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転生魔狼の異世界冒険  作者: はすか
貴族暗躍編
31/33

事後報告と頼み事

 

 ワーテル家でのパーティーの一騒動から三日が経ちました。

 あの後は私はイジェンとエルフィアが待つ宿へと戻ることとなりました。

 あそこで私が出来ることは何もなかったので、当然と言えば当然なのですがね。


 ギルドへの報告もまだしてはいません。

 貴族が仮にも犯罪者として捕まったのですから、一般の人達の混乱を避けるために報告を遅らせています。

 一応ギルドへの報告は依頼達成後、一週間以内にするように決められているので、それまでには事後処理を終わらせてくれるそうです。



「あのー、フェリル様。今から領主様の所に行くんすよね?」

「なぜ私達も一緒なんですか?」

「さぁ? 何ででしょうね?」



 私達は領主の館へ向かっているわけですが、隣にはイジェンとエルフィアも一緒です。

 私一人が行けばいいと思いますけど、三人で向かっているのには理由があります。


 あの騒動から二日後、つまりは昨日、私達が泊まっている宿屋に手紙が届きました。

 差出人はキンバリー様で、内容は『明日中に領主の館へ来てほしい。その際に、仲間達と来てほしい』というものでした。

 普通の貴族なら警戒するような内容でしたが、キンバリー様なら信頼できる相手なので、要望通り二人を連れて向かっているわけです。


 そして歩き続け、キンバリー様の館へ到着します。

 門番の人も私の顔は覚えてくれていたようで、すんなりと中に入ることが出来ました。

 イジェンとエルフィアの二人も、しっかりとキンバリー様から伝えられていたようで、何か言われることもなく中へ入れました。



 そして、もうお馴染みとなった応接室へ案内されます。

 しばらく待つと、領主のキンバリー様と帝国王子のアラン様が入ってきました。

 アラン様の後ろには以前と同じく騎士のカレンさんが付き添っています。



「さて、二人は初対面だな。私はこの街の領主のキンバリー・ローレンだ。そして隣にいるのがグランバス帝国王子のルーティアラン・グランバス殿だ。」

「気軽にアランと呼んでくれ! いやぁ、二人とも美しいな。 どうだろう? 結婚を前提につ「今回は無事に依頼を達成してくれたこと、改めて感謝する。ありがとう」……私の扱い、雑になってないか?」



 アラン様のことは置いといて、キンバリー様からあの後の話を聞きます。

 本来なら依頼を受けただけの一冒険者には知る権利もないことですが、キンバリー様は話してくださいました。


 結果としてワーテル子爵は他の貴族を暗殺しようとしたとして死罪が確定。

 現在はフォレスの街の牢屋に収容されていて、時期を見て王都へ移送される予定とのこと。

 ワーテル子爵の屋敷内を捜索したところ、様々な横領や犯罪の証拠や計画書がゴロゴロと出てきたそうです。

 また、屋敷には地下牢もあったそうで、そこには数十人の奴隷と百人近い死体が無造作に入れられていたそうです。



 そしてワーテル子爵の子息のシルバード君は、まだ十三歳で未成年であり屋敷の捜査にも協力的だったと言うこともあり、死罪は免れたようです。

 とは言っても、まず間違いなくワーテル家は貴族の地位を剥奪されるでしょうから、これからどうなるかは分かりませんが。



「まとめると、ワーテル家は取り潰しがほぼ確定。ワーテル子爵と犯罪に関わっていた者たちは死罪。シルバードは遠方の親戚の家へ行くこととなった」



 犯罪に関与した人たちは結構な人数がいたそうです。

 また、地下にいた人たちに関しては、今回は特例で希望者のみ奴隷から解放されるようです。

 希望者のみとしたのは、奴隷の中には帰る場所がなかったり、奴隷のままでいたいという人もいるからだそうです。



「しかしワーテルのやつ、私を殺すためにあの悪魔以外にも準備していたらしい」

あれ(悪魔)以外でもですか?」

「あぁ。どうやら『呪術石』なんて物も用意しようとしていたらしい。そっちに関しては盗賊に奪われたらしいがな。」



 おっと、心当たりのある魔道具の名前が出てきましたよ?

 呪術石と盗賊と言えば、私がディアさんと討伐したやつですよね?

