験よ?思う存分、楽しませてもらうつもりだわ」


「やれやれ‥‥で、何か考えでもあるのか?」

溜息をつく黒壇翁に、アザミが目を細める。


「まぁ‥‥ね。色々と考えたケド『迷宮攻略ラビリンスゲーム』とか‥‥どうかなって‥‥」


「『らび‥』?なんじゃそりゃ」

黒壇翁は怪訝な顔をする。


「ふふ‥‥『タイムミリット』を設けてサ、桜生クンに『お宝』をゲットして貰おうってワケ。無論、アタシ特製のトラップ付きでね。それで、時間をオーバーしたら『アタシの勝ち』ってコトで。どうかしら?」


アザミは確かに『一般の』男性からすれば、遥かに高い戦闘力を有していると言えるだろう。だがそれも桜生が相手となれば勝手が違う。

とてもではないが、アザミが真正面から遣り合うに適した相手ではないのだ。


「うー‥‥ん。確かにそりゃ『暗術』とはそういうモンだが‥‥『それ』だと一方的にアザミに有利じゃろ?はたして桜生君が受けるかな?」


首を撚る黒壇翁だが、アザミには確信があったようだ。


「大丈夫よ、多分ね。彼は意外と『付き合う』わよ?これまでの闘い具合を見てるとね。それに‥‥」


ザク‥‥ザク‥‥と砂浜を歩き、アザミが真っ赤に染まったままの『決着の場』に立つ。その脳裏には、先程ふたりが見せた神々しいばかりの光景が眼に焼き付いていた。


チャキ‥‥


地面に置いてあった血塗れの刀を手に拾い、アザミはそれを軽く拭ってから鞘に仕舞った。


「お爺ちゃん、コレね」

アザミが拾った刀を黒壇翁に見せる。


「笹川先生に『おねだり』しちゃったの。そしたら『あげる』って言ってくれたのよ!凄いでしょ?『これ』がターゲットの『お宝』ってワケ!」


アザミは『おねだり』と言ったが。

『それ』はとても安易に『くれる』ような代物ではない。

アザミは怪我の手当てと搬送、後始末に口止めの一切を含めて『対価』として『強請(ゆす)った』のだ。


それは、笹川自身が見せた『断れない状況とタイミング』をそのまま応用したものと言える。


「ふふふ‥‥」

三代兼光を見つめながら、アザミは満足そうに笑う。


その『眼』には非情さと残酷さ、そして狂気の光が滲み出ていた。




対・笹川戦を書き終えたところで。

「しまったな‥‥下手すると最後の対・アザミ戦が笹川戦よリショボくなるぞ‥‥」

という危機感がありました。

何しろ、どう見ても真剣での斬り合いに勝てるタイマン勝負は無いワケで‥‥


それをどうにか打開するために、最終戦は少し話が長くなりました。

自分としては「全ての決着」と呼ぶに相応しい闘いに仕上げたつもりです。

最後の後日談と合わせて、この物語の「まとめ」としてお楽しみ頂ければ幸いに存じます。



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