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55 森と鉱山

「逃げよう!」

何体ものウッドゴーレムが今にも俺たちに襲いかかろうとしているのを見て、思わず叫んだ。

リアナの服の袖を引っつかみ、森の反対側へ向けて走り出す。

「きゃあっ!」

リアナもようやく状況を呑み込んだのか、遅れて素っ頓狂な声を上げた。

木の葉の隙間から覗く空の色が、少し薄暗くなってきていた。


ウッドゴーレムは決して足の早いタイプの魔獣ではない。

少女の脚でも、ちゃんと走り続ければ逃げられるはずだ。

そう思って森の中をあてもなく来た方向とは反対側へ走り続けること数分。

ついに俺達は、森の外の少し開けた場所へと出た。

「はあっ、はあっ、急になんなの、あんなにいっぱい現れるなんて」

リアナが呆れたように声を漏らす。

俺は何度か深呼吸をして息を整えてから、その言葉に答えた。

「教科書で読まなかった? ゴーレムは一般的に、群れで生活する魔獣だって」

「群れで......? 聞いたような気もするけれど......そんなの忘れたわよ」

「それじゃあダメでしょ?」

俺が窘めるように言うと、リアナは不満顔で言い返した。

「ノエリア先生だって、忘れていたんじゃないの?」

それは、まあ確かに。

返す言葉もございません、というところだ。

迂闊だった。ゴーレムと闘う時は、仲間の存在に注意を払うこと。戦闘の基本であるはずのことを、目の前の闘いばかりに目がいってすっかり失念してしまっていた。


空は、気が付かないうちに鉛を流し込んだかのような曇り空になっていた。

俺は、ふと気になって、森とは反対側に聳え立つ岩山を指さして尋ねた。

「ねえリアナ、これって鉱山かな?」

その切り立った岩山の断崖に、人工的な穴が掘られていたのである。

「ケルヌ鉱山の一部じゃないかしら?」

リアナの答えに俺は眉を顰めた。

「ケルヌ鉱山の一部?」

「そうよ。ケルヌ鉱山は知ってるでしょ? 市内有数のジンクの産出量を誇る鉱山よ。正確には鉱山群、というべきね」

ちょうどこのあたりから、東はモルト町のあたりまで広がる鉱山のまとまり、それがケルヌ鉱山だ、というのは、教科書で読んだ覚えがある。もちろん、実際に目にするのは初めての経験だが。

「でも確か、十年近く前に、ユーバ村にある鉱山は閉山になったって、お父さんに教わったことがあるわ。だから、もう一切何も使われていないんじゃないかしら」

閉山になった鉱山か。魔獣とかが棲みついていそうだな。

その時、俺の右腕に、何かが当たった。

以前から着ている白いブラウスの袖に、小さなシミができた。雨だ。

「雨、かしら」

リアナも気が付いたようで、雨滴が落ちるのを確かめるように、手のひらを前に出した。

「降り出したみたいだね……どこかで雨宿りできないかな?」

俺は振り返って、今走り出て来た森の方に視線を向けた。恐らく森の中には、まだあのウッドゴーレムたちが居るだろう。またいつ襲ってこないとも限らないのだ。

「あの横穴なんてどうかしら?」

雨はどんどんと強まってきている。このまま突っ立っていれば二人そろって濡れ鼠になってしまいかねない。

俺はリアナの言葉に頷いて、かつて鉱山だった洞窟へと急いだ。


「大雨になってきたわね……」

洞窟に入ってすぐのところに座り込み、リアナがため息をつくように言った。

つい先ほど降り出したばかりの雨は、すっかり地面に跳ねるほどに強くなってきている。

「しばらくは出られなさそうだね……」

セサルには日暮れまでに戻るようにと言われている。傘を持ってこなかったことを今になって後悔した。

「ん……何かしら、これ」

リアナは洞窟の壁にかけられた、直径20センチくらいの紫色の鉱石を指さして首を傾げた。恐らくあれは、魔鉱石の一種だろう。

「照明か何かじゃないかな。魔術電池が入ってるみたいだし」

鉱石の一部分に、金属の塊のようなものが入っているようだった。多分、以前にギルドにいた老爺に見せてもらったものと同じものだろう。

市長に貸してもらった本で読んだことだが、魔術電池は比較的安価で、特に暗い場所での作業になる鉱山などではよく使われているらしい。これはその名残だろう。

「ホントね。少し光っているみたいだわ」

リアナの言葉に軽く頷きかけて、俺は不意に違和感を覚えた。

十年前に使われていた魔術電池が光っている? 本当に?


魔術電池は使った照明具は確かに長持ちする。それは本にも書いてあった。だがそれはせいぜい数か月。持って一年が限度である。たったこれだけの大きさの魔術電池で十年も持つなんて考えられない。


「どうしたの、ノエリア先生?」

急に黙り込んだ俺の顔を、リアナが不審そうに見つめる。

魔術電池のことを簡単に説明すると、リアナは眉を顰めて言った。

「それってつまり、誰かが最近ここに来たっていうこと?」

おそらく、そういうことになる。

閉山になった鉱山に、一体何のために?

次回56話「旧坑道」

来週は投稿できない可能性が高いです...。

遅くとも再来週の水曜には出せると思います

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