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23 お手玉を買いに

「それで、後、残ったお金はどうするの?」


衣類を買い終えて、今俺の手元には半銀貨一枚が残っていた。

「どうするって、もちろん、市長に返すよ」


そう答えるとリアナは呆れたように笑って、

「何言ってるのよ、先生。それは就職祝いにお父さんがあなたにあげたお金よ。返すなんて失礼だと思わない?」

「いや、けど」


すると、リアナは一本指を立てて、俺の額にそれを近づけて諭すように言った。


「大体、ノエリア先生、お金ほとんど持ってないんでしょう? 今はお父さんが気を使って、セラフィに屋敷に居るように言っているからいいけれど、セラフィが用事で出かけたりしたら、先生、お昼ごはん、どうするつもりなの?」

「あ………」


確かに、アーネスト市長の屋敷に住み始めたときにも、昼食は自分で用意してくれと言われていた。市長は、まさか俺が無一文同然の状態だとは、その時には気が付かなかったのだろう。


そして市長は、後になってそのことに気が付いた。だからこそ、こうやって俺に、就職祝いという形で、リアナに付き合う必要経費という名目で、小遣いを渡したのかもしれない。


もしそうだとすれば、残ったお金を返すというのは全く見当はずれな行為ということになる。


「ね、分かった、ノエリア先生?」


俺は、何も言わず、ただそのリアナの言葉に頷いた。

この人たちは、俺の(つくろ)ったような真面目さなど通じないくらいに、どこまでも優しいようだ。



結局俺とリアナは、その足で再びさっきの屋台通りへと舞い戻った。この通りでは、料理や日用品の他に、食材それ自体も売られているようだった。


元の世界で言うと、やや大型のスーパーのような感じである。

日持ちのする食材の方がいい。となると、パンやイモ類か。


できれば野菜類も欲しいところではあるが、この世界には電気冷蔵庫というものがないので、傷みやすいものを買いだめすることは難しい。


一応、水魔法と風魔法の応用で内部のものを冷やすことができるような道具はあって、屋敷の厨房には置かれているらしいが、各部屋に備え付けられるほど安価なものではないようだった。


「あ、おじさん、このライ麦のパン、ください」

頭の禿げあがった屋台の店主に声をかける。柔和な表情のその男は、俺が指定したよりも少し多くのパンを、俺に手渡した。


「はい、どうぞ、お嬢ちゃん、可愛いからサービスしてあげるよ」

「あ、ありがとうございます!」

俺がぴったり30度の角度で礼をすると店主の男は大声で笑う。

「ハハハ、面白い子だ。じゃあまたね、お嬢ちゃん」



それから俺は、イモ類やその他根菜類、卵などを買い、持ってきていた鞄の中に詰めた。

さすが庶民派の通りというべきか、鞄がパンパンになるくらいの量の食材を買うことができた。


これで、家庭教師としての給料がもらえるまではもつだろう。

「食べ物は、それぐらいでいいかしら?」


リアナは、俺の大きく膨らんだ鞄を見て問いかける。その表情は、心なしか楽しそうだ。

「ありがとう。ごめんね、付き合ってもらって」


何だかんだと言いつつ、リアナは俺が食材を買って回るのにずっと付き合ってくれていた。リアナ曰く、家に一人でいることが多かったので、外に出て人と一緒に歩いて回るのが楽しいらしい。


「そういえば、リアナはセラフィがいない時、お昼ごはんはどうしてるの?」

俺は、ふと気になったことを尋ねる。リアナもリアナで、自分の部屋で料理をしたりしているのだろうか?


「ああ、お昼、ねえ……」

躊躇うように言ってから、リアナは少し恥ずかしいといった感じで、俺から視線を外した。


「セラフィが居なくて朝起こしてもらえない日は、用意してもらった朝ごはんが、私のお昼ごはんになっちゃうのよね……」



そして、そろそろセサルの馬車との集合場所に戻ろうかとなった時、俺の目に、再びあのお手玉を売る店が飛び込んできた。

「……何、そんなに気になるなら、買っちゃった方がいいんじゃない? 多分だけど、ヴェルダでは売ってないわよ」

「そう、かな」

元の世界からの、俺の唯一の趣味、それを再び、この世界でもできるのなら、そんなにも嬉しいことはない。

幸い、俺の手にはまだ純銅貨が何枚か残っていた。


「あの、これ、3個……いや、5個ください」

「あら、お手玉ね。一つ青銅貨4枚だから、五つで純銅貨2枚よ。遊び方は知ってる?」

はい、と頷き返すと、店番をしていた女性は、とても嬉しそうに笑っていた。



話が全然進まない……。

次回から本筋に戻ります。(章タイトルの「農村」すらまだ出てきてない……)


次回は6月13日(水曜日)です。

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