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54 ユーバ村の魔獣

村の背後にある森の中へと入ると、あたりが急に静かになった気がした。


「本当に居るのかしら? ウッドゴーレム。もうどこかに逃げていたりはしないの?」

「いや、まだこの森に居るんじゃないかな」


ウッドゴーレムは、あまり動きの俊敏な敵ではない。そのうえ、一つの場所に棲みつく習性があるので、そう短い期間でこの森から別の森へと移動したりはしないはずだ。


俺は本で読んで覚えていた最低限の知識を思い返していた。

同じ木でも、トレントのように堅い体を持っている魔獣ではない。確か第七階梯程度以上の剣術士の基準が、ウッドゴーレムを一刀両断できるレベル、だったはずだ。


リアナの竹刀でそれができるとは到底思えないが、ダメージを与えるくらいのことは、できてもおかしくないだろう。


「なかなか出てこないわね。ウッドゴーレムどころか、小型の魔獣一匹姿が見えないじゃない」

いや、それは恐らく。


俺がそう言い返しかけた次の瞬間、木の陰から唐突に、一体のウッドゴーレムがリアナに向けて襲い掛かってきた。


「『wind blow:ω; do wind-cutter;』」

そう詠唱しながら、俺はリアナとウッドゴーレムの間に割って入った。


あくまでも攻撃ではなく回避手段としての風魔法だ。それでも、急襲を避けるには十分であったらしい。


高さ二メートルほどの朽ち果てた枯れ木、その枝や根が手と足に変形したかのような、そんな見かけをしたその魔獣は、風に押されるようにして大きく後退した。


そこで始めてリアナは事態に気が付いたようだった。

手早く背中の竹刀袋から武器を取り出したリアナは、見よう見まねといった感じでそれを構えた。


「さあ、来なさい!」


リアナが構えているのはただの竹刀だ。それを見くびったらしいウッドゴーレムは、先ほどと同じようにして、枝のような先のとがった両手を突き立ててリアナ目掛けて襲いかかってきた。


「『fire burn:ζ;do fire-knife; with arms』」

詠唱と共に突如として火を纏った竹刀は、ウッドゴーレムの身体へと、大きく竹がしなる音と共に衝突した。


打った、とか、当てた、という言葉をあてられるほどにできた動きではない。

それは衝突したというほかに形容しようがないような攻撃だった。


まあ、中学生程度の年齢の女の子が初めて竹刀を振ったと考えれば、むしろこれでも上出来と言ってよいだろう。

なぜなら、竹刀が纏った炎は無事ウッドゴーレムへと燃え移り、一瞬のうちにその体を焼き払ってしまったからである。


昨日実技試験で見た、手練れらしい男の炎剣と比べれば、規模も完成度もまだまだだろう。だがそれでも、倒した事実に違いはない。




燃えやすいウッドゴーレムは、目の前ですぐに灰へと帰してしまった。その灰の上に、何か小さな茶色っぽい塊が落ちているのに気が付いて、リアナがそれを拾い上げた。

いわゆる芯、とか核、とか呼ばれる部分だ。


ゴーレムとはもともと、人形に意思が宿ったものとされている。つまり、ゴーレムは人間が生み出した存在が、人間の制御の手を離れて繁殖してしまったものともいえるのだ。


その名残として、ゴーレムの身体には必ず、それぞれの種類に特有の色や形をした小石ほどの大きさの核が入っているのだ。

人間が初めにゴーレムを生み出したときには、この核を中心にして人形を作ったとも言われている。


この核は、ゴーレムの身体を離れてしばらくすると、やがて自然崩壊を起こすことから、現在では冒険者などがゴーレムを討伐したことを証明するための部位の一つともなっている。


特にウッドゴーレムなどは、倒した後には灰しか残らないために、こういった部位が必要になるのだ。

リアナはそのウッドゴーレムの核を、大事そうに仕舞った。


それをしっかりと確認したリアナは、生真面目そうにしていた表情を急にパッと明るくして、溢れんばかりの笑顔を見せた。


「倒したわよ、ノエリア先生! 意外と簡単だったわね」

「さすがだね、リアナ。ちゃんと武器指示文覚えてたんだ?」


武器指示文とは、リアナが魔法の中で使った「with arms」の部分のことだ。


「to right」が右手に持った物に対して魔法を発動する指示文は、以前アレシアさんに教わったものだ。


そして、武器に対して魔法の効果を付与する武器指示文「with arms」も、実はすでにこの二か月の間に俺がリアナに行った魔法科学の授業の中で学習済みであったのである。

「do fire-knife」は武器指示文を適用する代表的な魔法たをった。


「でも、初めちょっと油断してたわ。感謝するわね、ノエリア先生。そういえば、あの時何を言いかけてたの?」

どの時? と問おうとして、すぐにウッドゴーレムが唐突に目の前に現れた時の事だとわかった。


ああ、あれは。

「小型魔獣の気配がまるでしなくなるっていうのは、ゴーレムが現れる前兆だ、って言おうとしてたんだよ」


ゴーレムはもともと人間が作り出したものであるがゆえに、自然の中では少し異質な存在になるのだ。

だから、小型魔獣などはすぐに警戒して、ゴーレムの近くには寄らないのである。


だから逆に言えば、小型魔獣の気配が消えるということは、ゴーレムが近くにいるのかもしれない、という推論が成り立つのである。


「早く村に戻ろう、リアナ」

そういって、俺はリアナを促して、今来た道を振り返る。



その時だった。既に俺の背後で、一体、二体、それどころではない。

五体のウッドゴーレムが、俺たちの方を睥睨していることに気が付いたのは。


戦闘シーンは難しい...


次回55話「森と鉱山」は1/16投稿予定です

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