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五縄の桜  作者: 潜水艦7号
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昼飯に語らうのも、また兵法のひとつにて

「昼飯にしよう」


笹川は確かにそう言った。


突然というか、あまりに予想外の事でアザミは面食らっていた。


なるほど、炎天下で長時間での睨み合いとなれば体力勝負で笹川の不利は明らかだ。しかし『だから』と言って『昼飯』にかこつけて勝負の中断と体力回復を図るなど、普通は考えも着かないことだ。


ある意味、豪胆というか‥‥


ふと桜生の方を見ると、桜生も真意を計り兼ねて困惑しているように見える。

アザミにしてみれば、これほどまでに桜生が心中を表情に出しているのは初めて見る光景だ。


「‥‥どうした?別に変な話では無いだろう。我々は『憎み合って』闘っているのではないのだ。腹が減れば飯を食う、いとも単純な話だよ」


笹川は桜生の返答を聞くまでもなく刀を帯から外し、スタスタと陣幕の方へ歩き出し始めた。

その後ろ姿に殺気は感じられ無い。


「‥‥。」

少し遅れて、桜生がその後ろを追う。


「アザミ君、君も来給え。何、気にすることはない。3人分なら何とかあるさ」


唖然としているアザミにも声を掛けると、笹川は刀を台に戻して陣幕の後ろに入っていった。


「何なの‥‥まったく‥‥」

ブツブツ言いながら、アザミも後を追って陣幕をくぐった。



笹川の別荘は陣幕のある場所から、ほんの100mほど入ったところに建っていた。


「さ、入ってくれ。此処は私が仲間と使うための別荘でね。何、食器とテーブルだけは十分にあるんだ」

そう言って笹川は中に入り、冷蔵庫の扉を開けていた。


「‥‥何?此処って電気が来てるの?」

アザミが怪訝な顔をする。


「いや、ディーゼルの発電機さ。建物の裏に置いてあるんだよ。泊まりの合宿だと、どうしても電気が要るからな。‥‥ま、こんな辺鄙(へんぴ)な島だとテレビも碌々映らんがね」


笹川は冷蔵庫から魚を取り出し、まな板に置いた。

そして、キッチンの戸を開けると‥‥そこにはズラリと包丁が並んでいた。そのどれもが、まるで人でも斬らんとするばかりに研がれているのが分かる。


「何それ‥‥」


「ん?この包丁かい?いや、恥ずかしいな。どうしても職業病でね。刃物を見ると極限まで研がないと気が済まないんだよ」

アザミの視線に気付いたのか、笹川が笑って答える。


ふと、アザミは気になって笹川の手元を覗き込んだ。

「それ、何ていう魚?」


「この魚かい?黒鯛だよ。そこの岩場からなら、いくらでも釣れるんだ。何しろ誰も釣りになんか来ないからね。刺し身にすると旨いんだ」


笹川の手によって、魚の身が紙でも切るかのように薄く削がれていく。笹川の腕が伺われる、余程の切れ味だ。


笹川の手元に興味津々なアザミとは対照的に、桜生は椅子には座らず、じっと反対側の壁にもたれ掛かっていた。


笹川は更に冷蔵庫から鍋を出してきた。

「これは‥‥アイナメだ。煮物にしたんだよ。このまま持って帰ろうかと思っていたが、早く食べた方が旨いだろうから食べてくれ給え」


ふー‥‥ん、とアザミが鍋を覗き込む。

「これは刺し身にしないの?アタシ、煮魚は苦手なのよ」


「それは仕方ないな。アイナメは脂身が多いから刺し身やフライよりも煮物にした方が旨いんだよ。あと、食べたければご飯も炊いてある。‥‥普通の炊飯器だから『普通の』味だがね。さぁ、適当に取り分けて食べてくれ」


笹川とアザミに続き、桜生も着席する。


「‥‥ところで、だ」

食べ始めてほどなく、笹川が桜生に話しかける。


「桜生君が持ってきた、その刀だが‥‥それは『何処で手に入れた物』なんだね?」


一応、疑問形の形をとってはいるが、笹川の苦笑いを見る限り『その答え』は或いは聞くまでも無いのかも知れなかった。


「これか‥‥?これは一昨日に此の別荘へ来た時に、そこの奥座敷にあった武具の中から適当に選んだものだ」


桜生は平然と答えてはいるが。

つまりは笹川のコレクションから『無断拝借』したのであり、要するに『それ』は泥棒と同義である。


アザミは唖然として、それを聞いた。

「呆れたヤツ‥‥アタシも大概、『イカれてる』とか言われるけど、此処まで非常識じゃないわ。良かった、私がまだ『マトモ』だと分かってサ」


「やれやれ‥‥『もしや』と思ったがな。確かに此処は孤島だから、特に鍵は掛けて無かったが‥‥そういうのは普通、持ち主に断ってするものだ。まったく、君が社会人として将来に真っ当な生活が送れるのか心配になるよ」


溜息をつく両者に対して、桜生はさも当然そうにしている。


「得物の良し悪しや使い勝手は、一通り使ってみないと実感出来ないからな‥‥。結局それが一番、手に馴染んだから選んだまでだ」


笹川も、その言に唯々呆れるしか無かった‥‥が。


なるほど。

『そういう戦略』なのか‥‥




ホントかどうかは、その時代に生きてたワケでは無いので知りませんが。

江戸時代における浪人や剣客同士の「果たし合い」は、開始から斬り掛かりまでが異常に長く、いざ斬り掛かると一瞬で勝敗が着いたそうです。

そのため「今日は何処そこの河原で果たし合いがある」となると、物見高い町人達が弁当持参で見物にやって来たとか。

そりゃまぁ、時間無制限で「負けたら死ぬ」という状況であれば、容易には斬り掛かれんでしょうね。

逆に、刃物であれば一斬り入れば終わりですし。


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