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五縄の桜  作者: 潜水艦7号
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それは柳の枝の如くにしなりて

じゃり‥‥

柏木の足元で砂利が擦れる音がする。


眼前には、ロープの端をしっかりと掴んでいる桜生がいる。

初めて見る男だが、とても初見とは思えない。間違いなくコイツが『片桐桜生』だ。それ以外には考えられなかった。


「‥‥うむ。いい殺気をしておる」

柏木が桜生を睨みつける。


なるほど、聞いてはいたがその体格は柏木と比べるべくもない。せいぜいが80~90kg程度と見ていいだろう。思ったとおり、体重差なら1.6倍ほどにもなる。


だが。

その鋭い眼光と発するオーラの『それ』は最早、人間のものとは思えなかった。まるで、獣のような‥‥?


これが普通の申し合いならば、何の躊躇も必要なかった。

このまま力任せに引き込んで、そのままブン殴れば全てが終わる。


だが、『何か』が引っかかる。

ここまで策を弄してきた桜生が、何の考えもなく力勝負を挑むのだろうか?


「ふん‥‥まさかとは思うが‥‥このまま『力比べ』しようってんじゃぁ‥‥ないよな?」


ギリ‥‥


細いロープがしなる。


「ロープ・デスマッチを気取る気か‥‥?」

尚も柏木が問う。


コイツ‥‥何を考えてやがる‥‥


「‥‥。」

桜生は柏木の問に、何も答えなかった。


人間は何かを問われると、無意識のうちに『その回答』が仕草や顔に出るものだ。

だが、この眼前に居る桜生には『それ』が一切見えない。まるで『本能のまま』に、何も考えていないようにさえ感じられた。


もしかすると、こちらがクヨクヨ考えるのは下策なのではあるまいか。

それよりもむしろ何も考えずに『一気に』攻め込んだ方が相手に隙を与えずに済む‥‥とか?まるで、野生動物を相手にするかのように。


「ふん‥‥無言の行か‥‥良いだろう。なら、こっちから行くまでよ!」

グイッとばかりに柏木がロープを強く手繰る。


「‥‥っ!」

その瞬間、桜生は一気に飛び込んで柏木との間を詰めに掛かった。


『よもや』の展開である。

まさか正面切って突っ込んでくるとは思っても見なかった。或いは、そこまで侮られていたのか‥‥。


「ふ‥‥ざけるなぁぁぁ!」


激高した柏木が、猛然と右の豪拳を叩き込んで行く。狙いは無論、桜生の顔面だ。当たればKOでは済まないだろう。顔面というか頭蓋骨骨折くらいは覚悟しなくてはなるまい。


しかし。


パシ‥‥!


小さな音がして、桜生の左手が柏木の右腕を逸らす。


「うっ‥‥!」

外したかっ‥‥!


柏木は自分の不利に気付いていた。

桜生の右腕が、伸び切った柏木の外肘にピタリと当たっている。


如何に柏木が豪腕とは言え、伸び切った肘を外側から攻められれば無傷では済まない。

尚も、桜生の左手には先程のロープが握られていた。


しまった‥‥!逆関節か!

柏木が桜生の狙いに気付いた時は、もう遅かった。

肘に当てた腕を『てこ』にして、桜生がロープを渾身の力で引き絞る。


「ぐ‥‥!」

柏木が『耐えよう』とした瞬間、


バンっ!


突然、桜生が掴んでいたロープを離した。


「ぎゃぁぁぁぁ!」

大きく撓った逆関節が一気に戻る。


思わず、柏木は右肘を押さえてうずくまった。この一瞬、柏木は桜生を見失ったのだ。


「しまっ‥‥た!ヤツは何処だ‥‥!」

気付いた時には、すでに桜生は柏木の背後に回り込んでいた。


そして、まるで大蛇のように無慈悲な腕が、柏木の首に巻き付いていく。


「くっ‥‥そ‥‥!」


どうにか首に力を入れて、これを躱そうとするが。桜生の腕は『喉』ではなく『頸動脈』を締めていた。


如何に剛力とは言え、脳に行く血液を止められれば一溜りも無かった。


柏木の意識は僅か数秒の内に、混沌の中に沈むことになった。


ドスン‥‥!


130kgの巨体は如何ともし難く、その場に崩れ落ちてしまった。


今回に出てくる、桜生が使った「柳返し」という腕攻めからの「チョークスリーパー」への流れは、別作の『華星に捧ぐ』で主人公クラウドが用いたものです。

再利用というか、セルフオマージュというか‥‥

一応、世界観的には繋がっているので。


ちなみに、「柳返し」は私のオリジナル考案です。

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