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56 旧坑道

「ねえ、ノエリア先生、ちょっと奥に進んでみない?」

リアナが坑道の奥を覗き込みながら俺に提案した。

「やめておいた方がいいと思うよ。何に出くわすか分からないし」


天井には何匹か蝙蝠がとまっている。どうやら奥にもいくつか魔術電池による灯りがついているらしく、真っ暗というわけではないようだが、それでも視界は悪い。

古い坑道なんて不気味な場所、入らないほうがいいに決まっている。


「そう? でも人がいた跡もあるみたいだから、大丈夫じゃないかしら? どうせ雨が降っている間は出られないし、中にいい休憩場所があるかもしれないわよ?」

そう言いながら、リアナはずんずんと出口とは反対側に突き進んでいってしまう。


「ちょっと、リアナ!」


「大丈夫よ、そんなに心配しなくても。洞窟探検くらい、誰でも一度はする遊びでしょ」

リアナは俺の方を振り返って笑顔を見せた。

こういう時、リアナは幾らか子供っぽいところがある。


実際年齢的にはまだ子供と言って差し支えないのだから、仕方ないと言えばそうなのかもしれないが。




運搬用トロッコか何かが走っていたのであろう線路の脇を通って坑道の奥まで進むと、少し開けた場所に出た。


直径20メートルはあろうかという広い空間だ。天井もかなり高い。

そのドーム状の空間の壁を巡らすようにして、魔術電池による鉱石の灯りがいくつも灯されていた。


そしてそこには何着か、上着のような薄い衣服が乱雑に置かれていた。


「地味な服ね。作業員か誰かの忘れ物かしら?」

リアナが言いながらそのカーキ色のジャケットらしきものを指さす。


「けど、何年も放置していたにしては綺麗すぎない? 砂埃もあまり被ってないみたいだし」


「言われてみればそうね。最近誰かがここに来ているのかしら?」

それからリアナはまた空間を見渡し、また別の方向に視線を投げた。


俺たちが入ってきたのと反対側へと進む、この空間からの出口。そのわきに、何か鉱石のようなものが積まれていた。


「あれは何かしら? 銅?」

確かに銅も混じっているようだ。他にも銀色の石のような見かけの鉱物もある。置き去りにされた衣服の持ち主が掘ったものだろうか。


「変だね。ここって閉山になったんじゃなかったの?」

リアナは、知らないわ、とでも言いたげな表情で首を傾げた。




俺たちが来た方と反対側の道へとさらに奥へ進んでいくと、今度は道が二股に分かれていた。


「どっちに進む? ノエリア先生?」

「どっちでもいいよ」


どっちでもいい、が、この道の選択は覚えておく必要がある。帰る時に道が分からなくなっては困るからだ。

じゃあ、と言ってリアナは手近なところにあった木の枝を手に取った。


地面にそれを垂直に立てて、力を加えずに手を放す。

右だ。


「左に行きましょ」

「え、どうして?」


思わず聞いてしまった。

「女の勘、かしら?」


リアナはそれが言いたいだけだ。多分。




左に進むと、また先ほどと同じように開けた空間があった。

といっても、さっきほど広くはない。直径10メートルといったところだろうか。


今度はさっきとは違い、反対側に出口はない。どうやら行き止まりのようだ。

空間の中央付近には、横幅が俺の身長くらいの、腰ほどの高さの岩が鎮座していた。


もともとそこにあってそのままにされているような、平らに削られたところのない細長い形の岩だった。

「ねえ、ノエリア先生、何か臭わない?」

空間に入るや否や、リアナは先ほどまでとは打って変わって不快そうな表情を見せた。


確かに、少し生臭いような臭いがする。

「動物か魔獣の死骸でもあるんじゃない?」

俺は答えながら、先ほどよりも少しばかり薄暗い空間を見渡すが、特にそれらしきものは見当たらない。


「あの岩の陰かな?」

おそるおそる、俺はリアナとともに、その岩へと歩み寄っていく。


動物の死骸なんて、元の世界に生きていたころはほとんど目にする機会がなかった。

この世界に来てからこの2か月の間では何度か見たことがあるが、それでもすぐに慣れられる類のものではない。


二人そろって目を閉じ、岩陰の向こう側を覗き込む。意を決し瞼を開く。


そこに転がっていたのは紛うことなき、人間の死体だった。


既に腐敗が進んでいるようで、ところどころ骨が見えている。

それでも、人であることは、見間違うはずがなかった。


「きゃああっ!」


驚愕のあまり声も出ないような数秒間を過ごした後、ようやく状況を把握して、俺の口から絹を裂くような少女の叫び声が響いた。


その声で、リアナもやっと我に返ったのか、甲高い叫び声をあげた。


「え……どうして」

どうして、人間の死体が、この旧坑道に。


死体は青黒い衣服を身に纏っていた。誰かは分からない。ただ、大人の男と思える死体が、そこにはあった。

「ノエリア先生、も、戻るわよ!」


そうリアナに言われて、俺はこの空間唯一の出入り口の方へ駆けだそうとした。

だが、既に手遅れだった。


「やあ、お嬢ちゃんたち、ここで何をしてるのかな?」

そこにはすでに、大柄な目つきの悪い男が立ちふさがっていたのである。

遅れてすみません...次回も来週中に出せるかは不明ですが、できる限り頑張ります


次回は第57話は「旧鉱山と魔法」です

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