表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
72/83

71 猪狩りの後で

「ありがとうございました。お二人ともまだ若いのに凄いですね、助かりました」

再びカトリーヌさんの、正確に言えばカトリーヌさんの祖父である村長の家に俺たちは戻ってきた。


「いえ、私の方こそ、手を煩わせてしまったわ」

あの後目を覚まし状況を把握して以来、リアナは失態を犯したことを恥じてか、少し顔が赤くなっていた。


神妙な表情で深々と頭を下げ、リアナは素直に詫びと礼を口にする。


「ごめんなさい。治癒していただきありがとうございました」

「気にしなくていいんですよ、それがシスターとしてのわたしの役目ですから。これでわたしも心置きなく市街に戻ることができます」


カトリーヌさんは、本当に安心したような優しげな表情で言う。


「ヴェルダ市街に戻られるんですか?」

「すぐではありませんが、あと十日もすれば街へ戻ります。もともとわたしは休暇をもらうような形でこの村に帰ってきていましたから、いつまでもここにはいられません。ですが、大猪の害を解決できずに市街に戻ることになってしまうのは、わたしとしても心苦しいですから。こうして解決してもらえて良かったです」

「わたし達は、わたし達の仕事をしただけですよ」


俺はそう言って、カトリーヌさんに笑顔を返した。

「あ、そういえば」

そこで突然、カトリーヌさんが何かを思い出したような声を上げた。


「モートンさんが、近くヴェルダ市に居を構えるつもりだそうですよ。祖父とはとても仲良くしていただいていて、先日手紙でそうおっしゃっていました」

これはどうやら、ヴェルダ市長の娘であるリアナに話しているらしい。


リアナは少し不思議そうな顔をして、

「モートンさんが、ねえ。新しく家を建てられるのかしら?」

「いえ、鉱山主さんに紹介してもらった良い物件があるから、そこに既にある屋敷を買うつもりだというお話でしたよ」


モートン、確か市長とセラフィの話に以前上がっていた名前だ。確か、ランロルド辺境伯領に拠点を置く大商人、だったか。


「ああ、フドラシャス遣使節で派遣されるまでの仮住まいってことね。わかったわ、また市長に報告しておくわね」

「ええ、よろしくお願いしますね」


それからリアナは何かを思い出したように「あっ」と声をあげ、苦笑いをカトリーヌさんに向けた。

「『ローブの悪魔』に会ったら、もう少し手加減するように言っておいてちょうだい」

「ああ、はい」


カトリーヌさんも、リアナに同じような苦笑いを返す。

「まあ、無駄だと思いますけどね」




「また、いつでも教会にいらしてくださいね」

手を振るカトリーヌさんに別れを告げ、俺とリアナは村から街道に面する場所に出て、セサルの馬車の到着を待つ。


「ねえ、リアナ。さっき言っていた新しく家を建てる人って、そのモートンさんとは違うの?」

俺は、先ほどの会話で抱いた疑問をリアナに問いかけた。


「違うわ、モートンさんだったらすぐにわかるもの。あの男は、このあたりの地方でも一番有名な商人といっても過言ではない男よ、確か今度、商人としてフドラシャス遣使節に派遣されることになっていたはずだわ」


それに、とリアナは続ける。

「ノエリア先生も聞いていたでしょう、モートンさんは市街に既にある建物を買うつもりなのよ。一時的な住まいのためにわざわざ家を建てるのが面倒だってことでしょうね」

まあ、確かにそれはそうか。


会話が途切れたタイミングを見計らったように、セサルの馬車が俺たちの正面に滑り込んできた。




「迷惑、かけたわね」

屋敷に帰り、夕食の席でリアナは俺に小さく頭を下げて謝った。


ちなみに今日のメニューはウサギ肉の照り焼きのような料理だった。

セラフィさんいわく、偶然にも野ウサギの肉が手に入ったということらしい。ウサギの肉は元の世界ではほとんど口にしたことがなかったが、こちらでは割によく食べるものらしい。


「いや、わたしこそごめんね。わたしが砂嵐を起こしたせいで……」

そう、リアナが大猪の攻撃を避けきれなかったのは、俺が砂嵐を起こし

リアナの視界を奪ったせいでもあるのだ。


「そんなことないわよ。あれは私の油断だわ。私のわがままで一緒に討伐に行ってもらったのに、結局何もかも全部ノエリア先生任せになっちゃったわ」

「そうかな? でも大猪が現れたとき、リアナがすぐに竹刀で攻撃を仕掛けてくれなかったらカトリーヌさんが大怪我を負っていたかもしれないでしょう? カトリーヌさんを守ったのはリアナだよ」


これは間違いがないことだ。あの時は本当に危機一髪だった。一桁の水魔法や風魔法では突進してくる猪をそう長く抑え込むことはできない。物理攻撃によって自分の方に注意を向けさせたリアナの判断は最適だったといえるだろう。


「そうかしら……。まあいいわ。とにかく、ありがとうね、助かったわ」

いまだ少し納得いかない表情のリアナに、うん、と俺は軽く頷いて返した。

フドラシャス遣使節は「短期的な隣国訪問を繰り返すことで、諸外国との関係を良好に保つための使節」で、セラフィがその一団に加わっているものです。詳細は39話参照。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