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69 大猪討伐戦

森の中から飛び出してきた巨体。

それはまさしく大猪と呼ぶにふさわしい見かけをしていた。


形は猪そのまま毛が深く、高さは今の俺の身長を超えていた。1メートル半をいくらか超えているようにも思える。


大猪は興奮状態にあるのか、リアナとカトリーヌさんのいる方向にめがけて突進していく。

「危ない!『water flow:ε,wind blow:μ;synthetic , do stream and whirlwind』」


俺は大猪の目の前に合成魔法を放ってなんとか動きをとめて時間稼ぎを試みる。リアナはすぐに事態を飲み込んだようで、後ろに飛び退いて大猪から距離をとった。

「カトリーヌさん、逃げて!」


恐怖で体が硬直してしまっている様子のカトリーヌさんに向けて叫ぶ。

白魔法専門、RPG風に言えばヒーラーである彼女がここにいるのは危険だ。

「『fire burn:ζ;do fire-knife; with arms』」


リアナは背負った竹刀を即座に引き抜いて詠唱をし、そのまま大胆に大猪に向けて打ちかかる。

しかし、大猪の分厚い皮膚には竹刀の纏った炎はそれほど効果がないらしい。


だがそれでも大猪は攻撃の対象をカトリーヌさんからリアナに切り替えたようだ。カトリーヌさんにはこの隙に後ろへと下がってもらう。大猪の方はリアナの方へ一気に距離を詰めていく。

「『wind blow:βω; do whirlwind;』」


魔力値の大きな旋風の魔法。しかし、やはり攻撃としては意味をなさない。ただの時間稼ぎだ。リアナは俺に向けて、ありがとう、といった感じの目配せをしながら体勢を改めて整える。


トレントと戦った時にも痛感したことだが、風魔法による直接攻撃は質量の大きい敵相手にはあまりにも力が弱すぎるのだ。


「water flow:κ; do rapid-stream;」


リアナは竹刀をいったん下して遠距離での魔法攻撃を試みる。狙うのは当然、顔だ。

大猪は怯んだように巨体を震わせはしたが、当然のように致命傷になるような傷を負わせることはできない。水魔法もまた、攻撃に使うには限界がある。


「wind blow:βπ; do squall;」


風魔法を使って攻撃をかわすいつもの戦法。闘いの主導権自体は俺たちの方が握っていたが、決定的な攻撃ができない。これではジリ貧だ。


俺は今度は武器であるブーメランでの攻撃を試みる。ジャグリングをするのと同じように自分の手元に戻ってくるように、大猪に向けて投げる。


鉄のような材質のそのブーメランは、大猪の皮膚に確かに傷をつけて、俺の方へと返ってきた。

しかし、それほどのダメージを与えられているようには感じられない。


「wind blow:ω; do whirlwind;」


今度は風魔法を利用して加速を試みるが、重さのせいかそれほどのスピードを発揮できない。

皮膚に突き刺すことも何度か試みたが鋭利さがないせいなのかどうもうまくいかず、結局はかすり傷程度のダメージを与えることしかできなかった。


「fire burn:ζ;do conflagrate;」


リアナは、今度は遠隔での火魔法攻撃を試みる。リアナもすっかり火魔法の扱いには慣れたようだ。5メートル以上離れた大猪、その皮膚の一部がボッと音を立てて燃えた。

カトリーヌさんは、少し離れたところで俺たちの戦いを見守っているようだった。


「till soil:ε,wind blow:μ;synthetic ,do sandstorm」


土魔法。水、火、香と並ぶ自然魔法の一種である。実戦で使うのは初めてだ。

「sandstorm」は砂嵐を起こす魔法だ。すなわち、土と風の二つを操らなければならない。なので、土魔法と風魔法の合成魔法としてのみ用いられる。

意図するのは、目つぶしだ。


実際、大猪はうめくような鳴き声を上げている。効果はあるようだ。

しかし、それも結局は時間稼ぎにすぎない。

砂嵐が収まりだんだんと視界が戻る。


大猪は目を半開きのような状態にしている。狙いはある程度うまくいったようだ、と俺が思いかけた次の瞬間、猪はそのままリアナの方めがけ、猪突猛進という言葉がぴったりとくるような勢いで突進していった。

「リアナ!」


砂埃によって視界が悪くなっていたのは大猪だけではない。俺も、そしてリアナも、だ。

リアナは、砂埃が収まると同時に疾駆してきた巨体に虚を突かれ、身動きが取れないでいた。


「wind blow:γω; do squall;」

魔力値は100近い。俺は今まで使ったことのない強さの風魔法を使い、なんとか大猪の走る軌道を逸らすことを試みる。


質量のある物体同士が、掠めるようにぶつかる音が響いた。

リアナの華奢な体躯は軽々と後ろへと弾き飛ばされていた。

「リ、リアナさん!」


カトリーヌさんは思いがけずといった様子でそう叫び声を上げ、地面に背中を打ち付けたリアナに駆け寄る。

もうこれ以上迷っている時間はない。


俺はなんとか大猪に致命傷を負わせる手立てがないものかと、頭を必死に回転させる。

大猪。魔獣といっても獣に近い。農村を荒らす。風魔法じゃ弱すぎる……。

一つ、思い浮かぶものがあった。


うまくいく保証はない。むしろ危険だ。だが、リアナが怪我を負ってしまったいまもはや悠長に戦いを引き延ばす選択は取るべきではないだろう。

俺は覚悟を決め、大猪を真っすぐ睨みつけた。

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