ギルドと買い取り
ギルドの中に入ると沢山の視線が私に注がれます。
大抵の人は私のことを知っていますが、数人は私のことを知らないのか、ずうっと私のことを見続けてきます。
私は気にせずにギルドのカウンターへ向かいます。
ギルド内は入って左側に酒場、正面に依頼を受けたり素材の買い取りをしてもらうためのカウンター、右側に依頼書が貼られたボードが設置されています。
私が今日ギルドに来た理由はゴブリンキングの買い取りをしてもらうのと同時に、あの森にいたゴブリンキングを倒したということを報告するためです。
もしもあのゴブリンキングを討伐するという依頼が出されていてそれを誰かが受けてしまっていた場合、ゴブリンキングを見つけることができずに依頼失敗になってしまう。
そうならないようにギルドへの報告に来たのです。
「あら、リルちゃん。お久しぶり!」
この人はギルドの職員で受付嬢をしているクレアさんだ。
後ろで一纏めにしている黒い髪が特徴の女性だ。そして、ギルドの受付嬢をしている人は皆様とても美人だ。
「お久しぶりです。あの、この街の西にある森にゴブリンキングが出たって言う依頼や報告って来てます?」
「ゴブリンキング?ちょっと待ってね」
そう言うとクレアさんは水晶板の魔道具を操作し始める。
最初に見たときは近代的だと思ったのですが、どうやら私以外でも転生や転移をしてきた人はたくさんいるみたいで、昔の偉人の名を調べるとかなりの数の日本人の名前が見つかりました。
「えっと、報告が今朝早くに届けられてるわね。依頼はまだ誰も受けてはいないみたい」
その言葉を聞いて私は一安心します。これで誰かが受けていた場合はその人たちはまさしく、骨折り損のくたびれ儲けな状態になってしまうのですから。
「それじゃ、これは討伐の依頼じゃなくて調査に変える必要があるわね」
ゴブリンキングがあの一体だけだと言う保証はないので、新たに森の調査の依頼が作られます。
ゴブリンキングの討伐となると依頼はCランクになりますが、調査ならおそらくはDランクの依頼になるでしょう。
まぁ、Dランクの冒険者ではゴブリンキングと戦った場合、まず負けるのは目に見えているので受ける人は早々いませんけど。
「よし、これでいいかな?リルちゃん、悪いんだけどこの依頼書、ボードに貼ってきてもらえる?」
「わかりました!」
私は依頼書を受け取ってボード前に移動する。
ボードはランクごとにキッチリと分けられていて、そこに貼られている依頼書はまだ何枚も残っています。
空いてるスペースに依頼書を貼ろうとしたんですが……
「よいしょっ、うんしょっ!」
ボードの空いてるスペースが上の方しかなく届かないのです。
今の私の身長は百五十三しかありません。なので、どんなにジャンプをしても依頼書を貼ることができないのです。
「おら貸しな!貼ってやるよ」
暫く跳び続けていると私に声がかけられます。
男の人は四十代ほどでしたが、さすが慎重も高く軽々と依頼書を貼ってくれます。
「嬢ちゃん、ギルドの職員かい?困ったことがあったら気軽に俺達に……」
「あの!私、一応冒険者ですよ?」
男の人を話をさえぎって言います。どうやら私のことをギルドの職員だと勘違いしているようなので。
私の話を聞いた男の人と、酒場にいる数人が驚いた顔で私のことを見つめます。
確かにこんな小さな女の子が冒険者だなんて普通は信じられませんよね。
今までもこういった間違いは数えきれないほどされてきたので。
「嬢ちゃん、仲間は?まさかソロ何てことは……」
「えっと、一応ソロの冒険者です。」
「ま、まぁ依頼には色んなヤツがあるからな。多分ランクもE位だろ?」
男の人はかなり困惑しながら話を続けています。
酒場にいる人たちも男の人の声を聞いて頷いています。
「すみません。ランクはCです」
「……マジか?」
「マジっす」
かこれはもしかしてテンプレであるような展開がありますかね?
