人化の術と街
森の中の少し開けた空間。そこで今二匹のモンスターが戦っている。
「グギャギャァァァ!」
方や体長二メートルはあるかと思われる容姿が醜い人形のモンスター、ゴブリンキングが両刃の剣を獲物めがけ振り回す。
「グルルゥゥ」
対するもう片方の青い毛並みのウルフは冷静にゴブリンキングの剣を避けていく。
それもギリギリ当たらないように避けているため、疲労が溜まっていくのはゴブリンキングの方が早かった。
だが、ゴブリンキングは逃げることは一切考えていなかった。
それはゴブリン種共通の知識の低さから、自分よりも小さいウルフに自分が殺されるという考えが出てこないからだ。
暫くはゴブリンキングが剣を振るい、ウルフが避けるといったことが続けられていたが、遂にしびれを切らしたゴブリンキングが大きく動き出す。
『グギャアアァァ!』
大きな咆哮と共にウルフめがけて突っ込んでいく。
対するウルフはそんなゴブリンキングを見据えて動かない。
そんなウルフを怯えて動けないと判断したのか、獰猛な笑みを浮かべて剣を力一杯叩き付ける。
流石にキングの名を付けられるだけありその一撃は凄まじく、叩きつけられた地面には小さなクレーターができ砂ぼこりが舞う。
ようやく食事にありつけると剣を叩きつけた部分を手で探るゴブリンキング。
だが、そこにウルフの姿はなく首をかしげる。
「グギャ?……ッガァ!?」
突然のゴブリンキングの叫び声。
その喉元には先程のウルフが噛みついている。
ゴブリンは引き剥がそうとウルフへ手を伸ばすが、首の骨が損傷を受けたのか力が入らない。
そしてゴキンという音と共にゴブリンキングは意識を失った。
「ウオォォォォン!」
勝者であるウルフは勝利の雄叫びを挙げる。
そしてゴブリンキングを引きずり、移動していった。
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あれから二十年が経ち魔狼の身体と女性になってしまったという現実にも慣れました。
二十年のうちにこの森の様々なモンスターと戦い勝ち続け、ついにはこの森のボスとまで呼ばれるようになりました。
そしてさっきはこの森に突然現れたゴブリンキングというモンスターを倒しました。
あいつ、手当たり次第に他のモンスターや動物を殺し、喰いまくっていたのです。
流石にこのままでは森の生態系が壊されると判断し私が討伐に行ったのです。
二十年も過ごしてると自然と話し方も一人称も変わりましたが、特に違和感は感じてません。
あれからレベルもかなり上がり、今ではレベルも四十三まで来ました。
この世界では一般的な村人のレベルは平均五、一人前と言われるCランクの冒険者が二十~二十五、そして国王に仕える騎士団の人達で三十と言われています。
そこまで聞くと敵なしかと思われますが少し違います。
この世界はレベルだけでなくスキルが同じくらい大切になってきます。
例えばここに二人の男がいたとしましょう。
片方はレベルが十でスキルは一切なく、もう片方もレベルは十ですが剣に関するスキルを持っています。
この二人が同じ剣を使って戦うと後者のスキルを持っている男が確実に勝ちます。
つまりこの世界ではレベルとスキル、この二つが両立してこそ初めて個人の強さとなるのです。
なのでレベルが低くても強力なスキルを持っていたら強いですし、逆にレベルが高くてもスキルを持っていなければ脅威にはなりません。
さて、ようやく私の住みかである洞穴に来ました。
そこは一見奥行きは三メートル位しかないように見えますが、奥の壁へ突き進んでいくとすり抜けることができ、その奥が私の家となっているのです。
『さて、解体を始めますか』
そして人化の術で人の姿になる。身体が光に包まれた後、そこには十五才くらいの青い髪と紅い眼、そして青い獣耳とふさふさとした尻尾が特徴の女の子がたたずんでいる。
はい、もちろん私です。
しかし、人化の術は身体を人の姿に変えるだけで服までは出してくれないため、私は裸の状態です。
「寒いですね。『起動』」
私は首に嵌められている首輪に触れながらキーワードを唱える。
すると一瞬で私は服を着た状態になる。
これは私が[魔道具作成]で作り出した『着衣の首輪』というマジックアイテムです。
装着者の『起動』の掛け声と共に指定した服を自動的に着せる効果があります。
今の服装は黒いショートパンツに白いTシャツ、更に青いパーカーを着ています。勿論下着も着用済みです。
ちなみに、この服は魔力で作られているので汚れてもすぐに綺麗にできます。
ちなみに、何故人化した姿が十五歳ぐらいなのかと言うと、そのぐらいの年代の身体の方が不思議と身体に馴染んだからだ。
それ以上でもそれ以下でも不思議と動きがぎこちなくなってしまったのだ。
「まぁ、もうこの姿のほうが慣れましたしね」
そう一人呟きながら先程倒したゴブリンキングの解体を進めていく。
「えっと魔石を取り出して、皮を剥いでっと。確か肉も美味しくはないけど売れましたよね」
洞窟の中はたくさんの部屋があり、各部屋には[魔道具作成]で作り出した照明や冷蔵庫、エアコンといった近代的な物が置かれている。
そんな中の一室である小さな泉がある解体専用の部屋で私は解体を続ける。
三十分ほどで解体も終わりアイテムボックスに入れる。
そして小さな鞄を背負い外へ出る。
時間としてはお昼前辺りだろうか。太陽は真上に昇っている。
「それでは、行きますか!」
私は走り出す。山の中は木が多く、地面は石や木の根っこなどでデコボコしているが、私はスピードを落とすことなく走り続ける。
暫く走ると鋪装された道にたどり着き、そこからは道に沿って走る。
そして走り続けること十分。遠くに壁に囲まれた大きな街が見えてくる。
私はその街を目指し走り続ける。
途中で商人が乗っているであろう馬車や、依頼を終えて街へ帰るのであろう冒険者の姿が目立ち始める。
そんな彼らに挨拶をしながら街へ進む。商人や冒険者の殆どは私のことを知っているので気軽に挨拶をしてくれる。
そしてついに街へ入るための門へ到着する。
門の前には馬車が五台ほど並んでいたが、それほど時間が経たずに私の番が回ってくる。
「はい次は、フェリルか。久しぶりだね」
「お久しぶりです」
「それじゃギルドカードを確認するね。……よし、入って大丈夫だよ」
「はい、ありがとうございました」
勿論門番も私のことを知っているので気軽に話すことができる。
ちなみにフェリルと言うのは私の名前だ。
北欧神話に登場する狼の化け物である『フェンリル』を少し変えたものだ。
よく人には『フェリル』とそのまま呼ばれたり、『リル』と愛称で呼ばれている。
私は獣耳や尻尾が生えているが、この街の人たちの殆どは偏見もなく接してくれる。
……まあ中には私のことを『ケダモノ』や『人間様のペット』と蔑んでくる人も居るのだが。
また、私が着けている首輪を見て奴隷だと勘違いしてくる人もいる。
まぁ、それでも大抵の人が私を庇ってくれるのでそこまで不愉快な気持ちにはなりませんが。
そうこう考えているうちにとある建物の前に着いた。
そこは周りと比べると大きく、看板には盾とその前を交差する剣が書かれている。
ここが冒険者の人たちが依頼を受けたりする冒険者ギルドだ。
私は両開きの戸を開け中に入っていく。