59 幕間(3) 第3章章末問題
※主人公視点ではありません
よく分からないまま世界を飛ばされ、農村に保護されていたあたしは、色々あって例の彼(この呼び方は不正確だけれど)と再会し、彼と同じ相手に仕えることとなった。
そしてあたしは今、掃除に洗濯と、セラフィさんに指示された家事の隙間を見て、魔法の勉強をしていた。
この世界には魔法がある。その事を知ったのは、あたしがこの世界に来て間もない頃のことだった。だが、それは拾われた農村の娘であるあたしには、手の届きそうにないものだった。
それはいわば、教養の一分野だったのだ。
やっとあたしにも魔法が使える。そう思うと、自然と心が躍った。
あたしだって幼い頃は、アニメに出てくる魔法少女に憧れたものだ。それがこんな形で実現するとは、夢にも思っていなかったけれども。
少し意外だったことは、この世界では魔法が、練習と訓練さえ積めば、程度の差はあれ誰にでも使えるということだ。
神の祝福だとか精霊との契約だとか、そういうものはそれほど重要ではないらしい。例えるならば、勉強やスポーツが、人によって才能の差はあるにしても、努力をすれば誰でもそれなりのレベルにはなれる、というのと似ていた。
「……難しい」
勉強は、元の世界でもそこまで得意ではなかった。どうしてもすぐに詠唱の意味が読み取れない。英語をもっとちゃんとやっておけば良かったなあ……。
彼がこの世界に来たばかりであるにもかかわらず他人に魔法を教えられる理由も、なんとなくわかった。
掃除が終わると、次は昼食の準備に入る。
元の世界でも料理は人並みにやっていたので、特に困ることはなかった。それでも、考え事で上の空になっていると、すぐにセラフィさんからの厳しい声が飛んできた。
「魔法の勉強をしてるんですってね」
「あ……はい。バレていたんですね……」
「ノエリアさんからお伺いしました。魔法は別に構いませんが、使用人としての仕事の方にもしっかり取り組んでくださいよ。私がいない時でも屋敷を回してもらわないといけないんですから」
あたしはしおらしく、はい、とだけ返事をした。
昼食は野菜スープに麦のパン、というかなり簡素なものだった。あたしはお皿を乗せたお盆を手に、今ちょうど授業をしているところらしい二人のところへと向かう。
「昼食ができましたよ。熱いうちにお召し上がりください」
あたしは少しだけ皿を置くのに手間取ったふりをして、セラフィさんが先にダイニングを出るのを待った。もちろん彼と話すためだ。
「ルーシェさん。少しだけ休憩にしましょうか」
ダイニングを出る間際にそう言ったセラフィさんの表情に、なんだか見透かされているような気がしたが、ともかく自由の身となったあたしは、リアナの隣に座って白いワンピースを纏っている彼に小声で尋ねる。
「何の勉強?」
「魔法科学だよ。今日はベルセア魔法学園の過去問だ」
過去問……なんだか懐かしい響きの単語を聞いたような気がする、
やはりどこの世界の受験産業も考えることは同じというわけか。
「難しいわね、本当に。ちょっと侮ってたわ」
リアナは少し不満足な表情で麦パンを齧っていた。
「ちょっと見せてもらっていいかしら?」
「え、ああ、いいよ」
あたしは、彼の手から参考書らしき本を受け取った。
〈問:魔力効率とは、使用した魔法の魔力値を、実際に消費した魔力の量で割った値であり、魔法の習熟度を測る一つの指標として用いられる。このことを利用して、以下の問いに答えよ。
(1)「fire burn:κ;do conflagrate;」の詠唱を3回行い、すべて成功したとき、消費した魔力の量が合計20であった。このときの魔力効率を求めよ。
(2)水属性の魔法「ice」を詠唱したところ、消費魔力は3、魔力効率は2であった。このときの詠唱文をかけ。
(3)水属性の魔力効率が1.25の人が、『water flow:ε,wind blow:μ;synthetic , do stream and whirlwind』の魔法を詠唱し、消費魔力が5であったとする。このとき、風属性の魔力効率を求めよ。また、この時の合成魔力効率を求めよ。
(4)水属性と風属性の魔力効率がともに2の人が、(3)の魔法を詠唱したときの合成魔力効率を求めよ。
(5)水属性と風属性以外で、自然魔法に分類される属性を全てかけ。
(ベルゼア魔法学園 魔法科学第2問)〉
※κ…10 γ…3 μ…12
今回も遅れてすみません……。
魔法学校の入試と言えば実技試験、という作品が多い中で、筆記試験の方に焦点を当てているのが、この作品にテーマ的な部分の一つになっていますので、今後も時折こういう問題文が作中に挟まることがあると思います。書いてある意味が分からなくても作品を読むうえでは何の支障もありませんので、どうか気軽に楽しんでもらえたらと思います。解答解説は、次回投稿時に冒頭に掲載する予定です。