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11 水魔法と風魔法

「では、実際に魔法を使ってみましょうか」


セラフィが一通りの説明を済ませてそう言い、リアナが待ってましたとばかりに表情を(ほころ)ばせた。


「はい、あたしやってみるわ。さっきの呪文を唱えればいいのよね?」


セラフィが頷いて合図したのを見て、リアナはセラフィがやったように指を立てた。


「えーっと、確か、初めは宣言文(ステートメント)よね。『water flow:α(アルファ); do emerge;』」


精一杯に()ました顔で見様見真似(みようみまね)の発音をするリアナ。

丁度その瞬間(しゅんかん)、リアナの人差し指の上に水球が一瞬現れ――そして、直後に霧散(むさん)した。


「あら? これって失敗、なの?」


リアナがセラフィに顔を向けて不安そうに尋ねる。


「いえ、そんなことはありません。おそらく、魔法が成立してすぐに集中力を途切(とぎ)らせてしまい、魔素が()ってしまったのではないかと」


確かに、リアナは水球が現れたことに(おどろ)き、声を上げそうになっていた。その時に集中が切れたのだろう。


「魔力をどれくらい消費したかは、どうすれば分かるんですか?」


俺は気になっていたことをセラフィに(たず)ねた。

時間が経てば魔力は回復するとはいえ、気づかずに消費しすぎるのは(こわ)い。

ゲームならMP(マジックポイント)の所に書いてある数字を見ればいいのだろうが、そんな都合の良い表示なんて現実に存在するはずはない。


「魔法を一度使えば、何となく感覚で分かるんですよ。自分の今の魔力がどれくらいの数値か、というのは」


というにわかには信じがたいセラフィの言葉。俺が(まゆ)(ひそ)めていると、それに反応したのはリアナだった。


「あ、確かに、何となくわかるわ。えっと、200くらいかしら? でも、今の魔法で10近く使っちゃった気がするわ」


そんなに細かく感覚でわかるものなのか?ちょっと信じられないが。


「えっと、頭の中に数字が浮かんでくる感じ、かしら」

リアナが頭のあたりを指さしながら答える。そんなものなのだろうか。


「そういえばセラフィ、魔力の平均値ってどのくらいなの?」

「一般的には60~80程度と言われています。ですから、リアナ様はかなり多い部類(ぶるい)に入りますよ」


質問に答えながら、セラフィはリアナの頭を今度は抱え込むようにして()でる。くすぐったそうにして、リアナがスカートを揺らしながら抵抗(ていこう)のポーズをとる。その仕草は子犬のようで、とても可愛らしい。


「もちろん、正確に残存魔力を計測する道具も存在はしますが、普通に魔法を使用する分には感覚だけで十分事足りますよ。先生も、試しに使われてみてはいかがですか」


言われて俺も、さっきセラフィやリアナが使っていた魔法を唱えてみることにした。実は俺も、魔法を使うという事に少しテンションが上がっている。あくまで顔には出さないが。


「『water flow:α(アルファ); do emerge;』」

指を立てて、若干の羞恥心(しゅうちしんn)を振り払い呪文を唱える。リアナと同じように水球は一瞬だけ形を保った後破裂(はれつ)してしまったが、確かに頭に数字が浮かんでくる感覚があった。


