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五縄の桜  作者: 潜水艦7号
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実力と評価の間に隠れて

何しろだ。

柳枝鏑(やなぎかぶら)にとって、最もイヤな事は『目立つ事』だ。


これがもし自分が超絶イケメンとかなら、また話は別だろう。


ただ歩いているだけで女子生徒からキャーキャー言われるほどでもあれば『実はアイツは強いんだぜ』と知れ渡ったところで、着いている『箔』の厚みが増す程度の事でしかない。


又は柏木のように、如何にも強面(こわもて)で巨躯でもあれば説得力が違う。


何もしなくても『強い』と思われて誰も寄ってこない事に間違い無いのだ。事実、柏木は対戦相手に随分と苦慮していたようでもあるし。


だが自分は違う。

クラスの中でも1,2を争う低身長で体重もない。オマケにどう控えめに見ても『フツメン』の域を出ることはない面構えだ。


これで『実は強いんです』とか言ったところで、笑われるのがオチというものだろう。『それ』が分かっているから『イヤ』なのだ。


それに、ヘタに『強い』と知れるとロクな事がない。


学校にはガラの悪い連中が多く居て、そいつらが『何や、テメー。強いらしいじゃん?』と喧嘩を吹っかけてくるのが目に見えている。そんなのをイチイチ相手にしていた日には、面倒臭くて溜まったものではなかった。


柔道部とかの連中だって油断は出来ない。

もしも自分が『柔術家』だと知れたら対戦を申し込まれる危険だってある。彼らはそうした刺激を面白がる傾向にあるのだから。


思うに、だ。

世間における『合気』の評価は現在、決して高いものではない。


もはや伝説の域である武田惣角や植芝盛平、または塩田剛三らは『本物』と認知されているものの、その他の『合気』は『相手の忖度ありて成り立つもの』という色眼鏡で見られている。


実際、MMA(総合格闘技)の試合に柔道家や空手家は数多く参戦しているが、合気道の師範や選手が出る事は極めて『稀』だ。


なるほど、よく知らべれば僅かにMMAの対戦経歴があるようではあるが、その結果たるや惨憺たる有様で有ることを鑑みれば、世間の悪評をデマと断じるには材料不足と言わざるを得ない。


しかし、だ。

鏑の父であり師範の柳枝は言う。


「合気とは、それ自体がひとつの武術というものではない」と。


それが五縄流の考え方であった。

柳枝が語るに五縄流の『合気』とは、全ての武術に通じる共通の『極意』なのだとか。


例えば剣道において。

四段・五段あたりで三十歳そこそこのバリバリの剣士が、齢九十を超えるような老齢の剣士と立会う事がある。


この時、傍目には年齢が違い過ぎて『勝負にならない』と思われがちだが、実はそうでもないのだ。

若い有段者が渾身の力で切り込んだ瞬間、それを見事に躱されて『ポン』と小手を打たれてしまう事も珍しくない。


これは相手が技を出す瞬間の『起こり』を察知する能力に優れるが所以であり、この極意がつまり『合気』なのだと柳枝は説く。


だがこれは口で言うほど簡単なものではないし、口で言って説明のつくものでもない。故に誰にも出来るというほどの汎用性もない。


言ってみれば、ごく一部の才能を持った格闘家が厳しい鍛錬を積むことで始めて到達する『域』であった。


そのため、若くして『その域』に近づいているとも言える鏑は、ある種の天才であるとも言えるのだ。


『能ある鷹は爪を隠す』というが‥‥




授業が終わり、鏑がその日の帰途についたのは他の学生達が大方帰った後の事だった。


『万が一』という事態もなくはない、と鏑は警戒していた。

普通に考えれば路上において集群監視の中で『飛び掛かってくる』という暴挙に及ぶとは思えない。騒ぎが大きくなり過ぎるからだ。


だが、桜生にそういう『常識』を当てはめるのは無理がある。

何しろヤル気の無い楠を『その気』にさせるために、無関係な柔道部員を大勢、病院送りにしているくらいなのだから。


そうなった時。


最も避けるべき事態は、周囲を巻き込む事である。無関係な学生や先生に、怪我をさせてはならない。

それから何よりも『派手に立ち回って目立ってしまう』のを避けなければならない。例え勝つにしろ負けるにしろ、鏑が『只者ではない』と知れるのだけは、どうしても避けたいのだ。


それ故、なるべく他者の人影が無い時間帯に学校を出ようとしたのだが‥‥


‥‥雰囲気がおかしい。


鏑はそう感じていた。

何か、空気が重いというか‥‥


鏑は足を止める。


その時だった。

警戒する鏑の背後からヌっ‥‥と2本の腕が音もなく伸びてくる。


その両手には細いワイヤーが握られていた。


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