表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
53/83

53 最初の依頼

あけましておめでとうございます

武器を手に入れた俺たちはギルドへ舞い戻り、エルシーに依頼受諾の届け出を済ませてそのままユーバ村へと向かっていた。


もちろん、セサルの馬車に乗せてもらって、である。

リアナは初めて武器を手にしたせいかすっかりと強気になっているが、俺としては不安しかない。


こういうのって、まず先に武器の扱い方を練習するものではないのか? 一通りの訓練を積んだ上で闘いに臨むべきではないか、と。


しかし、すっかり討伐に行く気満々のリアナを留めることは果たしてかなわなかった。


……まあ俺もこうして、のこのことついて来ている時点で相当に迂闊なのかもしれないが。



「そうか、嬢ちゃん、メイドやりながら冒険者もやるんだな。大したことだぜ」


メイドじゃないです……。訂正するのももはや億劫なので言わないでおく。


「それで、今日はユーバ村まで何を狩りに行くんだ?」

「ウッドゴーレムですよ」


このことは、依頼を受ける時にエルシーに聞かされた。村の近くの森にウッドゴーレムがいるので討伐してほしい、というのがユーバ村の村長からの依頼だった。


このような依頼をするのは、どうやらごく一般的なことであるようだ。街から離れた農村だと、小さな魔獣ならともかく中型以上の魔獣を討伐する戦力を持たないところも多い。


中等学院にも進まず農夫になるという人が多いからであろう。

能力のある人は多くが街へ出ていくみたいだしな。


そのために市の外れの農村では、魔獣を見かけたらすぐに冒険者組合に報告、というのがよくある流れであるらしい。


「ウッドゴーレムって、あの体が木でできている奴だな。ガキの頃に何度か見かけた記憶があるぞ」




馬車に揺られること2時間と少し、ようやく俺たちはユーバ村へと到着した。


「じゃあ二人とも、頑張って来いよ。ここで待ってるから日が暮れるまでには帰れよ」

俺とリアナはセサルに別れを告げ、とりあえずこの村の村長の元へと向かった。何か情報が得られるかも知れないからだ。


「すみません。少しよろしいですか」

村長の家らしき、倉庫を傍に備えた少し大きな建物の前で声を上げてみる。


すると、中からのっそりとした足音が聞こえた。

しばしあって、扉が開く。


「はい、どちらさまで」

中から現れたのは、嗄れた声の老婆だった。おそらく、60歳は下るまい。


「あの、ウッドゴーレムの討伐依頼を拝見して参ったのですが」

「ん、うっどごーれむ?」

訛りの強い発音でそう口にした老婆は、しばし考えるような仕草を見せたのち、やがて思い出したようにポンと手を叩いた。


「ああ、冒険者のかたですか。あたしゃこの村の村長です。わざわざ、こんな田舎までご苦労さん」


そう言うと、その老婆は少し家の外に二、三歩踏み出して、俺たちの歩いてきた方向とは反対の方向を手で示した。


「あっちの方に、小さい森があるんです。そこにうっどごーれむが居るって、村の子どもらが言うんで、倒してきてやってください。村の若い男でも、魔法の使えるようなモンはみな街へ出て行ってしまってるんです。ホント、情けないもんで......」


「わかりました。ありがとうございます。どのあたりに出たとかって、分かりますか?」

俺の質問に、老婆は少しだけ考える仕草を見せたが、やがて首を振った。


「いいや、子どもたちが、ごーれむが居るぞって騒ぐもんでお願いしただげで、あたしゃ直接見たわけじゃないんでね。まあ、小さい森ですんで、いるならすぐに見つかると思いますよ」


まあ、ウッドゴーレムが今も子どもたちが目撃したところに潜んでいるとは限らないしな。大地に根を張り動くことをしないトレントとは違うのだ。


「森に結界は張ってないの?」

「結界はありましょう。十年ほど前に、森全体に張り直してもらいましたんで。ただ、村の子どもたちは森の中で遊んだりもしますし、村にも近いんで、魔物がいたら怖いですから。今は森に入らないようには言ってありますが」


結界というのは、山や森から人里に魔獣が下りてくるのを防ぐための防護壁のようなものだ。

つまり、今のところ村に差し迫った危険があるというわけではないようだ。


それからいくらか話をしたが、得られた情報はこのくらいだった。

礼を言って老婆と別れ、俺とリアナは森のある方へと向かう。



森へと歩く途中、リアナが唐突に、こんなことを尋ねてきた。

「ここってノエリアの故郷なんでしょ。あの村長さんも知り合い?」


一瞬、俺はハッとした。

確かに。ノエリアはここの村民だったのだ。となれば、あの村長とも当然面識があったはずだ。にもかかわらず、俺はまるで初対面かのように振る舞ってしまった。


「あ、うん、まあね。あまり話したことはなかったけれど」

言い訳をするようにしてリアナに答える。恐らくあの老婆はノエリアの事を正確に記憶はしていなかったようだから、不審に思われていることはない、と思う。


だが、もしあの場で他の村民が現れていたら、間違いなく俺は「ユーバ村の娘、ノエリア」としての役割を演じなければならなかったことだろう。


最近この体に馴染んでいたせいか、この体がノエリアである、という事実をすっかり失念してしまっていたようだ。危ない。

同じ失敗は繰り返すまいと心に誓いながら、俺はリアナと共に森への道を歩き進んだ。


次回54話「ユーバ村の魔獣」は1/9投稿予定です

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