 だからワーテル子爵……いえ、元子爵は冒険者ギルドにしつこく依頼していたんですね。



「それって私とエルフィアが捕まってた盗賊っす、っモガァ!?」



 キンバリー様たちに話そうか悩んでいたら、見事にイジェンが口を滑らせてくれました。

 エルフィアが口を塞いでくれましたが、意味はなさそうです。

 これは流石に話した方が良さそうですね。



「えっと、東の街道の盗賊ですけど、私たちが討伐しちゃいました」



 キンバリー様とアラン様の二人に盗賊たちの件を報告します。

 一応ディアさんのことも伝えましたが、私達も義賊だということ以外は一切分からなかったので、質問には答えられませんでしたけど。



「成る程な。正直な感想としてはもっと早く言って欲しかったところだが、仕方ないだろう」

「そうだな。言っていれば確実に貴族たちに絡まれていただろうしな」

「そのほとんどが財宝目当てでしょうしね」



 キンバリー様もアラン様も納得してくれました。

 これでアラン様もこの街で立ち往生せずにすみますね。


 流石にすぐに出発とはならず、騎士を派遣して盗賊たちのアジトを発見させるそうです。

 そして盗賊たちが討伐されたことを公表し、人の往来をもとの状態に戻す必要があるそうです。


 討伐した場所をきちんと伝えると、キンバリー様は騎士の人にそのアジトがあったエリアを捜索するよう騎士の人へ伝えました。

 アジトの場所を明確に伝えなかったのは、アジトの場所を明確に指定してしまうと、誰かがその情報を教えたということがばれてしまいます。

 そうなると、キンバリー様の所を頻繁に訪ねている私が疑われます。疑われるというか実際に関わっているわけですけど……。


 しかし、指定されたエリア内を捜索していてアジトを見つけたのなら、()()見つけたと言いきることができますし、他の人もそうだと思ってくれるでしょう。

 中には勘のいい人もいますが、そういう人の相手はキンバリー様に頑張って相手してもらいましょう。



「討伐が確認され次第、アラン殿は王都へ向かうということでよろしいかな?」

「そうだな。流石にそろそろ向かわなければならないな。フェリル嬢よ、感謝するよ!」



 確かに、アラン様も少なくとも一週間以上はこの街に滞在していましたからね。

 なんのために他国に来ているのかは分かりませんが、ずっとここにいるというわけにもいかないでしょうね。



「話がそれてしまったが、依頼の話に戻ろう。まずはこれだな」



 キンバリー様から渡されたのはギルドの依頼書です。

 依頼書には依頼達成の証のサインが書き込まれています。



「それと、これも渡しておくよ」

「えっと、これは……」



 キンバリー様から渡されたのは白金貨五枚。

 日本円で表せば、五十万円相当のお金です。



「あの、依頼を達成した場合のお金はギルドに依頼した際に払ってあるはずなので、ここで渡さなくて大丈夫ですよ?」

「それは分かってるわ! これは俺からの感謝の気持ちだよ」

「感謝、ですか?」



 キンバリー様曰く、依頼した内容は護衛ではあったものの、本来は対人戦を想定した依頼内容だったようです。

 しかし、実際の私の活躍は悪魔の討伐。貴族の犯罪の検挙の手伝い等、依頼を越えた活躍をしていました。


 そんな今回の功労者に、通常の依頼料だけを支払っておしまい……とは出来ないそうです。

 そんなことをしてしまえば、貴族や冒険者からの心証が悪くなってしまいます。

 それに、敵対しているであろう貴族からすれば、陥れるための手札を手にいれてしまうようなものらしいです。


 ここは素直に受け取っておきましょう。



「さて、依頼についてはこんなところだな」

「依頼についてはって、やっぱりそれ以外にも話があったんですね」

「まぁな。むしろ、こっちが本題と言っても良い」



 依頼の内容だけなら私一人が来ればいいだけですからね。

 イジェンとエルフィアの二人を一緒に呼んだ時点で、他の話があるといってるようなものですよね。



「単刀直入に言うと、お前たち三人には冒険者のランクをAランクに上げるか、A級の称号を獲得してもらいたい」

「はい?」



 予想外の依頼、というか話に驚いてしまいました。

 てっきり魔道具関連の話かと思ってました。



「って、突然言っても混乱するだけだな。順を追って話そう」

「そうしてもらえるとありがたいんですが、アラン様がいても良いんですか?」



 この街での滞在期間中でだいぶ打ち解けた二人ですが、王子と貴族という身分どころか所属している国が違う二人です。

 そんな間柄だからこそ、依頼の内容を知らせても良いのかと疑問に思ってしまいます。



「それに関しては大丈夫だ。と言うよりも、アラン殿がこの国に来た目的にも関わってるからな」

「そうなんですか」



 アラン様も頷いているので、間違いないそうです。



