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78 土木ギルドと金貨

先週、投稿したつもりだったのですが投稿できていませんでした。申し訳ありません。

三日後。

俺は市長とともに土木ギルドを訪れていた。土木ギルドは冒険者ギルドの二つ隣だ。

市長は土木ギルドの組合長と話をするために奥へと入っていった。


一方残された俺は、適当に周囲を見回し、近くで木の椅子に腰かけていた大男のほうへと歩み寄った。木の椅子が軋んでいていまにも壊れそうだ。


「おはようございます」

「おう、お嬢ちゃん、どうしたんでえ。ここはお嬢ちゃんみたいな華奢な子が来る場所じゃあねえぜ」

ごもっともだ。感覚器がノエリアのものになっているからだろうか、さっきからギルド内を覆いつくす暑苦しさにむせそうになっている。


「私はアーネスト市長の家で住み込みの家庭教師をしているノエリアという者です」

すると大男は愉快そうに、がははと笑い声をあげた。


「そうかそうか、家庭教師か。となるとあの市長のとこの人見知りの娘さんが生徒だな。おれはてっきり市長のメイドか妾かと思ったぜ」

さすがにこの年で妾はまずいだろ。いろんな意味で。


それにしてもリアナのことを人見知りと認識しているのか。そういえばリアナはセサルともあまり会話をしないようだったから、やはりこういう体の大きい男が苦手なのだろうか。

「それで、おれに何か用か?」


ああ、そうだった。当初の目的を早くも忘れるところだった。

「今日、新しく建てられた建物の引き渡しと支払いがあるそうですね」


「おう、そうだな。市長やら貴族やら以外が雇い人になることなんて、ずいぶんと久しぶりなこった」

「どんな方が建物を買われたのか、覚えていらっしゃいますか?」

「どんな、か。そうだな」


かなり前の話ではあるはずだが思い出せないわけではないらしく、数秒間腕を組んで考えるしぐさを見せた後、大男は俺の方に向き直っていった。

「手に装飾品みたいなのをつけた、派手で金持ってそうな兄ちゃんだったなあ。多分商人とかじゃねえか? そりゃ俺らだって金持ってねえ奴に後払いで家なんて建ててやってらんねえからな」


確かにそれもそうだ。しかし、それでは明らかにおかしいのだ。

おそらくだが俺の見立てはそう外れてはいないだろう。

そうこうしているうちに、市長が話を終えたのか奥から一人の男とともに現れた。


豊かな顎髭に焼けた肌の恰幅のいい男だ。おそらくこの人が土木ギルドのギルド長であろう。手に人の肩幅ほどのサイズの木でできた何かを持っている。表情から容易に困惑していることが分かった。


「どうしたんでえ、親方」

「いや、それがだな……」

するとそのとき、ギルド長の言葉を遮るかのようにしてギルドの門をたたく音があった。

「どうぞ」


扉を開けて現れたのは、手や首にアクセサリーめいたものを幾つも身に着けた派手な男だった。元の世界での言い方をあてはめるなら、チャラい、という形容詞が当てはまりそうだ。この男が例の「雇い主」で間違いはなさそうである。


「よお。今日はきっちり建物代を納めに来たぜ。だから早くあの建物の権利証明書を出してくれ」


権利証明書なんてあるのか。俺は意外と進んだ仕組みが整っていることに驚いた。

後で市長に聞いた話だが、密集市街地の建物については市が所有者に証明書を発行する決まりになっているらしい。この証明書は市役所でも管理され、市街地に住む市民が漏れなく把握できるようになっている。


「ん、あ、ああ、ちょっと待ってくれ」

そう言ってギルド長は立ち上がり、近くにいた一人の男に証明書を出すように言いつけた。


「それじゃあ、証明書を渡す前に金を出してもらおうか」

「ああ」

そう言って男は大量のコインが入った袋を取り出した。

「正金貨100枚だ。勝手に数えてくれ」


「ああ」

そういってギルド長はそれを受け取る。袋から金色の貨幣を1枚取り出してそれを少しの間眺め、それから不慣れな手つきで机の脇に置いた天秤の上に載せ、それから立方体の形をした石のようなものを逆の皿に載せた。

そしてガタッ、と音を立て、立方体を置いた方の皿が下がった。ビンゴだ。


その音でようやく天秤の存在に気が付いた男は、あからさまに怪訝そうな表情を浮かべた。

「何してるんだ、オッサン」

その声には、どこか苛立ちの色が混じっている。

一方のギルド長は大きくため息をつき、それから低い声で男に向かって言った。


「もう一度聞く。これはなんだ」

「は? 正金貨50枚だっつってんだろ、見てわからねえのか」

「これは金貨じゃない、そういうことなんだな、アーネスト市長」

「市長? 市長なんてどこにいんだよ」


どうやらこの男は、市長の顔を知らないらしい。まあ、この街に住んでいないなら無理もないだろうが。

「市長は私だ」

部屋の隅、俺の隣で様子を眺めていたアーネスト市長はそういって男の方へ歩み寄った。


「なんで市長がここに居るんだ、というか、金貨じゃないってどういう意味だよ」

「そのままの意味だよ。君は一体誰に頼まれてこんなことをしているんだい?」

「誰って……」


そこでようやく状況を察したのか、男は持ってきていた貨幣入りの袋を手に、ギルドの扉から一目散に飛び出した。

しかし、

「うわっ! 何だ!」

扉の前に立ちふさがる女性の姿。そこにいたのはヨルム市の市長、アレシアさんだった。


目で追えないほどの速さで男の腕をつかみ、そのまま大外刈りのような要領で石の地面に勢いよく叩きつけた。

「うぐえっ!」

男は蛙のような声を上げて情けなく白目をむき、その数分後には周囲にいた男たちによって縄に掛けられていた。全く、哀れなものである。

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