しかしそんな思惑とは違い男の人は困惑した顔のまま私を見続ける。
「まぁ、世の中には『規格外』って奴がたまに居るからな。うん。」
と、独り言を呟きながら私の前から離れていきます。
「あぁ、なにか困ったことがあったら俺に言えよ?何でも力になるから」
まぁ、そんなことはないと思うがな。と呟きながら酒場の方へ歩いていきます。
酒場からは「ま、最初は驚くよな」「フェリルって言葉丁寧だから、よく間違えられるんだよな」と、私に関して話す声が聞こえてきます。
少し時間はかかりましたが依頼書も貼り終わったので、今日の目的のゴブリンキングの買い取りをしてもらいます。
さっきのカウンターの一番右側が買い取り用のカウンターです。
そこは美人な受付嬢ではなく屈強な男の人が座っています。
女性だともっと高く買い取れ、といってくる人が多いらしいので買い取りのカウンターはこういった人が多いらしいです。
「よう、フェリル。さっき大変だったな」
「そうでもありませんよ。買い取りお願いします、フェイスさん」
買い取り専門の職員のフェイスさん。私と名前が似ていることもあってよく私のことを気にかけてくれています。
顔は怖いですけど愛妻家で有名です。
魔狼特有の嗅覚で匂いを嗅ぐと、奥さんの手作り弁当の匂いがします。
「ゴブリンキングか。解体状態もいいし腐敗も進んでない。これなら金貨三枚ってところかな?」
「やった!」
思わず大声で喜んでしまった。フェイスさんを見るとニヤニヤと笑っている。
隣の受付からも「可愛い~!」とクレアさんの声が聞こえてくる。同じように酒場からもだ。
「……換金お願いします」
「ッフ、はいよ」
この人普通に笑いやがった!
フェイスさんは金色に輝く硬貨を三枚私に手渡す。
この世界の通貨は低い順に銅貨、銀貨、金貨、白金貨、黒金貨があります。
それぞれが十枚で次の硬貨と同等の価値になります。
普通の宿屋は銀貨一枚もあれば食事ありで泊まれます。
そこに身体を拭くためのお湯と桶、タオルを頼むと料金が追加されるというシステムです。
銅貨が一枚で百円の価値で銀貨が千円、金貨が一万円、白金貨で十万円、黒金貨で百万円といった価値になっています。
「確かに!ありがとうございます!」
「フェリルよ。お前さん、ランクはあげないのか?」
そういわれて私は少し悩む。
私は今はCランクで登録されている。
ランクは下からG、F、E、D、C、B、A、Sの八つが存在しています。
今の私は全体の真ん中辺りで、ここまで来るとプロの冒険者と言われています。
確かに出来ることなら上げておきたいのですが、Bランクになると厄介な依頼方法が存在するんですよね。
その名は「指名依頼」。Bランク以上の冒険者全体に対してではなく、個人に対して出される依頼です。
基本は普通の依頼よりも報酬は高いのですが、それを行うのは貴族が多く、よくトラブルになっているらしいのです。
それを今はBランク以上には上げたくないというのが本音です。
「今のところはいいですかね。何か機会があったときに上げます」
「ま、無理強いはできねぇし、Cランクで止めてるやつもけっこうな数いるからな。気持ちはわかるよ」
無事に換金も済み、街へと繰り出す。
特に予定はないが適当に歩いて時折屋台を覗く。
「やっぱり買い食いってのは良いですね」
屋台で焼き鳥のような物を買ったり、ボアというモンスターの肉が挟まれたサンドイッチを買って食べ歩く。
私は小さい見た目からは想像できないほどに食べることができます。
一度この街主催の大食い大会に出てみたら、優勝してしまったことがあるので。
そんなこともあって私は屋台によるといろいろと買っていくので、屋台の人からよく声がかけられます。
「リルちゃん!暖かいスープ飲むかい?」
「そんなら俺は冷たい飲み物だ!よく冷えてるよ!」
「ほら!野菜もしっかり取りな!」
あっという間に私の手の中は食べ物で埋まってしまいます。
一先ず全部アイテムボックスにしまって再度一つ一つ出して食べていきます。
さてと、そろそろ裏路地に入りますかね。
さっきから私の後をつけてくる人たちとお話しするために。