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52 鉄と風

「これは竹刀。冒険者では一番一般的な武器で、防御にも攻撃にも使えて、護身用に持っている一般の人もいるんです。その隣の木刀は、重さがあるので攻撃力は高いけど、魔術師さんにはあまりオススメしません」


そう言って、この店の女性、リディは一つ一つ順番に説明してくれた。


「これは?」


リアナが指さしたのは、木でできた弓矢のような道具だった。対称な西洋弓のフォルムである。


「それはリカーブ弓ですよ。遠距離攻撃が出来ますが、ちゃんと狙って命中するようになるためには、それこそ魔法の修得と同じくらいの訓練が必要です」


「そう......なかなか難しいわね、武器選びって。役に立ちそうな道具ほど使えるようになるのが大変だなんて」


リアナが頭を抱えるようにして呻く。


俺も、武器さえ手に入れば、という程度に考えていた自分の浅はかさに気がついていた。


俺は元の世界では基本帰宅部だったのだ。剣道も弓道もろくに知らないのである。そんな人間に扱える武器なんてそう多くない。


「なら、これは何?」


「片手剣です。ただ、はじめての武器で真剣を選ぶのはあまりお勧めしませんよ。危ないですから」


リディの説明を聞きながら、柄を手に持ってまじまじとその刃を眺めるリアナ。興味はあるようだが、振り回すほどの勇気は出ないようだ。俺にも当然そんな勇気はない。


やはり現実の武器を振り回すという行為には、日本という国で長い時を過ごしてきた人間としては少し敬遠するところがある。魔法と違って武具、とくに刃物というのは、その感覚が手や腕に直接伝わるのだ。ゲームの主人公のようにうまくはいかない。


それからしばらくの間、さまざまな武具が所狭しと並ぶ店内を見回していたリアナは、なにかを決心したように竹刀を手に取った。


「初めはこのあたりにしようかしら、扱いも簡単そうだしね。ノエリア先生は?」

「そうだね……」


竹刀なら、多分俺でも振り回す程度の事はできるだろう。問題は、これで中型の魔獣と闘えるか、ということだ。リアナなら上手く火魔法辺りと組み合わせれば扱い方もあるだろう。だが、俺はリアナほど魔力がないので火魔法を中心とした闘い方を取ることはまだできないのだ。


「これは?」

棚の少し奥まったところに置かれていた武器の一つに目が留まった。


「ブーメラン、という道具らしいですよ」

くの字型に切り取られた、わずかに湾曲した鉄のような材質の板。確かにそれはブーメランだった。


俺が元いた世界では、オーストラリアの先住民が狩猟に用いた道具だった。つまりこれが冒険者用の武具として扱われても不思議はないわけだ。


「わたし、これにします」

「え、こんなのでいいんですか?」


リディが驚いたように頓狂な声を上げる。


「はい。えっと、幾らですか?」

「えっと、待ってくださいね……、五枚で半銀貨一枚です」


何かの表を見ながらリディが答える。思っていたほどは高くなかった。一枚当たり分銀一枚といったところか。


「なら、十枚ください」

「私もこの竹刀、もらえるかしら?」


そういって俺とリアナがそれぞれ代金を払おうとしたところで、背後から声がかかったのか、リディはいったん店の奥に下がっていった。なにやらあの老爺と話をしているようだった。


二言三言会話を交わしたリディは、何かが入った小さな麻袋を持って戻ってきた。


お待たせしました、と言ってリディは代金を受け取る。ちなみに竹刀は正銀貨一枚だそうだ。


それからリディは俺に、掌に載せた麻袋を渡して言った。


「ごめんなさいこれ、うちのお爺ちゃんからなんですけど、『ブーメランに興味を持つような娘ならきっとうまく扱えるだろう』って。私もちょっとよく分からないんですけど、折角なので受け取ってもらってもいいですか?」


もちろん、と頷き返しながら、その麻袋の中身を覗き込む。

中に入っていたのは、鈍色に輝くたくさんの小さな欠片だった。いずれも球に近い形をしている。


「これは?」


綺麗な鉱石のようにも、鉄球のようにも見える。大きさは、ウズラの卵よりも少し小さいくらい。


「これ、以前に市外から来た武器商から買った武器に紛れていたんですよ。私には使い方はよくわからないんですけど。魔素フェリっていうのを原料にしているらしいです」


魔素フェリ。以前市長に貸してもらった魔法工学の本でそんな言葉を見た気がする。

帰ったら調べてみよう。


「ありがとうございます」


そうして俺とリアナは店を辞去した。


「なら、仕切り直して依頼を受けに行きましょうか」

「そうだね」


リアナは一緒にもらった木製の竹刀入れを背負っていつもよりも機嫌が良さげだ。


俺もいつかは刀剣類を振る練習をすべきだろうか、などと、竹刀を持つ真似をして子供のようにはしゃぐリアナを見て思う。


いつまでも元の世界の常識感覚に固執はしていられない。それは、この2か月と少しで、俺も十分に承知していた。

もう年末ですね...


次回53話「最初の依頼」は1/2投稿予定です

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