「でだ。なんでそんなことを頼んだのかというと、フェリルは勇者と魔王のことは知ってるよな?」

「一応は、一般的な知識の範囲でなら」



 不定期な周期で出現する魔物の変異種である魔王。

 どの魔王も例に漏れず人や獣人、エルフと言った種族に対して敵対的な存在です。

 そして何よりも厄介なのは、魔王が出現した際には世界中の魔物が強くなり、尚且つ徒党を組始めるところです。


 そんな魔王と相反する存在が勇者です。

 勇者は異世界から召喚されるというのが昔からのしきたりです。



「実は魔王が出現したという報告があがってきてな。勇者の召喚が決定されたんだ」

「今回僕がこの国に来たのも、勇者の召喚に関する話し合いが目的だったんだ」

「成る程、そうだったんですね」



 わざわざ帝国の王子が来るほどですから、よほど重要なことだと思っていました。

 確かにこれは、一貴族に任せるには重すぎる案件ですね。

 ……ん?と言うことは。



「察したと思うが今王城には勇者の召喚に賛同し、同盟を組もうとする各国の重鎮たちが集まっている」

「まず間違いなく、僕が最後だろうねぇ」



 まぁ、でしょうね。

 しかし、それは盗賊のせいなので帝国の、アラン様の落ち度ではないと思いますけどね。



「それでだ、以前から魔王が現れた際の動きに関しては粗方決めてあるんだ。魔王が現れてから決め始めたのでは民衆の被害が増してしまうからな」

「確かに、その通りですね」



 ただでさえ魔王が現れただけで魔物が強くなってしまうんです。

 戦い慣れてる冒険者や騎士ならまだしも、戦闘訓練をしたことがない人達では手も足も出ないでしょう。

 それに、フォレスの街のように壁で守られているならまだしも、通常の町や村では簡易的な丸太の壁、酷い時には壁すらないところもあります。

 そんなところなんか、魔物にとって格好の餌食になってしまうでしょう。



「でだ、その方針のなかに勇者の戦闘訓練に関することが入っているんだ。それが『騎士とAランク以上、もしくはA級の称号を持つ冒険者に勇者の戦闘技術の指南役を任せる』と言うものなんだ」

「えっと、それってつまり……」

「お前たちに勇者たちを鍛えてもらいたい、って話だな」



 え、やだ。

 確実に面倒事の雰囲気しかないです。

 といえか、何で私たちなんでしょうか?

 Aランクの冒険者ならこの国に沢山いるでしょうに。



「今回の冒険者の選考は領主の任を任されている貴族に一任されているんだ。領主であれば自分の治めている街の冒険者を把握しやすいし、よい関係を築けているだろうと言うのが建前でな」

「……本音は?」

「自分の領地にはこんなに優秀な人材がいるんだぞ、って言う牽制が目的になるな」



 でしょうね!

 いくらなんでも全部の貴族が仲良く手を取り合うなんてことはないですよね。

 そして、勇者の戦闘訓練中には他の街の領主による冒険者の引き抜き合いが始まるんでしょうね。


 正直に言うと、引き受けたくはないです。

 引き受けた場合のメリットは、キンバリー様に多少の恩を売れることと、依頼達成の報酬。

 あとは、勇者の戦闘訓練を行ったと言う箔ぐらいですかね?


 逆にデメリットは、貴族に確実に絡まれること位ですかね?

 ですが、それが何よりも面倒なんですよね……。



「まず、何で私たちなんですか? もっと適任の冒険者が居ると思うんですけど」

「確かにこの街にはAランクの冒険者が数人いるな。だが、こう言ってはなんだが、Aランクの冒険者である程度の礼儀作法を習得しているものとなるとな」

「あぁ、成る程」



 冒険者の多くは血気盛んと言いますか、口調が荒い人が多いです。

 もちろん礼儀作法がしっかりしている人もいることはいますが、そんな人はほんの一握りですからね。

 Aランクかつ、礼儀がしっかりしている人となると、随分と絞られてしまいますね。



「それに、戦闘面に関しても問題はないと判断したからな」

「私はともかくとして、イジェンとエルフィアの二人が戦ってるところなんて見てないですよね?」

「私は見てないが、私の部下が二人が戦っているところを見ていてね。部下からの報告を聞いて大丈夫だと判断した」



 二人が戦ってるところを見たって……あぁ! ギルドでの模擬戦の時ですか!

 確かにあの時には観客が沢山居ましたからね。

 その中の一人がキンバリー様の部下だったんでしょう。



「さて、どうだろう? 引き受けてくれないか?」



 本当なら断りたいところですが魔王討伐、ひいては言葉通りに世界の命運が掛かっている事案ですからね。

 イジェンとエルフィアの二人に相談しましたが。



「私たちはフェリル様の判断に従います」

「私もっす!」



 と言うことなので、少し考えたから答えを決めます。




「分かりました。その依頼、受けさせて頂きます」





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