受注と出発
次の日です。
目が覚めた私はベッドから起き上がります。
そして着衣の首輪で昨日と同じ服に着替え部屋を出ていきます。
台所へ向かいそこで朝食の用意をしていきます。
朝食とは言っても昨日買ったパンとスープ、後は住みかで育てている野菜を使ったサラダぐらいですが。
「今日は先に街に行かないとですね」
昨日のキンパリー様から出される依頼を受けておかないと、流石にまずいので。
貴族の、それも領主からの依頼を、正規な手順を踏んでいないにしても反故にしたとあっては犯罪者として捕まる可能性すらあります。
「その後は盗賊退治ですかね。見つけるまでが面倒ですけど」
今日の一番のイベントはこれ!盗賊退治です!
目的は盗賊の溜め込んでいる財宝です。
盗賊の溜め込んでいる財宝は、その盗賊たちを倒した者が新しい所有者になります。
昔は盗賊の溜め込んだ財宝はその地区の管轄の貴族の物であり、少しでも隠し持っていたりすれば処刑されると言う状態だったそうです。
しかし、それだと盗賊を倒す人が居なくなり、盗賊が更に活発に行動する。するとそこの管轄の貴族が大損をすると言う状態になったそうで、それ以降からは財宝は倒した人の物という法が作られたそうです。
まあ実際はよほど名のある盗賊でない限りは溜め込んでいる財宝の量は限られているので、冒険者たちも積極的に盗賊退治を行うわけではないそうです。
せいぜいが護衛中に盗賊が出てきて、倒したら財宝が手に入ったという状態になったらラッキーと考えているようです。
しかし今回私が退治しようとしている盗賊団は、隣街の商会の馬車を押そって荷物を奪っているそうなので、財宝に関しては期待できます。
というか、私が盗賊退治を決めた一番の理由がそれなんですけどね。
たしか盗賊に襲われたというブロッシュ商会は他の商人から呼ばれるときに名前に『大』と付けられることから分かるように、隣街では一番大きな商会です。
周辺の街ともたくさん取引をしていて、キンバリー様が領主をしている街も取引しています。あ、たしかキンバリー様が領主をしている街の名前はフォルスと言いましたかね。
そんなブロッシュ商会が扱っている商品は食材や魔道具、日用雑貨等広く扱っていますが、その中には少なくない量の鉱石も含まれています。
昨日商業ギルドで鉱石が十分に手に入らなかったのはこれが原因でしょう。
「よし、そろそろ出発しますか」
朝食も終わり身支度も整えた私は昨日と同じようにフォルスの街へ向かいます。勿論走って。
今日も何事もなくフォルスまで到着します。
流石に朝早く着きすぎたせいか大通りも人がまばらです。
まあ、人が少ないので歩きやすくはありますけど、屋台もまだ出ていないので少し寂しいです。
そんなことを考えながら歩き続けてギルドへ到着します。
ギルドの中は外の人の少なさとは打って変わり、混雑しています。
基本冒険者は朝に依頼を受けて夕方までに終わらせ、そのあとはギルドの酒場で打ち上げをするというのが恒例になっているらしいです。
私もさっそく依頼ボードを見に行きます。
Cランクのボードを見ていくと目当ての依頼を見つけます。
~貴族の護衛依頼~
今から約一か月後に行われるパーティーでの護衛。
指定条件:女性であること(獣人でも可)。
依頼者はキンバリー様ではありませんが、打ち合わせてあった偽名が使われていたのですぐにわかりました。
貴族の人は獣人のことを嫌っている人が多いので、貴族からの依頼で獣人も受けることができる依頼というのは少し珍しいですし確定でしょう。
ちなみに貴族からの依頼には、『獣人以外』と条件が付けられることが多くあります。
私は依頼書をはがしてカウンターへ持っていきます。ちょうどクレアさんの所がすいているのでそこに並びます。
それほど待つことなく私の番が回ってきます。
「はい次の方、ってリルちゃんじゃない。依頼受けるの?」
「はい。これお願いします」
「了解。ってこれ貴族関係の依頼じゃない。やめておいたら?」
本来は冒険者が受ける依頼をギルド側が止めることは禁止されています。
しかし、忠告などで受注を考え直らせることは禁止されてはいない。
なのでクレアさんの忠告は善意であるということは分かります。
「大丈夫ですよ!実を言うと依頼主とは少し知り合いなので」
「そうなの?なら大丈夫かな」
本当はこの依頼は私に宛てた指名依頼なんですが、そこまで言う必要はないでしょう。
無事依頼を受けることができました。一応面接を行うようで、今から一か月後にギルドへ来るように言われました。
さて、次はついに盗賊討伐です。
街の外へ出て隣の街へ繋がる街道を走っていきます。
ちなみに私の住処があるのは西側ですが、隣街へ行く方角は東側になります。
そのため長期間の外出のための準備はしっかりと済ませてあります。準備したものの七割くらいが食料だったのは何時ものことです。
しばらく走ると道が二手に分かれています。右側へ曲がる道のほうが隣街までは近く、早く着くことができます。
しかし見た限り全ての馬車は左側の遠回りの道を選んでいます。
どうやら右側の街道のほうに盗賊は出るらしいです。
私はしばらく馬車が右側の街道を通らないことを見て確かめると、そちら側の街道へ走り出します。
後ろから私を止めようとしてか制止する声が聞こえてきましたが、あえて無視して進みます。
五分ほど走ったところで足を止め息を整えます。とは言っても、魔狼であることとレベルが高いせいもあってか疲労感は全くありません。
あたりに誰もいないことを確かめ、アイテムボックスからあるアイテムを出します。
出したアイテムは私が魔道具作成で作った『嗅覚の腕輪』です。
効果としては『装着者の嗅覚をより鋭敏にする』というものです。
「よいしょと。これでオッケーっと。それじゃ『人化の術』解除!」
私は自分の人化の術を解除し、青い毛並みの魔狼の姿に戻ります。
普段は人の姿でいるので自分でも間違えそうになってしまいますが、私の本来の姿は今の魔狼の状態であり人の姿は本当の私ではないのです。
嗅覚の腕輪の効果で、通常でも敏感とも言える私の嗅覚が更に強化されます。
しばらくその場にとどまっていると人の匂いがしてきます。
「森の中からですね。さすがに商人ということな無いでしょうけど、冒険者ということもありますし。少し様子を見に行きますか」
いくら盗賊が出没しているからといっても冒険者がいないとは限りません。
もしかしたら私のように盗賊を探しているのかもしれませんし、採取や魔物の討伐へ来ているのかもしれません。
盗賊かを確かめるために私は匂いの元へ向かって行きます。
走り続けたどり着いた先は小さな山の麓で、山肌には穴が開いています。
どうやら洞穴を拠点にしているみたいで、匂いだけでなく人の声も聞こえてきます。
「よし、行ってみますか」
私は人化の術を使い人の姿になってこっそりと洞穴に近づいてきます。