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五縄の桜  作者: 潜水艦7号
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暗術の後継者は『壊れて』いる

鏑が背後の危険に察知した時には、もう遅かった。


ピシッ‥‥!


細いワイヤーが鏑の喉に絡みつく。


「ぐっ‥‥!」


頭で考えるよりも早く、身体が反応していた。


素早く左の肘鉄で背後に『居るであろう』敵目掛けて攻撃を繰り出す。

だが、それはオトリだ。


相手が肘鉄を躱した瞬間に、右手で相手の足を後ろから掴み、そのまま引き倒そうという作戦なのだ。


ところが‥‥


確かに掴んだハズの『足』の感触がおかしい。どうみても鍛え上げた『男』のものではない。あまり細すぎるのだ。


というか、これはもしや『スカート』か?


ハッと鏑が気付いたとき、首に掛かっていたワイヤーから力が抜けた。


「ふふ、相変わらず『良い反応』ね‥‥。堪らないわ、ゾクゾクする」


背後に居たのは厳つい桜生ではない。

それとは真逆な、ひとりの(たお)やかそうな女子高生だった。


「‥‥やはり、君か‥‥。脅かすのは止めてくれない?特に『今は』さ」

ふっー‥‥と、鏑が息を吐く。


鏑を背後から襲ってきた女の名は、黒壇アザミという。

彼女こそ、五縄流柔術にあって『暗術』流派の正統後継者なのだ。


「イイじゃない?別に。いい練習になったと感謝して欲しいぐらいだわ。それよりも、そんな『隙だらけ』でいいの?桜生君どころか、アタシにだって()れそうよ?」


そう言って嗤う彼女の口元にはゾッとするような『狂気』が浮かんでいる。


「‥‥気配を消す術に関して、君の右に出る人間は居ないって父さんも言ってたよ。『アレは五縄流の中でも逸材だ』って。ボクは桜生君の事をよくは知らないけど、君よりはマシだと‥‥思いたいね」


鏑はふくれっ面をする。

どうにも、アザミは苦手でいけない。鏑はそう考えていた。


彼女は武術家としてのイロハは言うに及ばず、トラップや暗器の使い方、毒薬の調合に至るまで、その技の多彩さから『最も習得が困難』と言われる暗術において、この若さで『師範代』に上り詰めている。まさに底知れぬ天才、いや鬼才と言って良かった。


それだけではない。

彼女の『強さ』、『恐ろしさ』は、その性格にこそあると鏑は考えている。


簡単に言えば、アザミは『壊れている』のだ。


幼馴染として鏑はアザミの事を良く知っているが、何しろ手加減とか常識といった概念が欠如していると言っていい。例え相手が誰であろうと一切の躊躇なく、エゲツない攻撃を仕掛けるのだ。


心理学的に言うならば『サイコパス』の一種なのかも知れない、と鏑は考えていた。


そしてもうひとつ、鏑にとって困った事がある。


どうやら、このアザミがどうやら自分の事を『気に入ってる』ようなのだ。


その理由は知らないが、もしかすると強くなりすぎたアザミにとって、マトモに相手になるのが鏑だけという現実が、それに関係しているのかも知れなかった。


現に、先程のように突然に技を仕掛けて『反応を楽しむ』というのが、最近のお気に入りでもあった。


実は鏑にはひとつの不安があった。


もしも将来『結婚を考える年齢』になったらだ。

このままアザミ以外の選択肢(パートナー)が自動的に排除されるのでは無いだろうかと。


何しろ迂闊に他の女性と自分が仲良くなってしまえば、アザミがその女性に何をするか分かったものではない。


それに、両家ともどもに後継者問題もある。両者の素質というか遺伝情報は貴重だと言われている。だからこそ、両家ともにアザミの『それ』を知っていながら何も言わず看過しているのだ。


しかしながらだ。


いや‥‥それは流石に勘弁して欲しい。と鏑は思う。

とてもじゃないが、死ぬまで安閑としてられない生活なんざ、まっぴら御免というものだから。


「さ‥‥、じゃぁアタシはこれで退散するわ。今日は充分に『楽しめた』し。後は、頑張って桜生君と闘ってね?」


困惑する鏑の心中を見透かすように不敵な笑みを湛えたまま、アザミは去っていった。


「‥‥。」

鏑は、全身の力が抜ける気がした。






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