表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
83/83

82 幕間(4) 第4章章末問題

すっかりこの屋敷での生活にも慣れてきた。仕事にも手慣れてきて、セラフィさんに叱られることも減ってきた。元の世界に未練がないわけじゃないけれど、今はこの世界での生活を楽しもうと思う。

魔法の勉強も少しずつ進んでいる。水魔法なら家事にも使えるから、とセラフィさんから言われたこともあって、あたしは簡単な水魔法くらいなら扱えるようになるまで練習した。獣と戦ったりするような魔法は使えないけど、自分の言葉で水が自由(そこまで自由自在ってわけではないけど)に操れるというのは、あたしにはとても楽しかった。

「water flow:β; do emerge;」

水を手元に生成する。量は多くないけれど、玄関の床を掃除する分にはこれで十分だ。

「water flow:γ; do spread;」

生成した水を、壁や自分の服にまでかかってしまわないように注意しながら床に飛散させて、それをモップでこする。

今日は少し日差しが強いからか、水はすぐにでも乾いてしまいそうだった。それでも元の世界のあの蒸し暑さよりはずっと快適な、快晴の夏空である。


時刻は午後5時、日が傾いて暑さも幾分か緩んできた頃にリアナとノエリアが屋敷に帰ってきた。

「お帰りなさいませ」

今のあたしの幼い声では、おままごとか何かにしか聞こえないのが辛いところだ。

「あら、ただいま」

「ただいま、ルーシェ」

あたしはノエリアの服の肩あたりをちょっとつまんで、自分の方に引き寄せる。

「どうだった、試験?」

今日二人は、魔法学院入試の模擬試験を受けに行っていたのである。受験という文化が存在する以上、模擬試験もまた存在するというのは不思議なことではない。

「まあまあ難しかったかな……。問題、みてみる?」

あたしはうん、と頷いて、ノエリアの手から試験問題が掲載された冊子を受け取った。


--------------------------------------------------------------------


〈問1: 香り袋の一種は、香属性の魔法陣を板に埋め込むことで作られている。これについて以下の問いに答えよ。

(1)魔素フェリ製の円盤とリードを芯とし魔鉱石でメッキした杖を用いて、香属性魔法「pleasant」の魔法陣を作成する実験を行った。このとき、作成した魔法陣では5つの同心円の一番外側の環と外側から二番目の環に網目状の模様が描かれていた。

(ⅰ)この魔法陣を作成するための詠唱文を書け。

(ⅱ)この実験で消費する魔力量は、同じ魔法を同じ魔力値で魔法陣を作成せずに詠唱する場合よりも多くなることが知られている。この過剰分の魔力量は最終的にどのようなエネルギーに変換されるか、簡潔に書け。

(2)(1)の魔法陣の作成を適当な薄板に対して行った。この板を入れた袋を香り袋として使えるようにするために必要な詠唱文を書け。

(3)香属性魔法の持続時間は、魔力値の大きさに比例し、香りの強さに反比例している。香りの強さは詠唱の際に任意で指示文として設定され、例えば「multi β」であれば香りは初期値の2倍、「multi γ」であれば初期値の3倍となる。ここで(1)の詠唱で香りの強さが指示されていなかったとし、この香り袋の効果の持続時間が48時間であったとする。このとき、ある香り袋の中に入っている板に描かれた魔法陣は6つの同心円の外側から1番目から4番目までの全て環に網目状の模様が入っていた。またこの魔法陣を作成する際の指示文は「multi ζ」であった。この香り袋の効果の持続時間を推定せよ。

(4)(3)と同様に指示文を「multi ζ」として作成した魔法陣を用いた香り袋の効果の持続時間を48時間にしたい。このときこの魔法陣は最低いくつの同心円からなるか求めよ。

(第72回高等学院入試統一模擬試験 魔法科学第1問)〉


※ζ・・・6

解答は以下にあります。




--------------------------------------------------------------------



〈解答:(1)(ⅰ)「smell scent:μ;draw pleasant」(ⅱ)リードの熱エネルギー(2)「smell scent: actuate」(3)20時間(4)8つ 

(配点25点 すべて5点)

解説:(1)(ⅰ)魔法陣の魔力値の読解問題。5つの同心円であることから一番外側の環が表す魔力値は8であるので、魔法陣の魔力値は8+4=12より12。命令文の動詞がdoではなくdrawであることに注意。(ⅱ)魔鉱石内を運動する魔素は、リードに衝突するとエネルギーの大部分をリードに吸収される。これによってリードを構成する粒子の運動が激しくなり、リードの温度が高くなる。(2)魔法陣には起動詠唱が必要なこと、通常香り袋は詠唱が起動した状態で用いられることを考えれば、香属性魔法の起動詠唱を書けばよいとわかる。(3)6つの同心円であることから一番外側の環が表す魔力値は16。従ってこの魔法陣の魔力値は16+8+4+2=30より30となる。つまり、魔力値は(1)に比べ2.5倍。一方香りの強さは6倍である。従って問題文の記述をもとに計算すれば48×2.5÷6=20より、20時間と分かる。(4)(1)に対して、香りの持続時間をそのまま香りの強さを6倍とするので、魔力値を6倍の72とすればよいとわかる。7つの同心円(6つの環)からなる魔法陣では32+16+8+4+2+1=63より64以上の魔力値の魔法を表現できないとわかる。よって魔力値72の魔法の魔法陣は最低でも8つの同心円からなることが分かる。〉


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