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63 魔法陣の使い方

「water flow:π;draw ice emerge;」

アーネスト市長は、右手に杖をとり、その先端を陣に接触させながら短く詠唱した。

いつもと同じ水魔法の詠唱、ではない。詠唱文がわずかに違っているようだ。


詠唱の直後、杖がわずかに薄青色の光を帯び始める。そして、杖と接触した鋼色の陣の中央に、白色に輝く細い線でできた模様が形成され始めた。

この模様は同心円状に、対称性を保ちながら少しずつ成長していく。


「この光は魔素とリードが衝突することで発生しているんだよ」

アーネスト市長はそう解説しながらも意識を集中し続けているようで、だんだんとその模様は完成へと向かっていった。


「water flow:πconfirm ice emerge;」

そういって、アーネスト市長は魔法を終了させた。強く輝いていた魔法陣の光が少し弱まり、ぼんやりとした光を放つ状態で安定した。


「これで完成だ」

市長が作った魔法陣は、直径30cmあるかどうか、という小さなものだった。

「綺麗だけど、何だか地味ね」


リアナが小さな声で感想を漏らした。

確かに、魔法陣というにしてはかなり模様が簡素だ。6つ重なった同心円があり、一番外側の円と2番目の円の間に斜格子のような模様が入っている。細かい装飾のような模様はあるが、大きく見ればその程度だ。地味といえば地味である。


「この魔法陣の模様って、魔法の種類によって変わるんですか?」

俺は、ふと思いついた質問を口にした。


「ああ、属性によって大まかな模様は決まっているよ。この斜格子は水魔法に特有のものだ。それから、この模様がついている位置は魔法の魔力値によって決まっている」


アーネスト市長は杖を指揮棒のように使って魔法陣を示しながら説明した。

魔力値と模様の位置が関係している、か。πは確か16だったはずだ。ギリシャ文字と数字の対応はこの世界に来てからというのも、すぐに変換できるほどには必死に覚えた。


中心から数えて5つ目の環に模様が入っていて、魔力値が16か。なるほど……。

「アーネストさん。これって、ρだとどういう魔法陣になるんですか?」

「いい疑問だ。あとでやってみようか」


市長はそう言いながら、今度は杖を持ち換えて、陣に掌をかざした。

「だけどその前に、まずはこの魔法陣を使ってみよう。『water flow: actuate』」


その詠唱とともに、市長の掌のすぐ下、陣の真上には手のひら大の氷の球体が現れた。

市長はその球体を掴むと、陣の横置いてあったバケツのような容器に捨て入れる。

次の瞬間には、蒸発するように魔法陣は消え失せていった。


「今の詠唱は何なの?」

「魔法陣を発動するための文だ。魔法の種類や魔力値の情報は魔法陣の中に入ってるから、宣言文さえあれば事足りるんだよ」


「なら、魔法陣を使う時には魔力値は消費しないんですか?」

「ああ、そうだよ。魔法陣を作る時に消費しているからね」


あれ?……それなら、

「なら、アーネストさんが作った魔法陣を、わたしが詠唱して使う事もできるんでしょうか?」


すると、市長は黙って首を振った。


「いいや、使えないよ。魔法の根本はあくまでも思考だ。自らの思考で作り出した魔法しか使うことはできない。詠唱をしたとしても発動しないんだ」

やはりそうなのか。でも、


「でもそれなら、魔法陣なんて一体何の役に立つの? 一度魔法陣にしてから発動するなんて二度手間じゃないかしら?」


まさしくそうだ。魔法陣を使う利点がよくわからない。

「魔法陣って、発動せずに放置しておいたらずっとそのままなんですか?」


「ずっと、ではないね。魔素フェリを使っても、発動せずに放置すれば何日かのうちに蒸発して消えてしまうよ。それ以外の空中や地面に向けて作ると五分ももたないね」

だとすると、平常時に魔法陣を作って蓄えておき、戦闘時に利用して魔力値の消費を抑える、ということも難しいか。


「何の役に立つのか、というのはいい疑問だよ。実際、一般人が使う分には魔法陣はほとんど意味がない。実用として使うのは、宮廷魔導士や高位魔法軍のような人たちだけだ」

「どういうことなの?」


「大切なのは詠唱だよ。さっきの詠唱、発動のための詠唱――これをよく起動詠唱って呼ぶけれど――これが、普通に比べてかなり短かっただろう?」

確かに、宣言文だけだったから魔法の詠唱としては短いものだった。


「あの発動の詠唱は、実は合成魔法や他の複雑な魔法でも、詠唱するのはひとつの属性の宣言文だけで事足りるんだ。あの詠唱は、いうなれば導火線に火をつけるようなものだからね。一つの魔法が反応して発動すれば、その魔法陣を作る時に詠唱した他の魔法も連鎖的に発動するんだ」


つまり、水属性と風属性の合成魔法で魔法陣を作ったとしても、起動詠唱は「water flow: actuate」だけで済む、ということか。

だが、合成魔法の詠唱に時間がかかるとはいっても、そんなに大きな差になるだろうか?宮廷魔導院にいるような人たちならなおさら、その程度の時間は誤差だと思うのだが。


そんな俺の考えを察したのか、市長はさらに言葉を付け加えた。

「他の魔法も、宣言さえせずとも連鎖的に発動する。なぜなら、魔法の詠唱は既に済んでいるからだ」


それはそうだろう。だからこそ、一つの魔法の宣言文というきっかけを与えるだけで発動できる。ん・・・? 詠唱が済んでいる・・・?

次の瞬間、閃くものがあった。出題者というものは、えてして解答可能な問題しか出さないのだ。


最後の市長の問いは、4章のここまでの内容から推測可能です。

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