襲撃者と騎士
私の後をつけてくる人たちの気配を感じながら路地裏を歩いていく。
どうやら人数は五人だが、二人組と三人組の計二組が居るらしい。
二組ともに別な人たちが同じ標的を追いかけていることにはまだ気づいていないようです。
私は持ち前の身体能力の高さで屋根の上へ移動します。
この辺りは空き家も多く素行の悪い人が多いので、多少騒いでも文句を言われることはありません。
そして、私が屋根に移動して十秒後に二人組の男が現れます。
男二人は人相も悪く、着ている服もお世辞にも綺麗とは言えない格好です。
二人は私を探して辺りを見渡しています。しかし、屋根の上に居るとは考えてないのか放棄されたゴミを漁ったりしています。
すると今度は三人組の男たちがやって来ました。
三人組の方は騎士の格好をしていて、所持している剣も人目で高価なものだと分かるほどです。
しかし、二人組の方は騎士たちが来たことにも気づかず、いまだに私のことを探して辺りの物を壊しています。
「仕方ないですね。あの!さっきから私のことをつけてましたけど何のようですか?」
私はため息と共に呟き二人組の方へ声をかけます。
すると下にいる五人は私のことを見つけますが、相変わらず二人組は後ろにいる騎士たちには気づいていない様子です。
「テメェ、降りてこい!」
「このケダモノが!」
「わぁ、随分な言いようですね」
この街では私は獣人という種族だと認知されています。
そして昔ほどではないにしても、獣人を人間のペット、奴隷だと考え、捕まえようとしてくるものが居るくらいです。
どうやら下の二人はそう考えているみたいですが、騎士たちの方はそんな二人を見て嫌悪感むき出しの顔で睨み付けています。
「わかりました。おりますよ~!」
「よーし、それでいいんだよ。」
「たっぷり可愛がってから奴隷商に……ってちょっと待て!?」
私は二階建ての屋根から飛び降ります。……下にいる二人の男たちの真上目掛けて。
片方の男は距離があったので逃げ出せたようですが、すぐ近くにいた方は突然のことでパニックになったのかろくに動けず私に踏み潰されます。
男は「グュアッ!」と不思議な声を発して地面に倒れ込みます。
倒れたときに頭を強打したためか起き上がる様子はありません。
「さて、あなたはどうしますか?ここで戦います?それともこの人を連れて逃げます?」
出来るなら後者を選んで欲しかったのですが、おそらく無理でしょうね。
残された男は腰からナイフを取り出し構えます。手入れはあまりされていないのかボロボロですが、切るぐらいはギリギリできそうな、そんなナイフです。
「ふ、ふざけんなアァァァ!」
男は怒声を挙げながら突進してきます。
その動きはとても鈍くEランクの冒険者なら余裕で対応できる程度の腕前です。
さすがにこんな相手に本気で対応したら相手は死んでしまうので、手加減をして応対します。
まず相手の男はナイフを刺すことしか考えていないのか脇腹辺りでナイフを固定しています。
そんな男に対し私は迷わず突っ込んでいきます。
男もこれは考えていなかったのか少し動きが鈍ります。
そして男のナイフが私に触れる距離まで来たら私はほんの少しだけ身体をそらします。
そしてすれ違い様に男の鳩尾に掌底を打ち込みました。
「う、おえぇぇぇぇ!」
腹筋に力を入れてすらいない状態で受けたためか、胃の中の物を吐き出しています。
しかしまだ諦めていないのか一通り吐いた後、再びナイフを構えます。
しかしさっきの掌底がまだ響いているのか足は震えています。
「ふざけんなよ。テメェらは人間様のッテェ!」
男が再び罵倒をしようとしていましたが、後ろにいた騎士たちに足の健を切られ地面に倒れ込みます。
もう一人の方もすでに縄で縛られており、捕らえられています。
「バカな!いつの間に?」
えっと、私が声をかける前から居たんですけどね。
それも隠れてる訳じゃなく堂々と立っていたんですが、まぁいいですかね。
「よし、連れていけ!消して自害させるな!」
「「はい!」」
三人いた騎士のうち二人が襲撃者の男二人を連行していき、もう一人は私の方へ近づいてきます。
「素晴らしい腕前でした!私たちが手を出す必要もなかったですかね?」
「いえ、助かりました。ありがとうございます」
騎士は柔らかい笑顔を浮かべ話しかけてくる。
どうやら当たりの騎士らしい。
この街の中の騎士は二種類います。
片や今目の前にいるような、例え平民や獣人であろうとも分け隔てなく接してくれる騎士。
方や自分が騎士であることを笠に着て傍若無人に振る舞う騎士。
悲しいことにどの街でも後者の騎士が少なからず存在しており、それはこの街でも例外ではないのです。
私も何回そういった騎士に絡まれたことやら……。
「それで申し訳ないのですが、私の主が貴女と話がしたいとのことで、お連れするように言われているのですが」
「一応伺いますけど、主って誰ですか?」
基本騎士を雇える人というのは貴族か大手の商会ぐらいです。
そのどちらにしても悪い噂が絶えない人がいるので、相手によっては拒否しようと考えてます。
もちろんそれだと騎士の人たちに迷惑がかかるので私が勝手に逃げ出したと報告してもらいますが。
「私の主はキンバリー・ローレン。この街の領主です」
「領主ですか」
騎士の人から出た名前を聞いて安心します。
領主のキンバリー様の悪い噂はあまり無いのです。
もちろん領主をする中では汚いこともしているでしょうが、街の人からも好かれている領主なのです。
と言うのも、時折護衛も付けずに町中を歩き回り屋台などで買い食いをしているらしく、よく貴族っぽくないとの話を聞きますが。
「わかりました。今からでいいですか?」
「はい、ご案内いたします」
その後は騎士に案内されて町中を歩いていきます。
しばらく歩くと明らかに立派な住宅が建ち並ぶエリアへと到着します。
ここは貴族街と呼ばれる場所で、貴族や大手の商会の会長などの金持ちが住むエリアです。
このエリアは騎士の巡回も多くここの住民以外が歩いていようものなら、即捕縛……とまでは行かないにしても色々と話を聞かされるでしょう。
そんな中を歩いていくと何人かの巡回中の騎士とすれ違いますが、数人は私の獣耳や尻尾を見て嫌悪感をむき出しにしています。
もしもこのエリアを私が一人で歩いててさっきの騎士に見つかろうものなら、問答無用で捕縛されるでしょう。
その後も暫く歩き続けると他の家よりも一回りも二回りも大きな屋敷の前へ到着しました。
「ここが領主の館、キンバリー様の館です。キンバリー様はあまり言葉遣いや態度を気にしない人なので、肩の力を抜いて大丈夫ですよ?
「あ、はい!」
さすがに貴族の人と話をするのは初めてなので緊張します。
騎士の人にそうは言われてもすぐには力も抜けないでしょうし。
ひとつ深呼吸をした後騎士の人の案内で館の敷地内へ足を踏み入れます。