「80ぐらい、かな」

平均値ぐらいか、まあこんなものだろう。今の消費魔力は5、といったところか。


それでも、リアナの数値を聞いた後だったからか、若干の落胆(らくたん)が声に出てしまった。

それに気付いてなのか、セラフィの胸に再びに頭を抱かれ、


「大丈夫です、先生なら、練習すれば魔力もすぐに増えますよ」

(なぐさめ)めの言葉をかけられる。その体温に、心が少し落ち着いたような気がした。

べ、別に、女の子の体に馴染(なじ)んできてるわけじゃないんだからねっ。



気持ちを切り替えて、次の魔法の練習に移る。といっても、授業時間も残り少ないので、できることは限られている。


「セラフィ、火とか他の属性の魔法も練習したいわ」

と、リアナが手を上げて、興味津々(きょうみしんしん)といった様子で提案する。それに対し、セラフィは指を(あご)に当てて少し考える姿勢をとる。


「そうですね……では、火はまだ少し危険ですから、風属性の練習をするのは、いかかでしょうか」


風魔法の宣言文は「|wind blow」そして最も簡単なのは、「do breeze(ブリーズ)」という弱い風を吹かせる魔法ということだった。

さっきと違って、自分の周囲全体に風を吹かせるので、人差し指を立てる必要は無い。


「えっと、『wind blow:α(アルファ); do breeze;』」


リアナが(いきお)い込んで唱えるが、数秒が経過しても、相変わらず周囲は無風(むふう)状態のままだ。


「セラフィ、うまくいかないわよ。魔力は減ってるのに」

「リアナ様、そうすぐに上手くいくものではありませんよ。簡単な魔法だからといって(あなど)らずに、風が吹くのを頭でしっかりとイメージして唱えてみてください」


魔法の根本は思考。(いく)ら口で上手に魔法を発音しても、それに思考が追いついていなければうまくいかないわけか。


「魔力が減ったのは、ダンスを(おど)る時、踊りが成功しなくても疲れるのと同じことです。おざなりに魔法を唱えるのは、状況によっては命取(いのちと)りになりますよ」

セラフィがリアナに向けて、そう訓戒(くんかい)を付け加える。


リアナはそれから7、8回ほど詠唱を繰り返し、ようやく微風(そよかぜ)を吹かせることに成功した。


「はあ、疲れたわ。魔力の残りも100近く減っちゃったし」


そう言いながら地面に座り込むリアナを横目で見ながら、俺も同じ魔法を唱えた始める。

「『wind blow:α; do breeze;』」


すると、案外とあっさり、風が吹くのを感じることができた。

ていうかこれ、自然の風じゃないよな?

「あれ?」


そして俺は、ふと何か違和感を覚えた。


「どうしましたか? 今ので、魔法は成功だと思いますよ。さすが先生、お上手です」

セラフィが俺に向かって拍手の真似をする。いや、それはいいんだけども。


「セラフィさん、魔法を使ったのに魔力が減っている感じがしないんですけど」

するとセラフィは、言っている意味がわからないというように小首を(かし)げた


「もう何度か試されてみてはいかがですか?」



その後、セラフィの提案の従い連続して十回にわたって『do breeze』の魔法を使ったが、結果は同じだった。風は吹くのに、魔力が減らない。


「ノエリア先生すごーい。疲れないの?」

リアナが、いかにも疲れましたというように、近くにあった椅子(いす)腰掛(こしか)けたまま俺に声をかけた。

俺は、よく分からない、という微妙(びみょう)な表情を返すしかなかった。ただ多分、体力的な疲労(ひろう)という点でいうなら、今の風魔法10回よりさっきの水魔法1回の方がずっと大きい気がする。


思案顔(しあんがお)を浮かべたままだったセラフィが、ふと思いついたように顔を上げて言う。

「ノエリア先生、『α(アルファ)』の部分を『κ(カッパ)』に変えてみてはいかがですか?」


κ(カッパ)といえば、確か、ギリシャ文字で10番目の文字である。つまり、古代数字の10で、単純に考えれば威力(いりょく)が10倍、消費魔力も10倍になるという事だ。


俺は多少の恐怖心を抱きながらも、覚悟(かくご)を決め、その提案に従うことにした。

「『wind blow:κ(カッパ); do breeze;』」


次の瞬間、俺の周囲に突風が吹いた。

ところで、俺の今日の服装はひらひらの水色ワンピースである。

これらの条件からどのような結論が導かれるかは、火を見るより明らかだった。


(そば)にいたセラフィや椅子にかけていたリアナは、華麗(かれい)な動作でスカートの(すそ)を押さえ、苦も無く難を逃れる。

だが、俺が『風が吹いてスカートを押さえる』なんて動作に慣れているはずもない。


「ひゃっ」

無様(ぶざま)な悲鳴をあげながら、俺は(ひるがえ)ったスカートの下の、ノエリアの実家から持ってきた下着を、セラフィとリアナに惜しげもなく(さら)した。


顔を真っ赤にしてスカートの裾を強く(にぎ)りしめながら、俺はこの体の持ち主の少女に、心の中で(ひたい)をこすりつけて土下座した。


それでも、魔力は全く減ってはいなかった。


ようやく本筋に近づいて来ました。


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