39 新しいメイド
「こんにちは。あたしの名前は、えっと、ルーシェです。ルーって呼んでください」
休日で家にいた市長とセラフィ、そして俺とリアナの4人の前で、ルーシェはそう言って挨拶をした。
すでにその身はセラフィと同じ種類のメイド服で纏われている。サイズはかなり違うけど。
「あの、アーネストさん。どうして急にメイド――使用人を?」
「ああ、実はね、セラフィ君が」
そう言って市長は傍で立ったまま身体の前で手を重ねているセラフィの方に視線をやり、話を促した。
「はい。この度わたくし、フドラシャス遣使節の末席に加わらせていただくこととなりまして」
「フドラシャス?」
リアナが首を捻る。
「短期的な隣国訪問を繰り返すことで、諸外国との関係を良好に保つための使節、でしたっけ。下級貴族や上流市民から選ばれて、全部あわせると一千人ほどになるとか」
地理歴史の教科書に最近出てきた言葉だ。
「さすがノエリア先生、よくご存じで。わたくしの家は、上流市民ということになっているのです。そのため、この度のようなことに」
そうだったのか。そういえば、貴族の屋敷に仕えるようになるには、一般的にはそれなりの家柄が必要とされる、とかつて市長が言っていたかな。
「何をする仕事なの?」
リアナがセラフィに向けて尋ねた。
「選ばれた20人程でグループを組んで、隣国の市や王都の各機関などを訪問し、良好な関係を築くためお互いの国の状況などを報告するのが仕事です。毎月7、8グループほどが、どこかの国に派遣されています」
「セラフィさんは、どこへ派遣されるか決まっているんですか?」
「具体的にどこの国、というのは決まっていません。ですが、派遣先は職業や専門知識に応じて決められると言われていますから、きっと、使用人ギルドか市庁舎を訪問することになるのではないかと。訪問はひと月ほどと聞かされております」
なるほど。適材適所、それぞれの分野に関して詳しい者を派遣するために、千人もの外交担当が選ばれているというわけか。
それにしても一か月か。意外と長い。他国訪問ならそんなものだろうか。
「といっても、任期は30か月ほどですし、実際に派遣されるのはほんの1,2回ではあると思います。ただ、都に呼ばれるなどして家を空けることも多くなってしまうでしょうし、その間、この屋敷の管理や皆様への給仕をやめてしまうわけにもいきませんから」
「それでルーさんを?」
はい、とセラフィは首肯した。しかし……。
「どうしてこの子を、という顔だね」
市長が俺の表情を見て笑いながら言った。
「あ、いえ、そういうわけでは……」
口では否定するが、内心は図星である。セラフィと言えば、料理も掃除も庭師の仕事もできる完璧メイドだ。とても記憶喪失だった少女が代役を果たせる役目とは思えない。
「いいや、その疑問はもっともだよ。これには事情があるんだ」
「……あたしが、あたしがお願いしたんです!」
気を付けの姿勢で静止したまま、ルーシェが叫んだ。
市長はその言葉に満足げに頷いた。
「ちょうどセラフィ君の代役になる使用人を探していた折に、チャロス村のロイルという村長代理の男から手紙が届いてね」
そういって市長は、上着の胸部分のポケットから一枚の紙を取り出し、俺に見せた。
その手紙には、以前の凶作騒ぎへのお礼がつらつらと繰り返し述べられていた。そして手紙の末尾に、追記のような形でこう書かれていたのだ。
“上記のように、村で身元が分からない少女を保護したのですが、その少女(本人は暫定的にルーシェと名乗ることにしたそうです)が、しきりに市長のもとに仕えたい、というのです。無理なお話をしているというのは承知しております。ですが、一度話を聞いてあげてはもらえないでしょうか”
なるほど……。納得がいくようないかないような、よく分からない話だ。
「これはいいタイミングだと思ってね。セラフィ君と話し合って、彼女を代役とする事に決めた、というわけだよ」
「使節に駆り出されるまでに、わたくしがしっかりと教育して皆様のお役に立てるようにいたしますので、ご心配なきようお願いします」
そう言ってルーシェの方を見るセラフィ。
一方のルーシェはヘビににらまれたようにして表情を固めたがそれでも、よろしくおねがいします、という言葉をしぼり出していた。
新メインキャラ(正確には新キャラではない)ルーシェ登場です。
(現在の主要キャラのおよそのイメージまとめ)
ノエリア・・・腰まである金髪に、碧眼。身長は高めで清楚系の落ち着いた雰囲気。
リアナ・・・白に近い銀髪の長いポニーテール。ノエリアより少し背が低い。気が強い。
ルーシェ・・・青っぽい肩までの銀髪で、童顔。リアナよりも背が低い。活発なタイプ。
次回、40話「ギルド来訪」は10/3投稿予定です。