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58 少女と魔法

「はい、確かに受け取りました! お疲れ様です」

俺とリアナは、セサルの馬車に乗り、冒険者組合へと戻っていた。

ウッドゴーレムの核を受付に居たエルシーに渡し、依頼達成の手続きをしているところである。


「初依頼から無事に成功させるなんて、やっぱり市長の娘さんは違いますね、さすがです!」

などと、エルシーはさっきからリアナを褒めそやしている。当のリアナも少し得意げだった。


手続きを終え、俺が出口の方へつま先を向けようとすると、リアナが以来の張られているボードに近寄って、またその中身を物色し始めた。つい数時間前にも見ただろうに。


「リアナ、今日はもう帰るよ」

「わかってるわよ。見てるだけ」

エルシーも少しばかり苦笑いを浮かべている。


「何かしら、これ? お昼にはなかったわよね」

リアナがそのボードの下の端の方に張り付けられた依頼書を指さした。

確かによく見てみると、幾つか、新しく増えている依頼もあるようだ。


<ヴェルダ市都 建築現場日雇い、報酬:分銀2枚 第1階梯可>

<ヨルム市エキネア村 結界外域警邏、報酬:正銀貨7枚 第6階梯以上>


「建築って、この近くに新しい建物でも建つの?」

「ええ。そうみたいですね。昨日土木ギルドの方がいらっしゃってましたよ。『急ぎの客だから、冒険者からも人手を回して欲しい』って」

「そんなこと、あるんですね」


大工と冒険者じゃ全く違う職種に思えるが。

「まあ、冒険者は便利屋さんですからね」

エルシーのあまりに素直な言葉に、俺は苦笑いで頷くしかなかった。




帰宅後。

夕食を済ませて部屋に戻ると、ルーシェがなぜか先に俺の部屋に来て、ベットの上に腰かけていた。


「お邪魔してるね」

さも当然のように言うルーシェ。そうだ、元の世界の舞花もこんな感じだった。仮にも同学年の異性である俺の部屋に何の気兼ねもなく入ってくるのである。まあ、それくらいの距離間の方が、お互い意識せずに済むからかえって良かったのかもしれないが。


それに、今は女同士だ。部屋に入るくらいでとやかくいうこと自体が間違っているのかもしれない。


「どうしたの?」

「ちょっと聞きたいことがあってさ」


「なに、何かあったの?」

やにわに背中を立てて膝に手を置き、改まったような態度を見せるルーシェに、俺も思わず少し佇まいを正した。


「えっと……、魔法の使い方を、あたしにも教えて欲しいんだけど」

真剣な顔で口にするルーシェ。


一方の俺は肩透かしを食らったような気分だ。なんだ、そんなことか。

「いいよ。というより、今までこの2か月、誰にも教わってこなかったの?」


するとルーシェは、当たり前でしょ、と言わんばかりの表情を浮かべた。

「村の人たちの中でも、魔法を使う人はほんの一部だけだったからね。けど、この屋敷の人はみんな魔法を使ってるでしょ? セラフィさんもよく魔法を使ってるし」


そうだ、ルーシェはいわばセラフィに弟子入りしたようなものだ。セラフィはよく魔法を使っているから、それを目にする機会も多いだろう。

「なら、セラフィに教えてもらえばいいんじゃない? 経験も長いし」

「頼んだんだけど、教えてくれなくて。今は家事を覚えることに集中しろってさ」

なるほど。セラフィの言う事も一理あるな。


「なら、俺――わたしが教えるのも、よくないんじゃない?」

舞花だと思うとどうしても元の口調が出てきてしまう。ただ、油断するわけにはいかない。いつセラフィやリアナが部屋に入ってくるとも限らないし、口調をコロコロと変えていれば必ずどこかで綻びが出る。女性口調で通すのが無難だろう。


「そんな堅いこと言わないでよ。前は物理とか数学とかよく教えてくれてたじゃん」


前、というのは、元の世界で、という意味だろう。

まあ確かに、魔法を勉強してみたいという気持ちは分からなくない。幸い俺の部屋には、市長が貸し与えてくれた魔法教育関連の本が何冊もあるから、一冊くらいルーシェに貸しても差し支えはないだろう。又貸しになるが、一つ屋根の下に変わりはないわけだし、市長もそんなことで目くじらを立てたりはしないだろう。


「とりあえず、これでも読んでみたら?」

俺は表紙に『初等魔法科学・実技Ⅰ』と書かれた一冊の本をルーシェに押し付けた。


「教科書……?」

ルーシェはその中身をパラパラとめくりながら、その内容を確かめる。


「参考書みたいなもの、かな」

リアナの授業で使っている教科書は、いわば正規品だ。それに対しこの本は、教科書を元につくられた大衆向けの解説書のようなものだ。正確さでは劣るが、分野別に分けられていて読みやすいといえるだろう。


「へえ……なんだか懐かしい感じ……ありがとう」

「魔法を修得したら、何かやりたいことでもあるの?」

俺は少し気になって尋ねた。

「いや、一緒にギルドに行きたいなって、ただそれだけ。冒険者を目指すなら、魔法が使えた方が、都合がいいでしょ」


それからルーシェは去り際、分からないところがあったら聞きに来るね、と言って部屋を去っていった。

時計の針は、ようやく九時を回ったところだった。

遅れてすいません。しばらくはこんな調子になります・・・。


これで一応3章は終了です。4章で幾つかの伏線は回収することになるかと思います。引き続きよろしくお願いします。

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