51 新しい武器
「どうだった、リアナは?」
「総合第四階梯ね。討伐知識のところは第三階梯だったけれど、火魔法が第五階梯だったわ」
試験の翌日、俺たちは再びギルドを訪れていた。もちろん、試験の結果を聞くためだ。
結果を俺に向けて言うリアナの声は、いつもの数倍上機嫌だった。自分の魔法の能力がこういった形で認められたことが嬉しいのだろう。
「ノエリア先生は?」
リアナはそう尋ねながら、新たに試験結果が書き加えられている俺の市民証を覗き込んだ。
「総合第五階梯……さすが先生ね」
俺はリアナよりも一つ上の総合第五階梯だった。討伐知識はリアナと同じく第三階梯だったが、魔法科学で第五階梯を得たことや、風魔法が最高評価の第六階梯だったことが差に影響したのだろう。
一瞬リアナは悔しそうな表情を浮かべたが、すぐに気を取り直して依頼の掲示板の方を指さした。
「ねえノエリア先生、折角だから何か依頼を受けてみない?」
そういってリアナは掲示板の傍に立ち、
「これなんてどう?」
と、一枚の紙を手で示した。
<ヴェルダ市ユーバ村 中型魔獣討伐、報酬:半銀貨3枚 条件:総合第四階梯>
「ユーバ村……」
何か聞き覚えのある地名だと思ったら、ノエリアの実家がある村だ。
確かに村の近くに森のような場所があった気がする。
「総合第四階梯以上だし、丁度いいんじゃないかしら?」
「そうだね……」
正直、不安だ。初めて受ける依頼が討伐というのに加えて、中型魔獣である。しかも田舎の森での話だ。結界により安全が確保された動きやすいフィールドで、コボルトと闘うのとはわけが違う。そのコボルト戦ですら苦労したというのに、だ。
しかし、見回してみてもそれ以外に俺やリアナでも達成できそうな討伐系の依頼は見当たらなかった。
俺が答えを迷っていると、後ろから声をかける人があった。エルシーだ。
「あ、リアナちゃんにノエリアちゃん! 試験、二人ともいい成績でしたね」
「ありがとうございます」
「エルシーさん、ちょっといいかしら」
そういってリアナはエルシーに向けて例の依頼が書かれた紙を手で示した。
「あ、その依頼、受けてくださるんですね。お二人とも、武器はどんなものにされたんですか?」
「武器?」
俺がそう声を発すると、エルシーは意外そうに眉を顰めた。
「あれ、武器はまだですか? なら、先に武器屋さんに行った方がいいと思いますよ。さすがに討伐依頼を素手で受けるのは危険すぎますから」
まあ、確かに言われてみればその通りだ。
武器があれば安心というわけではないが、少なくとも素手で戦うよりはずっとマシだろう。そう判断した俺は、今だに依頼書に視線を投げたままのリアナに声をかけた。
「じゃあリアナ、先に武器屋さんに行かない?」
「……そうね、そうしましょうか」
近くにいい武器屋を知っているとエルシーに教えてもらった場所へ向かうと、確かにギルドから十分ほど足を伸ばしたところに、古物屋然とした外観の武器問屋があった。
軽く扉を叩いて中に入ると、店内にいるのは店主らしき老爺が一人だけだった。首からぶら下げたルーペのようなものを手に、何かのぞき込んでいる。
「いらっしゃい......」
一瞬俺達の方に目をやって呟くと、また手元に視線を戻した。どうも作業中のようだ。
店内を見回すが、たださまざまな武器が雑然と並べられているだけで大した説明書きなどもなく、とても俺達には価値の判別などつきそうもなかった。
どうすればいいのかと戸惑っている俺達の後ろで突如、バン、と木製の扉が勢いよく開け放たれた。
「おじいちゃんただいまーって、あ、いらっしゃいませ」
明るい声の挨拶とともに店内に入ってきたのは若い女性だった。何か大きな物体を抱えている。
一瞬、元の世界の癖で「持ちましょうか」などと言いそうになったが、それも不自然な話だと思い口に出すのをやめた。今の俺とこの女性じゃ確実に相手の方が力がありそうだ。
「ちょっと、おじいちゃん。私が居ない時は代わりに接客してって言ってるでしょ。お客さん帰っちゃうじゃない」
女性は、ほとんど顔を上げず作業を続けている様子の老爺に向けて呆れたように言った。
「ん、......ああ、そうだな......」
言葉の上ではそう答えているが、どうやら孫娘であるらしい女性の話を聞く気はないようだ。
全く、と軽くため息をついた女性は、今度は俺たちの方に、両手を合わせて軽く謝るようなポーズを見せた。
「ごめんね。うちのお爺ちゃん人付き合いが苦手で。今日は二人とも武器を買いに来たのかな? 武器選びは初めて?」
そう尋ねた女性の言葉に、俺たち二人は揃って大きく頷いた。
次回、52話「鉄と風」は12/26投稿予定です