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74 伝達型魔法

その翌日の魔法科学の授業に、やけにリアナはやる気を出していた。

「さあノエリア先生、始めましょうよ」


いつも寝坊なリアナだが、この日は少し早く起きたようで、いつもの開始時間の十分以上前に、俺にそう声をかけてきた。


生徒がやる気なのは悪いことではない。俺はそう思い、リアナに応えて少し早く授業を始めた。

今日の単元は「伝達型魔法」だ。


今リアナに教えている「魔法科学Ⅰ」ではその詠唱法だけを学び、具体的な利用やその仕組みまでは学ばない。詳しい内容は「魔法科学Ⅲ」の「魔力伝達理論」で習うことになっているようだ。

俺はまだ「魔法科学Ⅱ」の途中までしか予習できていないが、念の為「魔力伝達理論」の内容だけは読んでおいた……かなり苦労したが。


ほとんどの魔法学院は「魔法科学Ⅰ」または「魔法科学Ⅱ」までを入試の範囲としているようだが、ラトリアル魔法学院を含む一部の例外では「魔法学院Ⅲ」まで学ぶ必要がある。

すなわちラトリアルを受験するなら、「伝達型魔法」もその詳細まで学ばなければならないということだ。


まずはその事をリアナに説明する。とはいっても内容を細かく話すのは、「魔法学院Ⅰ」の内容、つまりは詠唱の方法に絞るべきだろう。

「伝達型魔法というのは、すなわち『donate』のことだと思えばいいよ。分類でいうと白魔法に属する。だけど実は、どの属性の宣言文を使っても詠唱できる」


リアナが眉をひそめた。

「どういうこと? 白魔法なんだから『blanch white』じゃないとダメなんじゃないの?」


確かに、今まで学習したことから考えればそれが自然だ。しかしこれはいわば「例外」にあたる。

「実は伝達型魔法っていうのは、『魔法』って呼び名が正しいのかどうかも不明瞭なんだ。効果としては『相手に自分の魔力を分け与える』っていう、いわば『drain』の逆なのだけれど、仕組みが普通の魔法とは違うんだ」


説明はこれくらいにしておこう。これ以上の深入りは混乱を招く。

「まあ、とにかくそういうわけで、具体的な詠唱は「drill/ water flow:α; donate; limited;」

だね。もちろん『water flow』じゃなくて『wind blow』とか他の宣言文でもいいよ」


ちなみに「drill/」は魔法を人に教えるときに使う、「これから宣言文と同じ言葉を口にするが、魔法を使うために詠唱をしている訳ではない」という意味の先行宣言文で、誤って魔法が発動してしまうのを防ぐための打ち消しの言葉だ。


「『limited』っていうのは何?」

「これは『魔力を分け与える量を、詠唱の魔力値までに制限する』っていう意味だよ。今の詠唱だと『α』だから、『1だけ魔力を与える』って意味だね。逆に与える量に制限をかけないときは『unlimited』を使う」


ちなみに「donate」の魔法はデフォルトで「limited」になるようになっているので、実はわざわざ「limited」をつけなくても勝手に魔力値の値に制限してくれるのだが、今回は教える目的なのであえて省略はしない。


「わかったわ。じゃあ実際に使ってみるわね」

「使うときは、魔力を分け与える相手に触れないといけないよ」


リアナは「そうなの」と言いながら俺の方にぐっと顔を寄せ、いきなり俺の首筋にピタッと手を当てた。

「ひゃっ」

思ったより冷たい。俺の悲鳴を聞いてリアナは満足顔だ。

そのままリアナは詠唱を始める。


「water flow:κ; donate; limited;」

魔力値10。太っ腹な「donate」だな。俺はそう思いながら、リアナの顔を覗き込む。

思った通りの疑問を浮かべた表情だった。


「ねえ、ノエリア先生。これちゃんと魔法発動してるのかしら? あまり魔力が減る感覚がしないのだけど」

ご名答、だ。


「そうだね。わたしの方にも魔力は入ってきてないよ」

「じゃあ、失敗したのかしら」

どこか落胆したような様子のリアナに俺は声をかける。


「いや、そうじゃない。実は、魔力が減っていない相手には魔力を分け与えられないんだ」

「……どういうこと?」

俺の魔力の最大値、つまり眠った後など完全に回復した時の魔力は、初めの頃の50から少し増えて現在70だ。


そして俺はまだ朝から一度も魔法を使っていないので、魔力は70残っている。

では、ここでリアナから10の魔力の譲渡を受けたとして、魔力の残量は80になるのか。

答えは否だ。


魔力の最大値というのはいわば容器のようなものだ。今俺はその容器に満タンの水が入っているような状態なのである。ここに新たに水を注ぎ込むことはできない。単純に言ってしまえばそんな感じだ。


「それと同じように、『自分よりも魔力の残量割合が多い相手』にも、魔力の譲渡はできないよ」

例えば、俺の魔力の最大値が70、残量が63だったとする。そしてリアナの魔力の最大値を200、残量を160とする。


このとき俺の魔力の残量割合は9割(70×0.9=63)、リアナの魔力の残量割合は8割(200×0.8=160)だ。俺が9割でリアナが8割になって、俺の方が残量割合が大きいので、俺からリアナには魔力を分け与えるが、リアナから俺に分け与えることはできない。


「どうして?」

いい疑問だ、と言いたいところだが、そのちゃんとした説明をするのには時期が早すぎるので、俺は教科書の『魔法科学Ⅰ』のところに書いてあるのと同じ逃げ方をする。

「『donate』っていうのは『寄付』のことだから、たくさん持っている人が持っていない人に与えていないとおかしいでしょ?」


リアナは一瞬納得しかけたが、やはり不満そうに眉をひそめた。

「それだったらなんで『残量』じゃなくて『残量割合』なのよ。それって私の方が魔力の『残量』そのものが多いのにノエリア先生に分けてあげられない場合があるってことでしょ。さっきの宣言文が何でもいいっていう説明もそうだけど、なんだか騙されている感じがするわ」


ごもっともだ。しかし、これ以上の深入りはできない。今の時点でそれを説明するのは、リアナをさらに混乱させるだけだからだ。

折角朝からやる気を出していたリアナの出鼻をくじくような感じがして申し訳ない思いに駆られながらも、俺は騙しだましの説明を続けるしかなかった。


投稿遅れてすみません。drill/については36話を参照してください。

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